第7話 強襲
本来なら索敵用ドローンネットワークから排除された存在である資源回収機も近距離であれば視界をジャックして監視カメラ代わりに使える。いわゆる裏技と呼ばれる類のものだ。路傍の石と捨て置かれている資源回収機を戦闘に利用することはあまり推奨されない。脅威だと認識されては発見され次第、駆逐されてしまうだろう。それは兵站に大きな影響を与える利敵行為だ。それでも前線では往々にしてこのような裏技は黙認され、多くの兵士たちの命を救ってきたのも、また事実だった。
資源回収機の視界を経由して視た光景は森の中を進む装甲戦車型と垂直離着陸型の群れ、それに一際目立つ赤黒い機体、高機動突撃型だった。
「マズイですね。ロリポリにホーネットが多数、それにマンティスまでいる」
『まったく、クルスは告死天使のようだな。俺たちの魂を救ってくれよ』
『もう、あなたは助けられたじゃないですか』
『いやいや、この時のために生かされたのかもな』
垂直離着陸型は交差反転式ローターを採用したシンクロプターと呼ばれる機体だ。空中を高速で飛び回り、ガトリングガンとミサイルの雨を降らせる。だが、森の中では鬱蒼と茂る木々が邪魔でその真価を発揮できないのだろう。プロペラを畳んで装甲戦車型に掴まって移動していた。
高機動突撃型は多くの同胞を葬り去ってきた恐ろしい存在として知られている。極限まで削ぎ落とされたシャープなフォルムは装甲を犠牲にした結果、高い運動性能を獲得した。アサルトライフルで中距離、腕に畳んで格納されている高周波ブレードで接近戦を戦う。どんな状況にも対応できる万能型だ。そして最も特徴的な装備は背中に装着されている槍状のドローンだろう。翅のように広げて四方に撃ち出すと、地面に埋まって半自動の砲台として機能する。どこであろうとも有利なエリアを形成する機能を持っていた。
「ホーネットに飛び回られると厄介ですね。できれば飛び立つ前に倒したい」
『本当にお前はブレないな。それなら俺たちで背後からひと当てした後、コイツのミサイルで飽和攻撃といくか』
『コイツじゃなくてフィエーダです。敵の足を止めてくれれば、効果は上がるでしょう』
「マンティスは釣り出しましょう。ロリポリの移動速度なら孤立を誘えるかもしれません」
『了解だ。まあ、無理はするなよ』
『そうですね。主力は本隊なんですから』
コックピットの中でクルスはしっとりと汗をかいた手を見つめた。緊張を解きほぐすように何度か手を握りしめては広げて感触を確かめる。頭が冷えていくのを感じる。頭上から全てを見下ろしている感覚だ。何もかも見えている大丈夫だと自分に言い聞かせる。万能感と過信の絶妙なバランスの中で機体を前に進ませた。
障害物の陰に隠れながら敵の後を追う。反応は近い。もう視界に入るだろう。バトバヤルにハンドサインを送って飛び出した。突撃型が動きの悪い左手を支えにアサルトライフル撃ち始める。翅を休めている垂直離着陸型はいい的だった。七面鳥撃ちのように簡単だ。次々に火を噴き、地面に落ちていく。
木々の間を縫って近づいたクロイツェルはワイヤーアンカーを大木に打ち込み、急激な方向転換をする。追いかけてきた弾丸は木々を吹き飛ばしたが、機体の姿はすでになかった。逃げ回りながらレーザー照準で敵をロックしていく。じれた敵は障害物に囲まれているにも拘らずミサイル発射口を開いた。ブーストの噴射で機体を横滑りにしながら、ハンドガンの引き金を引く。弾頭を打ち抜かれたミサイルが装甲戦車型の機体内部で爆発を起こした。
『オイオイ、曲芸師紛いの腕前だな!?』
「無駄口は後で聞いてやる。フィエーダ、ロックした対象に攻撃を」
『は、はい。巻き込まれないように気を付けてくださいね』
