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前世は大聖女でした。今世は普通の令嬢として、泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!  作者:
本編

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13/63

キスの難易度

 翌日、私は午前中に使いを出し午後にラルクール家を訪問した。ところが訪ねてみると邸内がやけにバタバタしている。


「アイリス!」


 エドガーが客間に入って来た。彼もなんだか慌てているようだ。


「突然訪問してごめんなさい、エドガー。今日はお忙しいの?」


「ああアイリス、私も君を訪ねて行こうと思っていたからちょうど良かったんだ。実は、急に辺境勤務を拝命し、北へ移動することになってね。しかも今日からだ」


「ええっ、辺境へ? どうして? 辺境って平民の騎士が守るところじゃないの?」


「アンドリュー殿下から直々のお達しでね、辺境師団の副団長としての任務に就くことになったんだ。そこまで信頼していただけたとはありがたいことだ」


(アンドリューの差し金ね……!)


 もちろん辺境といえど師団長と副師団長は貴族が務めるし名誉ある職だ。しかしエドガーはまだ初任務を終えたばかりの新人騎士。異例の出世と言えるだろう。アンドリューが無理矢理ねじ込んだに違いない。


「それで……今日からいつまでなの? だって私たち、八ヶ月後には結婚するのよ?」


「アイリス、そうなんだよ、おそらく三年は向こうにいることになる。だけど騎士としての任務を断るわけにはいかない。結婚したら一緒に辺境に住むことになるけれど……それでも私と結婚してくれるかい?」


 不安の色を瞳に浮かべエドガーが私を見つめる。


「もちろんよ、エドガー。私はあなたといられるならどこだっていいの。だけど、これから結婚までの八ヶ月、離れているのは辛いわ……」


 エドガーはそっと私の肩に手のひらを置いた。抱きしめてくれてもいいのに、二人の身体の間はきっちりと空いている。


「私も辛いよ、アイリス。三ヶ月だって辛かったのに、その倍以上離れるなんて。でも時々は休暇も取れるから必ず帰ってくる。だから待っていて」


「エドガー……」


 私は涙を浮かべ、エドガーを見上げる。二人の目が合い、そのまま見つめ合う。


(もしかしたら、今がチャンスかもしれない。とてもいい雰囲気だもの)


 私はそっと目を閉じて彼からのキスを待ってみた。エドガーの手に力が入る。そして、顔が近づいてくる気配がする。


(ついに! ついにこの時が……)


 しかしエドガーは私の頬にそっとキスをすると、私を腕の中に抱き締めた。


「アイリス、君が愛しくて……結婚前だというのにいけない気持ちになってしまった。こんな私を許してくれ」


「エドガー、違うの……!」


 だがエドガーには私の声は届かず、心底反省しているようだ。そっと私から身体を離して真っ赤な顔を隠すように横を向いてしまう。


「私は、君を本当に大事に思っているんだ。だから結婚するまで我慢するよ。怖がらせただろう、済まない」


(怖くないんです! むしろ待ってたの! お願い、エドガー、勇気を出して……!)


 しかし私から離れたエドガーはグルッと部屋の中を一回りし、気を落ち着かせてから戻ってきた。


「アイリス、もう行かなくちゃならない。君のために頑張ってくるよ」


 時間が無いのか、焦っている感じのエドガー。私は気になることを一つ聞いてみた。


「エドガー、北の辺境にはテオドア団長は一緒に行くの?」


「いや、団長は王宮の騎士団本部にいるからね。北には行かないよ。なぜ?」


「ううん、別に」


 良かった。それならばエドガーにまた加護を与えられる。


 私はエドガーの手を取りギュッと()を込めた。八ヶ月間無事であるように。


「エドガー、気をつけて行ってらっしゃいませ。無事のお帰りをお待ちしております」


「ありがとう、アイリス。また勇気が漲ってきたよ。私には君の言葉が一番の力の源だ」


 そして私はエドガーに見送られて馬車に乗り、ホールデン家に戻ったのだ。


(エドガーは堅物だとわかってはいたけど……やっぱりこうなっちゃうわよね。待ってないで自分からキスしたらよかったのかしら? ああでも、それって、とてもはしたないことよね……)


 古い時代の乙女には、自分からキスを求めるのはとてもとても難易度が高いことなのであった。


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