五、奇人ケプラー
昔から「事実は小説より奇なり」と言うが、
まさか、例の仮説が立証されるとわ……。
しかも、あの男性が……。
これは間違いなく私の黒歴史になる……。
その後、事故処理は規則通り進められ、速度超過が原因であることは判明した。
しかし、大型バイクが信号機に引っかかった事象は解明できず、
結局、実況見分調書は保留となり、あの写真も含めて科捜研へ回された。
それから数か月後、うだるような猛暑も影を潜め、
季節は木々が色好き始める秋へと確実に移っていた。
そんなある日のこと、分駐所で私が溜まっている書類整理をしていると、
中島が泡を食って部屋に駆け込んで来た。
「じゅ、巡査部長! た、大変です!」
「何をそんなに慌ててるんだ。落ち着いて話してみろ」
深呼吸した中島は息を整えてから言った。
「わかったんですよ」
「何が?」
「例の信号機に引っ掛かバイクの謎がわかったんです!」
「なにっ、それは本当か?」
肯く中島は興奮気味に言った。
「夏に科捜研に依頼した接触事故の解析結果が届いたんです!」
中島によると、報告書ではバイクが高さ地上五メートルの信号機に
引っ掛かた原因は以下の通りだった。
- 急制動によるバイクの前転
- 車との衝突による上方向への力の変換
- バイクの質量と角度が偶然一致
- その結果、信号機の高さまで“射出”された
「それって、あの男が言ってたのと同じじゃないか」
戸惑う私に、中島は追い打ちを掛けるように続けた。
「さらに驚くのが、アスファルトに書かれていた数式が
この“射出”現象を見事に表していると、
科捜研が絶賛しているんですよ」
「確か、“カタパルトに似た現象”って言ってたよな?」
「ええ、言ってましたね」
「……」
絶句する私に、中島は何も考えずにクリティカルヒットをかましてきた。
「でねっ、鑑識の上野主任曰く、“あれが奇人ケプラーだったのか”って、
いろいろ武勇伝教えてもらいました」
それなら、私も知っている。
八王子の人体発火事件や江東区のポルターガイスト騒動など、
数々の不可解な難事件を物理学の観点から鮮やかに解明して捜査に協力。
その功績から幾度となく警察から感謝状が送られた人物だ。
その名も「T都大の奇人ケプラー」こと遊川 勉教授。
物理学において世界的権威であり、
有力OBの久佐薙元警部の親友かつ
現警察庁特別官房参事官の宇津見警視の相談役とも噂されている。
私は思わず天を仰いだ……。




