第六話 「三人の初陣」
アフルの食欲による駄々も限界を迎え、街にある冒険者ギルドに来た。
ギルド内は大勢の冒険者達で賑わっている。
真昼間から揚げ物の香りと充満した酒のツンとする匂いが鼻を突く。
(はぁ、冒険者ギルドはどこもあんまし雰囲気変わんねーのな……)
俺達は各々で軽く聞き込みをし、それぞれが木の椅子に腰掛けて得た情報をまとめているところだ。
まずはフォルスからだ。
「まず1番重要とも言える場所についてだ。ここは地図でも東にあるデパルという街だ」
「げっ……そんなところまで飛ばされてたのか!?」
(どうしよう……フィアネは心配してる……だろうか……? いや、俺が不安になっても仕方ないか)
「あ、あのさ……俺住んでたところと、全く違うところに飛ばされてたんだけど、フォルスとアフルはこの近くに住んでたりとかしないの?」
「……俺に帰る家はない。あてもなく旅をしてはいるが、この街に来たことはないな」
「おれもここら辺住んでないからわかんない。あとね、地図の左におうちあるって言ってた気がする」
アフルとは同じ方向で帰ることになりそうか。
フォルスが途中まででも、いいから着いてきてくれると道中すごい楽だと思うんだよな。
「少なくとも西側に行くまではこの3人で行動することもできるじゃん? 帰路でのモンスターの対処や食料確保を考えるなら、人数は一定数いた方がいい気がするんだけど……フォルス、あんたさえ良ければ途中まででもいいから同行してくれると助かる……駄目か?」
「……わかった、俺も同行しよう。なんせあてのない旅が俺に残ったものだからな」
「ほ、ほんとにいいのか!? 助かるよ! どっかの食い意地だけのチビと違ってフォルスは強そうだし、頼りになる」
疲れ切ったような目の下のクマを見てると、旅に同行させるのが申し訳なくなってくるけど……本人がいいと言ってるならそれでヨシ。
「おれだってちょー強い!」
食欲を満たしてる最中のアフルがドヤ顔でほざく。
どう見ても、食欲だけが一丁前なガキにしか見えないが。
パッと見で10歳にもなってるかわからないくらいだし、俺と同じで大した戦力ではないだろ。
「剣はどう見ても振ることできなそうだし、使うのは魔術か? 基本の四属性魔術は初級くらい全部使えるんだろうな?」
「火、水、土、風の初級魔術全部使えるもん! へへへ、アルノなんておれのめちゃつよ魔術見てビビっちゃうんだもんねー!」
(このガキ……)
「なんだー、初級しか使えないのかー。魔術師が戦うならやっぱ中級くらい使えてないとだよなー」
まんまと安い挑発に乗ったアフルは、真っ赤になった顔でお手本のように椅子をガタッと揺らして立ち上がった。
「なんだとー!? 中級魔術くらいちょびっとだけ使えるもん!!」
さらにおちょくろうとすると、やれやれといった感じでフォルスが口を挟む。
「……お前達は知り合いなのか? 今日知り合ったばかりで、どうしてそんなにいがみ合える?」
「「なんかこいつムカつくから!」」
聞かなかったことにしようとしているフォルスはため息入り混じりに、フンッと鼻を鳴らすアフルを椅子に座らせ、話を戻す。
「落ち着けアフル……はぁ、これから先が思いやられる……それで、次の情報共有は誰がする?」
「じゃあ、俺が言うよ。俺は金ないから金策のためにここら辺のモンスターについて聞いて回ってた」
「どんなのがいるんだ?」
「この街を出て少し歩いたところにある森に、シルティオウルフが生息してるんだって。森の入り口辺りは安全なんだけど、奥地はそいつらが縄張りにしているらしい」
「シルティオウルフは個体数が多く群れで行動して狩りをする。1体、1体は弱く、焦らず対処すれば問題ないだったか?」
「そう。特徴は身体がツートーンの毛並みで覆われてて、鋭い爪と牙が特徴でそこに要注意ってとこだな」
「そうか……アフルは何か情報を聞いてきたのか?」
フォルスに聞かれると、口に頬張った肉をもぐもぐと咀嚼し、ごくりと飲み込む。
そして右手をビシッと上に伸ばして、自信満々に聞いてきた情報を開示する。
「はい! 向かいのお店にあるラムシチューがすごくおいしいって聞きました!」
「「……」」
「よし、よくやった。お前はもう黙ってろ」
何その『いい情報持ってきたでしょ!』と言いたげなやってやったぜのドヤ顔。目キラキラさせてるけど、それ一番使えない情報だからな?
