キャスリン王女
エドガーが北へ旅立って一週間後。私は早くも王宮へ参上していた。
(お父様が頑張ってくれて、なんとか結婚式までという約束になったし、王宮に住むのではなく通いでよくなった。この間にちょっとだけ聖女のお仕事をすればいいのよね)
入り口のホールで待っていると、侍従長のローガンがメイドを一人連れてやって来た。
「お待ちしておりました、アイリス様。アンドリュー王子からお話は伺っております。わからないこと、また何か必要な物などございましたら、こちらのキャスリン王女付き侍女、マチルダにお申し付け下さい」
「はい。よろしくお願いしますね、マチルダさん」
「マチルダ、とお呼び下さいませ、アイリス様」
若く可愛らしい侍女はペコリと頭を下げて微笑んだ。
「キャスリン様は先月十歳になられたばかりです。家庭教師の先生方が五人いらっしゃいまして、毎日午前中に授業をお願いしていますので、アイリス様には午後の息抜き、遊び相手をとアンドリュー様から言われております」
家庭教師兼、なんて言っていたけど遊び相手がメインじゃないの。まあそのほうが気楽で良かった、とホッとする。
「わかりました。キャスリン様のお好きな遊びはどんなものですか?」
するとマチルダは少し口籠もった。
「ええ、それが……空想遊びがお好きで」
「空想遊び?」
「はい。見えないお友達と遊ぶのが日課となっておりまして。あまり、私たちとはお話しして下さらないのです」
「そうですか……」
そういえば前世の私は幼い頃から小さな妖精たちが見えていて、いつも楽しくお喋りしていたっけ。そうしたら、一人で喋っている変な奴だ、って村の子たちにいじめられて。妖精がいるんだと言っても誰にも信じてもらえず、辛い思いをしたことがあった。今世ではもちろん、そんなことにならないように気をつけていたから大丈夫だったけど。
「キャスリン様。新しい先生がお見えでございます」
マチルダが部屋をノックするが返事はない。
「返事はなさいませんが、入っても構いませんので」
中に入ると、窓辺にままごとセットを置いて誰かをもてなしている様子の王女がいた。アンドリューと似た面差し、美しい金髪と翠の目を持つ可愛らしい少女だ。
「キャスリン様、本日からキャスリン様のお相手を仰せつかりました。アイリス・ホールデンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
キャスリンは私に視線を向けるとしばらくじっと観察していたが、ふいっと顔を背け、またおままごとに戻った。
「アイリス様、キャスリン様はこちらの言うことは理解していらっしゃいます。どんどん話しかけてみて下さいませ」
マチルダが小声で囁く。
「わかったわ。では私、キャスリン様とお話ししてみますから、二人きりにしていただけますか」
「わかりました。何かご用がございましたら、このベルを鳴らして下さいませ」
マチルダが一礼して退室すると、早速私はキャスリンに話し掛けてみた。
「キャスリン様、花の妖精たちとお友達でいらっしゃるんですね」
するとキャスリンはパッと振り向いて輝くような笑顔を見せ、弾んだ声で言った。
「まあ! スージィやメルルが見えるの?」
「ええ。水色の髪と、ピンク色の髪の可愛い女の子たちですね」
「そうなの! 小さい頃から私の側にいてくれたお友達なのよ! この二人は双子なの。ああ、二人も喜んでいるわ」
「よろしくね、スージィにメルル。私はアイリスよ」
妖精たちは羽を広げて飛び回り、お話できる人間が増えて嬉しい、と言っている。
「アイリス、嬉しいわ! 今まで誰も私のお友達を信じてくれなかったの。だから、私ずっと寂しかった」
「そうだったんですね。キャスリン様、私も小さい頃から妖精たちが見えていたので、お気持ちはよくわかります」
「私は大事なお友達にお茶を振舞っているだけなのに、幽霊と話してる、なんて言う侍女もいて。マチルダとアンドリューお兄様だけはそんなこと言わずにいてくれたの」
「キャスリン様の遊び相手にと私を推薦したのもアンドリュー様ですよ」
「やっぱり! お兄様ならわかってくれてるもの。ねえアイリス、みんなでお茶を頂きましょう? 美味しいお菓子もあるのよ!」
そして私たちは午後いっぱい楽しく遊んだ。妖精たちは歌い踊り、それに合わせてキャスリンもよく笑い、遊び疲れて眠ってしまったほどだ。




