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ブレイクデイズ ~世界の終わりに僕たちは生きる~  作者: Jint
第1章 足跡は赤く染まる

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第20話 迎撃


 作戦目標となる敵基地の手前10km地点に味方部隊が集結していた。渓谷を抜けたクルスたちは定刻通り本隊に合流する。メインディッシュはこれからだが任務放棄による罰金からは逃れられた。途中の道程は色々と綱渡りだっただけに、少しだけ肩の力が抜ける。ここからは数に任せた大規模戦闘だ。無理をせずに戦績を稼げば、それで任務は終わるだろう。


《本体への合流を報告してください。記録に残さなければ、報酬を取り損ねますよ》

「そうだな、クロイツェル。ヴァレリアはもう着いている?」

《はい、南西エリアで部隊をまとめているようです》

「なら、そこに合流しよう。通信を繋いでくれ」

《――C34、C34、こちらA91、どうぞ》


 指向性のレーザーを使った短距離通信。傍受の心配はないが、視界の範囲内でしか届かない代物だ。それでもこの状況下では必須のツールと言える。奇襲を成功させるためには、部隊の存在が露呈するような愚は犯せない。敵に接近を悟らせる危険性のある行為は極力排除すべきだ。


『――A91、遅かったじゃない。でも、デートの時間には間に合ったようね』

「遅れるわけにはいかないからね。どこに行けばいい?」

『新兵らしく大人しく後方で待機してて』

「今日はあまり稼げそうにないかな……」

『生き急がなくてもモラトリアムを楽しめばいいのよ。私が養ってあげるから』

「残念だけど、あまり魅力的な生き方に思えないな、僕には」

『ふふっ、素直に頷いていたら、部屋から速攻で追い出していたわよ』


 ヴァレリアが難儀な性格であることは薄々勘付いていた。パートナーを蕩けさす甘い言葉を吐きながら、いたるところに罠を仕掛けて待っている。甘やかして男をダメにするタイプとは真逆だが、常に気が休まらないのも考え物だ。こんな駆け引きを楽しめるような器の大きさを身に着けるにはどうすればいいのか、クルスは途方に暮れた。


「バトバヤル、フィエーダ、ヒョウカ、僕らは後方待機だ」

『まっ、しゃあねえわな。俺たちの階級なんざ、まだゴミだしな』

『集結地点にたどり着いていない仲間もいますからね。まだマシですよ』

『そ、そうですね。彼ら、どうしたでしょうか』

「ドローンとの接続は?」

『この距離ですからね。とっくに』

「まあ、退却したか撃墜されていれば、いいんだけど。心配をしてもしょうがない。僕たちは任務に集中しよう」


 仲間たちから了解の唱和が届いた。とはいえ割り当てられたエリアは後方だ。作戦開始まで大人しく周辺を索敵しながら、じりじりと時間が過ぎるのを待つしかなかった。こういう時は索敵ドローンが欲しくなる。使い捨ての設置式なら安い物だが、自立式でAIを積んでいるとなると、途端に値段が跳ね上がる。支援攻撃用と併せて人気のパーツだ。いつかは購入したいが、この分だとまだ先の話になるだろう。何せ今回は地雷を撒いたぐらいで、敵を全く倒していない。任務達成報酬以外のボーナスを受け取れる気がしなかった。


