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アルノス・トリニティ ーId:Venisー  作者: もふもふラリアット


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第七話 「森の獣」


 後ずさるフォルスに狼の追撃。

 でもそんなの関係ない。

 だって、


(おれの魔術はちょー強い!)


「ウィンド・ショットォォォォ!!!!!」


 狼へ手をかざす。

 指と指の間、冷たい感覚が突き抜ける。

 空気を裂く音、風の収束。


 発射ッ!


 ーー衝撃。


 体毛に覆われたお腹に、風がめり込む。

 折れ曲がって吹っ飛ぶ体は、草にぶつかりながら地面を転がる。


 狼はピクピクして、動きが止まる。


「やったぁ! またまた当たった!」


 自分で使う魔術はすっごく楽しい。

 ウヘヘ、もっと魔術撃つ……!


 直後、怖い顔をしたアルノがおれの真横を駆け抜ける。

 肩が少しぶつかり、お尻にドスンと重い痛みが走る。

 気づけば尻餅もついていた。


「痛ッ……! なにするの!」


「油断すんなッ!」


 振り向いてよく見ると、狼が首元からどばぁっと、赤い血を吹き出して倒れていた。

 アルノは周りを見ながら、真っ赤な剣先を地面に払う。


「はぁ、魔術楽しいのはよくわかる。けど注意は怠るんじゃねーよ。今すっげー危なかったんだからな?」


「フンッ、わかったもん。周りすごく見るもん」


 どこかムカつくおれのニセモノを適当に受け流す。


「お前な……まぁ、いいや。隙をついて一気に狩るっていう相手のやり方は封じれたみたいだし」


 残り1体のシルティオウルフが姿を見せる。

 低く唸る威嚇の後、暗い木々の奥深くへ去り、再び森が静かになった。

 アルノが俯くフォルスに声をかける。


「フォルス、腕は大丈夫か?」


「……あぁ、俺は大丈夫だ」


「ってあれ……? え? その腕、血どころか傷1つ、ついてないじゃん」


「ほんとだ! 袖ビリビリなのに腕ピンピンしてる! すご! なんでなの?」


 さっきフォルスは狼の鋭い爪に、腕を引っ掻かれたのに赤く腫れてもいなかった。


「これは……当たりどころがよかっーー」


「ヴオォォォン!!!!!」


 全身を貫くような、重い遠吠え。


「対応が早い。また来るぞ……」


「嘘、だろ……クソ、いくらなんでも早すぎる」


「うおぉぉぉ、来ちゃうの!?」


 カサカサと草を散らす音が聞こえてきた。

 すごい速さでこっちに来てる。


(うーん、さっきより音が大っきい気がする……? いっぱい来てるのかな? ハッ、じゃあまた魔術いっぱい撃てる!?)


 視界いっぱいに映る太い木々には、いくつもの狼影が飛び移る。

 木の裏からたくさんの目がこっちを睨む。

 おれはさらに変なものを見つけて、それに指を差した。


「ね、ねぇ……アルノ、フォルスあれ……」


 巨大な影の塊。


 体と草が擦れて鳴る、数々の狼が迫り来る音。

 それらが、のそりと歩く影の存在感を際立たせる。

 森の奥から目を引く巨体がその姿を現した。


「お、大っきい犬……?」


「違うだろ、でもあんなデカいの見たことねーよ」


 強大な圧を放つシルティオウルフ。

 他の狼とは約3倍の大きさくらいある。

 左目は古傷で閉じられ、体中に多くの古傷を負っていた。


「牙も爪も他より太くて鋭いしすげー凶暴そうなんだけど、逃げてもすぐ追いつかれるだろうし」


(大っきい犬ほしいな……。もふもふしたい……)


「ここでやるしかないか……アフル、フォルス、武器を構えろ。今にも仕掛けてきそうだ」


「大っきい犬め! おまえなんかご飯あげた後に、いっぱいなでなでして一生幸せにしてやる!」


「飼うのかよ」


 狼の睨む瞳はどこか締まらない空気感のおれ達を映す。

 瞬間、瞳に殺意が宿る。

 キレのいい踏み出し。

 瞬発加速。


「ウィンドショット!」


 反応、手をかざす。

 風の凝縮。


 放出ーー


 突進する狼に着弾。

 顔面を捉え、牙が宙を舞う。

 殺意の霧散、体勢を崩し、地を滑る失速。


(やた! また魔術撃てた! しかも当たった!)


