■第7話「連鎖」
崩壊は、一点から始まる。
だが。
広がる時は、一瞬だ。
ひとつのズレが、別のズレを呼び。
そのズレが、さらに別のズレを生む。
やがて。
それは制御できない連鎖になる。
⸻
久我玲司のモニターに、次々と異常が表示されていた。
ひとつではない。
二つでもない。
複数。
同時に。
「……増えている」
小さく呟く。
さきほどまで、単発だった異常。
それが、連続して発生している。
「修正」
即座に操作する。
アルゴリズムを再調整。
優先順位の再構築。
だが。
「止まらない」
ひとつを修正すれば、別の場所で発生する。
まるで。
「連動している」
それぞれが独立した問題ではない。
繋がっている。
⸻
別の画面。
検索結果の変動。
本来なら上位に来るはずの情報が、下がる。
代わりに。
関係のない情報が上がる。
「……なぜだ」
原因が特定できない。
ログは正常。
処理も正常。
だが。
結果が正常ではない。
⸻
街の中。
雨宮澪は、少しだけ足を止めた。
周囲の会話を聞く。
「最近さ、検索しても変な結果出ない?」
「分かる」
「前と違くない?」
小さな声。
小さな違和感。
だが。
「広がってる」
澪は小さく笑う。
「いいね」
それは、情報ではない。
体験だ。
だからこそ。
止められない。
⸻
白鷺悠真は、静かに頷いていた。
「違和感は、共有される」
小さく呟く。
人は、言葉にできないものでも。
共感する。
「そして」
少しだけ笑う。
「それが、一番強い」
⸻
黒鉄蓮は、再び同じ人物と対面していた。
「どうだ」
短く問う。
相手は、明らかに疲れている。
「……おかしい」
小さく言う。
「全部、おかしい」
その言葉を聞いて、蓮は静かに頷く。
「どこがだ」
「分からない」
頭を押さえる。
「でも、ズレてる」
その瞬間。
確定する。
崩れている。
⸻
如月玲は、レギオン本部でモニターを見ていた。
「……来た」
小さく呟く。
数値が、大きく動いている。
「連鎖してる」
氷室が頷く。
「一箇所の異常が、他に波及している」
「止められるのか」
堂島が言う。
「難しい」
如月は即答する。
「これは、構造の問題」
神崎が続ける。
「心理的にも、同じ現象が起きています」
「どういうことだ」
「一人が違和感を持つと、それが周囲に伝播する」
鷹宮が静かに言う。
「……連鎖か」
⸻
神代昴は、静かにその全てを見ていた。
「始まったな」
小さく呟く。
臨界点を越えた。
あとは。
「止まらない」
わずかに笑う。
この段階に入れば。
制御は不可能。
⸻
時任紗那は、ログを更新する。
「連鎖、確認」
入力する。
成功率が、一気に上がる。
「最終段階へ移行」
⸻
久我玲司は、モニターを見つめていた。
異常は止まらない。
修正しても。
対応しても。
必ず、別の場所で発生する。
「……なぜだ」
小さく呟く。
理解できない。
原因が分からない。
それが、最も危険だった。
⸻
さらに。
新たな異常が発生する。
SNSの表示。
広告の内容。
推薦される情報。
すべてが。
わずかにズレる。
「……」
久我は、初めて黙る。
そして。
気づく。
「……これは」
ただの誤差ではない。
システムの問題でもない。
「人間か」
その結論に至る。
⸻
人が、ズレている。
認識が。
判断が。
選択が。
すべてが。
「制御できていない」
⸻
その瞬間。
久我玲司は、初めて理解する。
自分の支配が。
完全ではなかったことを。
⸻
連鎖は、止まらない。
ひとつのズレが。
次のズレを呼び。
それが。
さらに広がる。
⸻
そして。
その中心には。
誰もいない。
⸻
ただ。
人間の誤差だけが。
世界を壊していく。




