同人ゲーム頒布
お読みいただき、ありがとうございます。
「すごい行列っスね。で、いつみんなゾンビ化して大パニックになるっスか?」
「ならねぇよ!」
ゲーム制作を手伝えなかったせめてものお詫びとして、僕はコミケでゲーム頒布を手伝うことにした。
開場を今や遅しと待ち望む、日本一と言われる大行列を見ると、同人誌にあまり興味のない僕は、なんだか場違いなところに来てしまったようで、少し気が引ける。
もうすぐ開場のコミケ会場内は、準備が進む各サークルのにぎやかな声にも、どことなく緊張感が漂っている。
「サトル君、次はこの段ボールの運搬をお願いします」
力仕事は二階堂先輩と僕の担当だ。
「了解です」
そう言ってサトルはキヨタカのもとに駆け寄った。
先に荷物を持つキヨタカのたくましい上腕二頭筋には、うっすらと汗がにじんでいる。
ああ、一度でいいからキヨタカと……燃えるように熱く、獣のように激しく……。
高鳴る胸を抑えながら荷物を持つサトル。
そして悩ましげに揺れ動くキヨタカの引き締まった尻に誘われるかのように、彼のあとを追っていくのであった……。
「……おいアイリス、勝手なナレーションを入れるな!」
僕たちはいろいろと横道にそれながらも、着々と準備を進めていく。
ところが、ポスター貼りや飾り付けなどの女性陣が担当する準備が終わると、
「すまないっスが、リリスたちはこれから、のっぴきならない事情があるため、ちょっと抜けさせていただくっス」
妙にそわそわしながらリリスがそう言い出した。
おそらくBL同人誌の物色だろう。
もちろんアイリスも一緒に、そしてどうやらゲーム制作合宿中にアイリスの布教を受けたらしく、ルキまで行動を共にするようだ。
アイリスは普段から「女子は全員●モが好き。だってどうあがいても私たち女子はホ●にはなれないのだから」と熱く語っていた。
しかし、僕には腐女子の心情が、全くもってわからない。
まあでも準備さえ終われば、基本的には座って来客を捌くだけの頒布自体に、人手はそんなにいらないだろうし、この手のゲームは女性スタッフがいないほうが多少は買いやすくなるかもしれない。
「しばらくお願いするっス」
「ごめんあそばせ」
「なるべく早く戻りますので、お願いします」
人混みが苦手なはずのアイリスも、BLとなると話は別なようで、軽やかな足取りで三人はブースを後にした。
二階堂先輩のコネとMP使用の反則技で某サークルに間借りさせてもらったブースには、僕と二階堂先輩だけが残された。
でも、そもそも僕がここにいるのは、ゲーム制作をまったく手伝わなかったことに対するせめてもの罪滅ぼしだし、もし一人になったとしても、最後までゲーム頒布を頑張ろうと思う。
僕自身は同人誌にはあまり興味がないことだし。
……いや、せっかくだからいろいろと見てみたい気もするが。
リリスたちが戻ったら、ちょっと会場内を回ってみようかな。
「――そういえば二階堂先輩、バンドの打ち合わせとか練習でなんだかバタバタしてしまって、僕は結局、みんなが作ったこのゲームを見るのは初めてなんですよ」
リリスたちが作ったゲームのタイトルは
【ドキドキラブ萌え☆魔那媚夜学園】
という、なんだかベタベタなネーミングになっている。
簡易パッケージやポスターには、タイプの異なる美少女が7人。
よく知らないけれど、同人ゲームでこれだけルートがあるのは、かなりの売りになるのかもしれない。
ルキの力作である美少女イラストは、萌えのツボを見事に押さえた、しかし逆に一般人にはなかなか手を出しづらい雰囲気を醸し出している。
このゲームは全く営利を目的としていないため、他の同人ゲームよりも価格はかなり低く抑えられている。なんだか逆にショボゲーと思われそうな価格設定だ。
「ああ、サトル君は初めて見るのですか。でしたらここにサンプルがあります。まだ開場には時間がありますし、ちょっとプレイしてみますか?」
二階堂先輩がノートパソコンを僕に差し出す。
「あ、はい、さすがに売り子をやるのに内容を全く知らないのはまずいかもしれませんので、ちょっと最初だけでもやってみます」
僕はノートパソコンを受け取り、赤外線マウスでゲームスタートをクリックした。
◇ ◇ ◇ ◇
【ドキドキラブ萌え☆魔那媚夜学園】
(オープニング/スキップ)
僕の名前は雨宮サトル。
親の最終戦争の都合で、今日から腐立魔那媚夜学園625年一組に転校することになったんだ。そこんとこ夜露死苦!