 ニセモノに怒られないよう小さくガッツポーズを決める。

 ただ、今のを皮切りに何体潜んでいるかもわからない狼達が動き出す。

 気づけばアルノに2体が跳躍する。


「うわ! あぶな……い?」


 重心を低く落として全身を捻り、構えていた。


 2体の獣が大きく口を開け、牙を剥き出した時。

 溜め込んだ力を出して踏み込む。

 右腰の横にある剣の魔力が揺れる。

 

「ぶった斬るッ!!!!!」


 ぐるんと勢いをつけて回る。

 端から端へ光を放つ透明な魔力がなぞられた。

 2体同時、胴体を切り裂いて鮮血が舞う。


「うおぉ!! アルノすごい!」


「アフル! まだ来るぞ、気を抜くなよ!」


「おっす!」


 戦闘は長引いた。


 次々と襲いくる狼をアルノが鋭い爪を斬り飛ばし、四肢や胴を引き裂く。

 その後ろからおれが風、土、水の魔術を打ち込んだ。


 ただひたすらに迫る的へ魔術を放つ。

 放つ。放つ。放つ。放つ。放つ。放つ。

 魔術を楽しむ余裕がなくなっていた。


「はぁ、はぁ、なんか疲れた……魔力なくなるー」


「クソッ、なんでだよ! 何やってんだフォルス! どうしちまったんだよ……!」


 アルノは返り血を浴びながらフォルスに愚痴を漏らす。

 動かないフォルスを守りながら2人で戦ってたからだ。


 剣を振るっては避け、魔術を撃ったらパタパタと背後に隠れる2人だけの攻防には限界が近づいていた。


(フォルス……どうしたんだろう? 元気ない?)


 魔力と体力の減少でヘロヘロの中、チラッと未だ動かない大っきい犬を見る。


(うぅ、あのデカ犬と散歩してししょー喜ばせたいのに……それをフォルスにも手伝ってほしいのに)


 湧き続ける狼達。

 ただ俯いて動かないフォルス。

 疲労と魔力の減少がおれとアルノを疲れさせる。


 ーー巨影が揺らめく。


 あれ? なんで動いて……


 フォルスの目の前。

 巨体の太い腕。

 鋭く尖った爪。


 振り上げられたそれらが静かに振り下ろされる。


 ガキィィィィンッ!

 大きな金属音が鳴り、火花が散る。


「グッ……重ッ」


 アルノが攻撃をギリギリ、剣で受け止めていた。

 腕を引き、巨体はアルノの反撃を避けてしなやかに後退する。

 フォルスはどこか信じられないような表情で聞く。


「なぜだ……アルノ。俺は、何も……」


「さぁな、言いたいことはあるよ。ただ名残ってやつを捨てきれなかっただけだ」

 

(フォルス大丈夫だった。へへへ、よかった)


 そう思ったのも束の間。

 すでに次の狼がおれに迫る。

 手を突き出して魔力を捻り出す。


 魔力が、ない……


 どうしよう、どうしよう、魔術撃てない。

 もっと撃ちたいのに。

 まだすごい魔術撃ててないのに、ししょーにすごい魔術師になるところ見せてないのに……

 これでおわ……り?


 狼は待ってくれない。

 牙はどんどん近づいてもう目の前。


 視界が影で黒く染まる。


「まだだッ!」


 おれの真横。

 アルノが割り込んで剣を振るっていた。

 視界が光さすように晴れる。


 断ち切られた狼の頭が地を転がり、体から真っ赤な血を吹き出し、血の雨が降る。


「はぁ、ったく……魔力がないなら早く言えよな。お前の好きな魔術撃てなくなるかもしれなかったんだぞ?」


「お、おれ、もっと魔術撃つ……!」


「1発捻り出すのが限度だろ? お前も頑張ったんだ。また魔術撃ちたいんなら、今はフォルスのとこにいろよ」


「うぅ。わかった……」


 そう言うとアルノは、まだたくさんいる狼達の中でも大っきい犬に視線を向ける。

 おれは小走りでフォルスの隣に向かう。

 ただこの状況を、見ていることしか出来なかった。


「あのデカいやつの狙いは俺達を弱らせて狩ることだったって訳だ」


 唸り声が響く中、1人と1体が向かい合う。

 その場所だけ、不自然なほど無音で満たされる。


 互いの睨む視線が交わる。

 1人が剣を構え、1体も姿勢を屈めた。


 蹴り上げ、地の衝撃。


 睨み合いの静けさが一気に崩れ去る。

 一瞬、距離が消えた。


 刃爪擦突。


 爪が剣とすれ合う。

 キィィィンと耳奥まで届く高い音。

 光の欠片がたくさん舞ってすぐ消えていく。


 お互いに振り切った剣と爪。

 大っきい犬は地面についた前足を支えにぐるんと大きく一回転。

 尻尾が剣みたいに振るわれる。


「クッ……」


 アルノは振り切った後の剣を必死に無理矢理盾にして直撃を避けた。

 ずっと動き続けて額から汗水が弾ける。


(あ、アルノ……1人で苦しそう)

 

 フォルスの袖を掴む。


「フォルス……アルノがこのままじゃ負けちゃう、助けて」


 フォルスは何も答えない。


「なんで……? どうして、なんでなにも言ってくれないの!」


 そうこうしてる間にアルノは大っきい犬以外からも攻撃を受けていた。

 狼を避けては斬って、それでもデカ犬に刃を向ける。

 

(おれも魔術、後1発は撃てる……)


 覚悟を決めたその時。

 ヒヤッとする感覚が肌を突き刺す。

 髪が、服が大きく揺れる。

 目を細め、思わず手で顔を覆いたくなる。


 一帯に突風が吹き荒れた。


 何もないところから、まるで魔術を使ったかのように。

 それをやったのは大っきい犬……違う。

 体毛を揺らしておれ達を見る巨大な獣。


 風狼だった。


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