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愛してるデスゲーム♡  作者: 三久田ともかさ


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8/9

ゲームクリア


「もう、いい。もう十分だ」

 俺は、モニターを見上げた。


「……殺してくれ」

「…………え?」

 美月が顔を上げた。


『んー?』

 ヤミコちゃんが首を傾げる。

『なになにー? よく聞こえなかったなー?』


「……もう、終わりにしてくれ」

『えー? でもでもー!』

 画面の女の子が、にっこりと笑った。


『まだチャンスは残ってるよー?』


「いらない」

「……ちょっと」

 美月が呟いた。

「……ねえ、悠真?」


『あれあれー?』

 ヤミコちゃんが、口元に手を当てた。

『それってぇ、美月ちゃんを助けなくてもいいってことー?』


「…………」


『ほんとに、いいのー?』


 俺は、美月を見た。

 七年間、愛してきた人。

 その顔を、最後にもう一度見つめた。

 あんなに好きだったはずのその顔は酷く醜く感じた。


「……もう、愛せない」

「…………」

「……終わりにしてくれ」

 美月の表情が、さらに歪んだ。


「……はぁ?」


『ピンポンピンポーン!』

 突然、陽気なチャイムが鳴り響いた。


『大大大大大正解でーす!』


「…………え?」

 俺はモニターを見上げた。

『いやー、よかったよかった! 悠真くん、やーっと正直になれたねー!』


 ヤミコちゃんが、ぱちぱちと手を叩く。

『それじゃあ、ギコマルくーん!』


「……待って」

『最後のお仕事、よろしくねー!』

「待ってよ!!」

 ガチャン。

 美月の拘束具が、再び閉じた。


「……嘘でしょ?」


 ウィィィィン!


「……ねえ」

 回転音が響く。

「……悠真?」

 俺は答えなかった。


「……ちょっと待ってよ」

 美月が首を振る。

「……冗談だよね?」


『ざんねーん!』

 ヤミコちゃんが笑った。

『冗談じゃありませーん!』


「……ふざけんな」

 美月の声が低くなった。

「……ふざけんなよ」

 彼女が俺を睨む。


「……あんた、マジで言ってんの?」

「…………」

「七年だよ!?」


 美月が叫んだ。

「七年も付き合ってやったんだよ!?」


「…………」

「それなのに、こんな簡単に見捨てるわけ!?」


 ウィィィィン!


「……ねえ!」

 美月が声を張り上げた。


「何か言えよ!!オイ!!」


「…………」

「この人殺し!!」

 俺は、目を伏せた。


「人殺し! 最低! クズ!!」

 美月の声が響く。

「私が死んだら、全部あんたのせいだから!!」


『あははっ!』

 ヤミコちゃんが楽しそうに笑った。

『美月ちゃん、面白いこと言うねー!』


「黙れ!!」

『きゃー、こわーい!』

「うるせえんだよ!!」


 美月は俺を睨みつけた。

「……あんたなんか」

 唇が震えていた。

「……あんたなんか、最初から選ばなきゃよかった!!」

「…………」


「優しいだけのつまんない男!」

 彼女は叫び続けた。

「金もない! 甲斐性もない! 何の取り柄もないくせに!!」


「…………」

「私みたいな女と付き合えて、感謝するべきだったんだよ!!」

 俺は何も言わなかった。


「……なんとか言えよ!!」

 美月が椅子の上で暴れる。

「この役立たず!!」


 ウィィィィン!


 機械の音が大きくなる。

「……っ!」

 美月が息を呑んだ。


「……いや」

 その声は、すぐに悲鳴へ変わった。

「いやああああっ!!」

 俺は、目を閉じた。


「悠真ぁっ!!」

 耳を塞ぎたかった。

 でも、できなかった。


「助けろよ!!」

 美月が叫ぶ。

「助けろって言ってんだろおおおっ!!」


 ギィィィン!


 甲高い音が響いた。

 白い床に、赤い染みが広がる。

 獣のような美月の叫び声が、何度も響く。


 俺は、ただ俯いていた。

 やがて。

 機械の音が止まった。


 静寂。

 俺は、ゆっくりと顔を上げた。

 美月は、もう動かなかった。


「…………」

 何も言えなかった。

 涙も出なかった。


『……ぷっ』

 小さな声がした。

 モニターを見る。

 ヤミコちゃんが、肩を震わせていた。


『くすくすっ……あはっ』


 そして。


『あはははははっ!!』

 腹を抱えて笑い始めた。


『うーわっ!』

 画面の女の子が、美月を指さす。

『ブッサイクだなー!』

 けらけら。

 けらけら。


『学年一の美人も、化粧落としたらこんなもんだからねー!』

 ヤミコちゃんは、目尻を拭う仕草をした。


『あー、おっかし!』

 俺は、何も言わなかった。

 ただ、モニターを見つめていた。


『それじゃあ!』

 ヤミコちゃんが、いつもの笑顔に戻る。

『愛してるデスゲーム、これにて終了でーす!』


 ぱんぱかぱーん!

 陽気なファンファーレが響いた。


『悠真くん、お疲れさまでしたー!』

 ガチャン。

 俺の拘束具が外れた。

『気をつけて帰ってねー!』

 画面の女の子が、大きく手を振った。


『愛してるよー!ばいばーい!』

 プツン。

 モニターが消えた。

 部屋は、静かになった。


 俺は、しばらく椅子から立ち上がれなかった。

 目の前には、白い床。

 赤い染み。


 そして。


 もう二度と、俺の名前を呼ぶことはない美月がいた。



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