「……まだ上手く聞き込みができる年でもない。仕方がないところはあるか……」
「バカの食欲は置いといて、これからの旅でお金が必要になってくるだろうし、早速シルティオウルフでも依頼を受けて金稼ぎしようと思うんだけど、どう?」
「わぁ! 行きたい! 行きたい!!」
アフルは蝶々に飛びつく子猫のように興味津々で返答し、フォルスは何か考え込む素振りを見せる。
「……わかった。同行しよう」
「そんじゃあ、みんな準備出来たら出発な」
俺達は入り口までやって来た。
ここまでシルティオウルフは見かけていない。さらに奥へと進む。
「やったるぞお!!!」
さっき魔術がどうたらこうたら言っていたアフルは、魔術師が使うはずのない拳を握り締め、意気揚々にシュッ、シュッとパンチを繰り出す。
いつ使うの? それ。
「ていうかお前ほんとに魔術使えるんだろうな? 杖がないと魔術使えないとか言って、狼達にガブガブされるなよ」
「まかせて! ボコボコにする!」
何の根拠もなしに自信満々のドヤ顔でサムズアップを向けてくる。
(何この無駄に説得力のないセリフ……もう不安でしかない。てかその腹立つ顔とサムズアップをやめろ)
俺は腰に刺した剣の柄へ手を当て、フォルスの方を見るとこの森に来る前の記憶を遡る。
「アフルが魔術師なのはわかったけど、フォルスは何で戦っているんだ?」
「普段は剣で戦っているが、生憎今は持ち合わせがない。だが、短剣でも戦える」
そう言うと服の懐に手を突っ込み、そこから短剣を取り出して俺に見せる。
「わかった。フォルスの戦い期待してるからな」
「……あぁ」
(ん? さっきより心なしか疲れてる? いや、集中でもしてるのか。俺も出来ることしっかり把握しとかないとだな)
攻防で魔力に余裕があれば急所を守ることにしよう。
これはあまり強くはないシルティオウルフだからできることだけど。
なんてことを考えていると、前方から草がカサカサと揺れ、ざわめき始めた。
明らかに何かが接近してきている。
「止まれ。前方から5体、俺達を囲むように接近している」
フォルスの言葉に全員が足を止める。
森の静寂を司る太い木々の裏に潜んでは、騒々しく草を揺らして、素早く木を移動している影が見えた。
ただ1体のみ。それらを無視できるほどに隠れもせず、むしろ堂々とこちらに向かって来るそれに目を離すことが出来ない。
『グルルルゥ』と警戒するように牙を見せつけ、低い唸り声を上げながら鋭い眼光を向けてくる。
その体は緑と白のツートーンカラーで毛並みが彩られ、4足の内、前2足は鋭利な凶器のように尖った爪を剥き出す。
紛れもないシルティオウルフだ。
残りの4体はそれぞれ木々の裏を利用して正確な位置を目で追わせない。
先手を打つのが早い。もしかして俺達が来るのバレてたか? これじゃあっという間に包囲されるな。
「フォルス、アフル、互いに背中を預けるように戦おう。そんで各々の見ている方向の敵が動き出したら躊躇いなく攻撃してくれ」
「おす!」
「あぁ……わかった」
この場に緊張が走り、ドクンと心臓を脈打つ鼓動が一拍早まる。
ただ、プレッシャーに呑まれることはない。
腰に刺した剣を抜き、剣を天高く掲げて上から叩き斬れる構えを取る。
体からは薄らとした透明な魔力が揺れ動き、腕を伝って剣へと流れ込む。
刀身に魔力を纏わせる。
これをするのとしないのとじゃ威力に差がある。その一振りの威力が生死を分ける時だってあるくらいに。
包囲されてから再び、森は静寂へと戻る。
嵐の前の静けさ。
時が静止したかのような錯覚の中、睨み合いが一秒、また一秒と重なっていく。
何回目になったかすらわからない一秒が刻まれたその時。
視界正面、枝が踏み潰されるパキッ、と乾いた音が鳴る。
ーー狼影、疾走。
即座の反応。地面へ衝撃を与え、踏み込む。
(確実に仕留める……!)
切先の魔力が揺らぐ。
振り下ろす。
勢いは止まらない。
獣頭両断。
意識が途切れた亡骸は血を吹き出し、ドシャっと力無く地面へと墜落する。
次。2体がフォルスとアフルへ駆ける。
「フフフヒヒヒヒヒヒ……アース・ピラー!」
(うわ、笑い方キモい)
キモい笑いと同時、右拳を高く突き上げる。
2本の土柱が顎と腹部を突き上げ、メキッ、と骨を砕く不快な感触が、地面を通じて俺の足の裏まで伝わってきた。
突き刺さる土柱からぬるりと滑り落ち、狼は動かなくなった。
(あいつガキのくせに意外とやるな……)
アフルへの安堵も束の間、フォルスへ視線を移す。
ーー長く尖った爪が左腕に直撃。
左手に持っていた短刀が地面を転がり、後ずさるフォルスが目に映る。