フィエーダの機体のポッドから糸を引くように数十発のミサイルが一斉に発射された。空中から降り注ぐミサイルが的確に垂直離着陸型を破壊していく。敵の別動隊は半壊した。視界を巡らせて残っている敵を探す。燃え上がる炎の中から特徴的な細いフォルムの機体が現れた。
「バトバヤル、退け! ヤツだ」
『悪いな。もう逃げているよ!』
「目敏いヤツだな。マンティスを引っ張り出すぞ」
『早く逃げてください。もう真後ろですよ!』
フィエーダの悲鳴のような通信が耳を突き刺した。ブースターを吹かせてサイドステップで横に跳ぶ。ライフル弾が機体をかすめた。精確で的確な射撃。高機動攻撃型にはエースパイロットが乗るという噂は真実らしい。味方に大きな損害を与えてきた存在だ。相手にとって不足はない。
ワイヤーアンカーとブーストを駆使して複雑な軌道を描くが、つかず離れずで追ってくる。本気で逃げてこの様だ。死地に誘導するために手負いを演じる必要もない。それでもこのまま進めば、森を抜けるまでは生きていられるだろう。
高機動攻撃型が狙いを変えた。直接、機体を狙わず、ワイヤーアンカーを打ち込んだ木を狙う。ワイヤーのテンションが失われた。崩れた機体のバランスをブーストで無理矢理に立て直す。地面を這うように滑った先に森の切れ目が見えた。
『流石、いい逃げっぷりだったぜ!』
「言ってろ」
『敵、ポイントに入りました。攻撃を開始します』
フィエーダの機体から退路を断つようにキャノン砲が発射され、ガトリングガンが弾を撒き散らした。面で圧倒し、線で仕留める。たった一機に対するには過剰な火力だ。だが、それも高機動攻撃型には届かない。踊るようなステップを踏み、降り注ぐ弾を回避した。地面をえぐる弾が雨音のように響く。
『くそっ、この火力で落ちねえのかよ』
「仕方ない、プランBだ。バトバヤル、俺たちで挟む」
『出番は必要ねえんだがな』
『射撃、終了します。気を付けてください』
土煙が晴れた先に赤黒い機体が堂々とした姿で立っていた。逃げ隠れする必要性を感じないのか。エースの貫録を見せつけられて若干気圧される。それも一瞬の戸惑いだ。迷っていればそれが死を意味することをクルスは本能的に知っていた。
クルスとバトバヤルの機体が前後を挟み、一定距離を保ちながら円を描くように攻撃を行う。アサルトライフルは脅威だが、ハンドガンの火力では軽装甲の高機動攻撃型さえも撃ち抜けない。大した脅威ではないと早々に見抜かれて捨て置かれる。
『ヤバい、圧が凄えよ。ちょっと助けてくれ!』
「火力がないのを見抜かれたな。接近戦を挑むしかない」
『何でもいい、早くしてくれ。でないとお前の友人がひとり減るぞ』
この程度の軽口で表情が緩んでしまう。我ながらチョロイと言われても仕方ないとクルスは深く息を吸い込んだ。息を止めるとブーストを最大出力にして一直線で高機動攻撃型に肉薄した。敵も腕に折り畳んでいた高周波ブレードを展開して迎え撃つ。
ワイヤーアンカーを高周波ブレードが弾いた。リーチでは相手が上だ。近付くための手段は限られている。そしてそのどれもを見抜かれていた。バトバヤルの援護射撃があっても結果は変わらない。壁を打ち破る何かが必要だった。
狙いの外れた空中にワイヤーアンカーが撃ち出された。プレッシャーに負けたことを嘲笑うように敵がライフル弾を返す。地面を蹴って低く跳ぶと共にハンドガンを一発撃った。狙いは敵ではないアンカーだ。弾かれたワイヤーアンカーの先は軌道を変えて敵の右腕に巻きついた。
「捉えたぞ」
ワイヤーにテンションをかけながら敵を振り回した。糸で結ばれたアメリカンクラッカーのようにぶつかり合い弾かれる。刹那の攻防が続くが、どちらも決め手を欠いていた。その時、高機動攻撃型の高周波ブレードが右腕を斬り落とす。クロイツェルのそれではない。ワイヤーの絡みついた自らの右腕だった。