『こっちまで獲物が回ってくるかねえ?』

『前線はそれなりに固めているでしょ。こちらに抜けてくるようなら、もう負け戦よ』

『そうですね。前線の部隊は精鋭揃いですし、私たちは遊軍といったところでしょうか』

『まあ、戦闘になったらなったで困るだろ。愛玩人形(ドール)ちゃんは、よ』

『もうっ、その呼び方、気に入っているんですか?』

『他人の神経を逆撫でするのに定評があるのよ、コイツは』

『チッ、うるせえなあ。ちゃんと戦えたら、名前で呼んでやるよ』

『約束ですよ、バトバヤルさん。忘れないでくださいね』

『私の機体に乗っていれば、移動の心配はしなくていいわよ、ヒョウカ』

『ありがとうございます、フィエーダさん』

『他人行儀ね。呼び捨てでいいわよ、ヒョウカ』

『えっ、あ、はい。フィエーダ、よろしくお願いします』

『いっそのこと複座にしちゃおうか。その方がお互い役割に専念できるでしょう?』

『それは、願ってもない申し出ですが。私、無一文どころか、借金を抱える身で……』

『大丈夫。私たちの隊長がしっかり稼がせてくれるから』

『おい、クルス、ヤバいぞ。フィエーダが取り込まれちまった』


 第一印象こそ最悪だったが、窮地を切り抜けてヒョウカは仲間から一定の信頼を得たようだ。特にバトバヤルは他人に遠慮などしない性格だ。ヒョウカに見切りをつけたら、さっさと切り捨てるだろう。彼女の存在意義を認めているからこそじゃれ合っている。ゆっくりと、そしてしっかりと、絆が結ばれていくのを感じた。


《クルス、攻撃開始の時間です。準備を》

「オーケー、クロイツェル。こちらの準備は万端だ」

《カウントダウン、3、2、1、――攻撃開始(オープンコンバット)


 支援型(サポート)機体からの飽和攻撃が始まった。キャノン砲は絶え間なく火を噴き、ポッドから放たれたミサイルが敵基地に雨霰と降り注ぐ。奇襲によって防衛戦力の三割は沈黙した。間髪を容れず、味方部隊の進軍が始まる。100機近い機体が一斉に走り出す様は圧巻だ。土煙がもうもうと舞い上がり、視界が塞がれる。やがて前線の部隊が接敵した。


 綺麗に揃った前線では機動力を活かした機体の見せ所は少ない。砲台と障壁に守られた機体からの制圧射撃はすり抜ける隙さえ与えてくれない。ここからは互いに身を隠しながらの銃撃戦となる。焦れて飛び出した機体は蜂の巣となり、不用意に身を乗り出した機体は狙撃の的となった。じりじりとした時間だけが流れる。まったく動かない状況に部隊の指揮を執っていたヴァレリアはイラついていた。


地中貫通爆弾(バンカーバスター)の発射地点まであと少しよ。パチャラ、もっと火力を集中して』

『ヴァレリア隊長、焦ったところで上手くいかねえよ。しばらく撃ち合いを続けましょうぜ』

『くそっ、もたもたしてたらアイツに先を越されるだろうが!?』

『それで部隊を損耗させちゃ、本末転倒でしょうに』

『うるさい、お前は何だ? 私の副官ではなかったか?』

『ああ、嫌ですねえ。女のヒステリーってヤツは。ようやくパートナーができたっていうのに捨てられますよ』

『……お前はいつも一言多い。口さえ開かなければいい男なんだがな』

『俺は隊長のパートナーに同情しますよ』


 その時、後方で大きな爆発が起こった。包囲網を敷いていた敵部隊がタインたちを追撃してここまでたどり着いたのだ。散々逃げ回った挙句、味方部隊の位置を教え、合流することなく撃墜された。タインが生き残っていたとしたらいい面の皮だろう。挟撃を受ければそれなりに被害も出るだろう。


『運がいいな、クルスは』

『何かいいましたか、隊長?』

『いや、なんでもない。後方に現れた敵は遊軍に任せろ』

『アイツらだけで大丈夫ですかい? 新兵ばかりですぜ』

『誰にでも機会は与えないとな。保険は打たせてもらうが』

『まあ、隊長が誰を贔屓しようが、俺は口を出しませんがね』

『こ、これは現状の戦力に基づいた公平な判断であって、だな』

『へいへい、我々は目の前の敵に集中しましょうや』


 どんな理由や経緯であっても命令が下されれば、兵士は従わなければならない。ヴァレリアから連絡を受けたクルスたちは迎撃のために本隊を離れた。自ら撒いた種だ。マッチポンプと言われようが、落とし前をつける機会が回ってきたのは幸運だ。追ってきた敵部隊を掃除して本隊の邪魔はさせない。それが彼らに求められた役割だった。


「後方から追ってきた敵を迎撃せよとの命令だ」

『やりましたね。これは稼ぐチャンスですよ!』

『うんうん、新しい機体を買い替えられるね、ヒョウカ』

『お前ら、自分たちが何したか、もう忘れちまったんじゃねえだろうな』

『私たちはきちんと敵を巻いてきたじゃないですか。きっと、あの人たちのせいですよ』

『そうそう、地雷原も敷いたし、ね?』


 能天気な仲間たちにバトバヤルの盛大なため息が聞こえてきた。







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