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25/28

25誘ってみる

カノンがこの話を受けるか否かは、正直日向にもわからない。

2人の関係を聞いたからこそ、判断できなかったのだ。

仕事だから、普段のカノンならそう言って引き受けるだろう。いくら気位の高いカノンとて、芸能界で生きるための作法くらいわきまえているのだ。


しかし、今回の件については判断ができかねる。


「だって絶対カノンさんにとっても青葉さんって重要人物じゃないですか……!」


青葉を自宅に帰し、久世と日向は久世の家で頭を抱えていた。


「そーだな……」


「正直ね、何かあるだろうなとは思ってたんですよ。あのふたり」


「青葉がその『親友』ってのに入れ込んでるのはわかってたが……相手がまさか花音でさ、こんな重要人物だとは思わねぇって……一度もそういう話聞いたことなかったのかよ」


「あるわけないでしょ?カノンさん只でさえ自分のこと話さないのに」


「だよなぁ……」


「話はしてみますけど、確約はできないですよ」


「わぁってるって。なら、カノンが渋ったらこれ聞かせてやってくれ。あ、おまえは聞くなよ」



スマホを操作して日向に音源を送る。

なんの変哲もない、ただのmp3データだ。この曲にどれほどの効果があるかわからないが、それでもないよりはマシだろう。



「僕が聞けないものを送らないでくださいよ……聞きますけど」


「正直者~。いいさ、別に怪しい音源じゃねえから。ま、方針は決まったんだし今日はここまでだ。俺はあと少し作業するからおまえは帰れ」


ライブの準備に向けて最も尽力したのは誰でもない、日向だ。

今回の成功は日向の功績だと久世は思っている。

不器用なりに久世も休ませてやりたかった。


愛想のない物言いだが、その言葉の裏に隠された久世の優しさを日向は読み取ったらしい。一瞬嫌な顔をするもすぐに溜め息をついて立ち上がった。


「なら僕は帰ります。お腹すいたら冷蔵庫にストックありますから」


「おー、さんきゅーな」


カノンが青葉と歌うか、歌わないか。

久世は歌う方に賭けた。

賭けたから、曲を作る。二人が歌うに相応しい曲を。



◇◇◇



「Aoとライブ?ネット配信の?」


「うん。どうかな?Aoさんは今注目されてるし、カノンさんも興味がないわけじゃないでしょ?このあいだのライブ聞いて興味出たんじゃない?」


「…………ふーん」


じっとりとカノンは日向を見返した。

あくまで青葉とカノンのあいだに起きた出来事については触れず、歌手・カノンのメリットであるように話すよう日向は努めた。

下手な嘘はカノンに見透かされるし、そうなるとカノンは意地でも譲らないのだ。


「あんまり乗り気じゃない?」


「ていうか、あれだけ喧嘩吹っ掛けたのによくライブやろ~なんて呑気なこと言えるわね」


「あー……それはー……」


マズい。

これは確実に不機嫌に傾いている。このままではカノンは聞いてすらくれない。そうなると金輪際、青葉と歌う機会は失われるだろう。それだけは阻止したかった。


「どうせ私とあの子のこと聞いたんでしょ?余計な気を使われると逆にムカつくんですけど」


「えーと……」


「それわかったうえで私にこの話持ってきてるなら日向さん、相当性格悪くない?ホントに私のプロデューサー?」


控え室の温度が瞬く間に下がっていく。実際の気温が下がっているわけではない。エアコンは今日も正常だ。

居合わせたスタッフたちは「何があったのかわからないが、とりあえずカノンの機嫌が最悪」ということは察知したのだろう。全員顔色が悪い。


カノンのマネージャーですら首を横に振っている。


しかしここで引くわけにもいかないのだ。

マネージャーに日向は深く頷き返すと、マネージャーはあからさまに安心したように肩の力を抜いた。


「あ!kuzuPからカノンさんに渡してって!これ!送るから聞いて!!」


背後からマネージャーの声なき悲鳴が聞こえる。

今それじゃない、今は引いてくれ、とでも言いたいのだろう。

いや正しい。

だって久世さん、渋るならこれを聞かせろって言ってたし。


カノンは視線だけをこちらに向けて答えた。


「曲?kuzuPの?」


カノンは手のひらをマネージャーにふってイヤホンを受け取った。すれ違いざまにマネージャーが般若か鬼のような顔を日向に向けたが、日向とて引けない理由がある。


「静かにして」


そう響く低音で告げ、スマホに送られたmp3を再生する。カノンの命令通り誰一人音すら立てない。呼吸すら躊躇われる。その呼吸で空気が揺れた音がカノンの邪魔になることを危惧したのだ。

そして数分が経った後。


「いいわよ。ネットライブなんてやったことないし、観客がいないなかで歌うなんておもしろそうじゃない」


「よかった!きっとカノンさんにも良い刺激になると思うよ」


日向の背後でマネージャーが崩れ落ちる音がした。

気が抜けたのだろう。

たぶん。


さすがにすぐさま次のライブを開催するのは難しく、カノン程の歌手を呼ぶなら準備も会場も今回の比ではない。

それならカジュアルな感覚で集客を見込めるネット配信となったのだ。


曲はkuzuPの書き下ろしを盛り込んだ新曲と既存曲、カノンの持ち歌。


場所もスタジオを借りて女の子ふたりとカラオケに来ているような感覚で楽しめる、そんなシチュエーションを想定した。






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