第2話:無常
朝目が覚めたとき、ぽっかりと心に穴が空いてしまった様。
いつの間にか寝ていた僕は肌寒い冬の静けさに目が覚めた。
僕の何がいけなかったのかをもう一度考えて目を瞑ると、昨日の彼女の笑顔無い顔が鮮明に思い浮かぶ。
まさに“別れ”というそれが僕に治す薬のない深い深い毒を残したのだった。
車に置かれた香水のにおい。ふたりで語り合った大好きなアーティストのCD。ペアで買ったリングがテレビ台の上に置かれ、借りたまま返せなくなった漫画の本やゲームもまた、それらなりの帰り場を失う。まるで、君の欠片が今では存在のないものとなり……形だけを残しているみたいだった。
いつもどおりの朝。鳴く鳥たちの声。
僕は、彼女との思い出の写真を綴じた小さなアルバムを横目にし、それを開こうとせずに、あたかもそれが彼女本人であるかのように「もぅ……取り消しはできないんだろう?……」と、そう独り言を口にした。
僕はやっと彼女が僕の大切なものだったという事を実感した。
くしゃくしゃに強く笑う笑顔とか、たまに言うつまらない冗談とか、絶対みたほうがいいよ!って強く薦めてくる動画とか、もっと彼女に興味を持ってあげればよかったなって未練は深く残る。
朝ぼんやりと起きた中、携帯をみると着信履歴が1件のみ。幼馴染の友人からの電話だった。僕はその電話に折り返すこともせずにその着信が彼女からのものでないことに哀しく小さいため息をつく。
そして、ベットに横になりながら性懲りもなく僕は、彼女にメールを入れる。
昨日は…ごめん。僕は、すごく身勝手で……すごく自分勝手で嫌な彼氏だったと思う……と。
この文章を作り、また涙が零れ落ちるのは、僕が泣き虫だからではなくて、情の制御の仕方を忘れた体が、本当はけして書きたくないを終わりの言葉を勝手に送ろうとするからだろうか。
“いままで僕は、とても幸せでした。最高の恋愛をさせてくれてありがとう。君のことを悪く言うやつがいたら僕が必ず守るから、安心していいんだよ。君は幸せになれるからね”
送信した先に、いる君は僕が愛した君だろうか……。
……言葉もなくした。保身とか、プライドが高いからこういう言葉を言ったんではないんだ。けして、いい人であったと思ってもらいたいから言ったのでもない。当然に、あわよくば、戻ってきてくれたらいいなんてそういう期待を込めたわけでもなかった。
他にも伝えたい言葉は、あるのだけれど、湧き出る思い出や幸せの過去が僕に最後まで優しくあれと警告をしたのである。
僕は、彼女が付き合ってから始めて僕に見せたあの最後のほんとうに切なげで辛そうで、今にもどこか崩れてしまいそうな昨日の夜の苦しい笑顔が、ほんの少しでも明るく和らぐようならって……最後の手助けができたらって、そんなことを考えたりした。
雲に架かる冬のさえ冴えとした空気の和橋が、不思議とさわやかに変わった朝の言葉。
彼女からの返信は、長く感じた5分後に静かに届いた一行。
ごめんね……のたった一言。