「やべぇ、担任の淫行教師に生爪はがされる!」
転校初日から空巣や強盗で夜更かしして、つい寝坊をぶっこいてしまった僕は、学校までの地雷原を欽ちゃん走りで急いでいた。
『ドンッ』
曲がり角で僕は誰かにぶつかった。いくら強請れるかな?
「キャッ!」
見ると、トーストをくわえた女子生徒が、尻もちをついてM字開脚で股間を衆目にさらしている。
「ちょっとあんた、どこに眼球つけて歩いてやがるのよ! フンッ!」
彼女は僕に目つぶしを食らわせた。
(選択)
《「この売女、お前こそ気をつけろよな!」と相手を殺す/泣きながら靴をなめて許しを請う》
(『泣きながら靴をなめて許しを請う』をクリック)
「ふふ、殊勲な心がけね。今日のところはこれで許してあげるけど、明日の放課後、あたいに恥をかかせた侘びとして、三万円持って体育館裏に来な!」
彼女は土下座して恍惚の表情で靴なめをしていた僕の顔面に一発蹴りを食らわせ、顔を押さえてのたうち回る僕につばを吐きかけた後、鼻歌交じりで長いスカートを引きずり、チェーンを振り回しながら先に校舎に入っていった。
「ふっ、ハクいスケだぜ。あんなマブいナオンと、ディスコでフィーバーとしゃれ込みたいもんだ」
僕は下駄を拾って履き直し、中ランの上から羽織っているマントの土ぼこりを払った。
これがこの界隈にひしめき合ってシノギを削っている各組事務所にも『紅さそり』と呼ばれ恐れられている彼女との、運命の出会いだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――あの……このゲーム、ずっとこんな感じなんですか?」
序盤から死語連発で、香ばしいほどの昭和臭が漂い、ツッコミどころしか見当たらない展開に、僕は脱力しながら二階堂先輩に問うと、彼の眼鏡が鋭く光った。
「ああ、ご心配なく。実は私も、ちょっと序盤は地味すぎるかなと思ったのですけど、中盤、半裸のテロリストたちに学園が占拠されて、主人公が全裸で反撃するイベントのために、プレイを兼ねて直腸内に隠し持っていた小型手榴弾はとっておいてあるんですよ。伏線がきいた、いいシナリオでしたね」
そこには鋭く光る眼鏡の中央ブリッジ部分を指で押し上げながら、もしも某巨大掲示板なら『日本語でおk』とレスがつきそうなほど意味不明な言葉を、満面のドヤ顔で口走る二階堂先輩の姿があった。
僕は大きくため息をついた後、
「あんたがついておきながら、なんですかこのザマはぁあっ!」
と、二階堂先輩の胸ぐらをつかんだと同時に、開場を知らせるアナウンスが鳴り響いた。
やたらと下ネタを連発することを除けば、人間界でなにかとバランスが取れていると思っていた二階堂先輩が、こんなに使えない魔族だったとは……。
リリスたちの作った同人ゲームは、ろくに事前告知もしていなかったにもかかわらず、その低価格とイラストの(表向きの)完成度により、昼過ぎには完売した。
その後、ネット上の批評では、史上最狂クラスのバカゲーとして、カルトな人気になったらしい。
しかし、もともと可能性の低い同人ソフトなのに加え、その過激な内容から、本来の目的であるアニメ化の話など来るはずもなく……。
ちなみに、同時に頒布した、アイリスが中心となり余った時間で作ったという『ウホッ! ゲー研のメガネ部長とやらないか、軽音部員』なるタイトルのゲームは、一部の女性たちから熱狂的な支持を受けてそこそこ売れ、後に神ゲー認定されたそうだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
投稿を手動にする、投稿時間を工夫するなどして、もともと少なかっただけにアクセスは少々増えたのですが……。
ううっ、下ネタが悪いのか? 下ネタが原因なのかぁあっ!
(↑病み気味)
めげずにもしばらくがんばってみます……。




