↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルノス・トリニティ ーId:Venisー  作者: もふもふラリアット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/11

第四話 「眠り」1

 

 ーー目が覚める。


 青空が視界いっぱいに広がり、体はほんのり暖かい日差しに照らされ、心地よい風になびく草が、仰向けに寝ていた俺の頬をくすぐったく撫でる。


「……あれ? ここ……どこ、だっけ? ってか、俺……寝てた……のか?」


 わからない。

 思い出そうとしても、なぜかここ最近の記憶がごっそりと抜け落ちたように何も思い出せない……


 ぼんやりした脳内から、次第に思考がクリアになっていくーー


 体を起こし、辺りを見回す。

 視線は風景ではなく、別の何かに惹きつけられる。

 奇妙な光景が目の前で起きていた。


 大人と子供の2人が、俺と同じように仰向けで寝ている。


 子供の方は幼さのある茶髪の少年。

 涎を垂らしながら、平和ボケしていそうなアホ面でスヤスヤと寝てる。

 それにこの赤い魔術師ローブ、いや……服装一式に見覚えがあった。


(昔着てたやつと似てる……気がする……まぁいいや)


 もう1人は若く見えるけど、成人をとっくに迎えているであろう黒髪の男。

 動きやすそうな白のロングシャツの裾を出し、上から片袖のない黒い上着を着ている。

 短刀を腰に刺してる以外、全体的に軽装備どころか何もつけていなかった。目下には薄らとクマがあり、疲れ切った様子。


 残念ながら俺は、このメンツの中に混ざって寝ていたことに記憶どころか、身に覚えも何の思い当たりもない。

 

(一体何が起きてるんだ? ってかこの人達誰なの?)


 状況を理解するため、仕方なく2人を起こすことにする。


(子供の方は……まぁいいや、会話が出来そうな黒髪の男を先に起こすか)


「あの、昼寝中悪いんだけど、ちょっといい?」


 そう言って男の肩をトントンっと軽く叩く。

 数回ほど繰り返した後に男はようやく目を覚ました。


 寝惚け眼を手で擦り、今の状況を把握しようと体を起こして周囲を見回す。


「……」


 重苦しい沈黙が続いた後、ようやく俺の方に視線を向けて口を開いた。


「……これはどういう状況だ、夢……か?」


 どうやら状況をうまく把握できなかったらしい。

 そうなるのも当たり前だ。

 俺と同じようなことが起きているなら、こんな状況ほとんどの人が理解できないだろう。


「それが俺もよくわかんないんだよ。あんたより先に目覚めたってだけで、気づいたらこんなとこで眠ってたってことしか覚えてない」


「……現在の場所はわかるか?」


「それもわかんない。俺ここ来たことないし……あ、でも見てくれ。街が近くにあるってことだけはわかった」


 俺は密集する建物が見える方角を指差し、男に場所を示す。


「……そうか、街周辺の平原。この辺にモンスターの姿はない……か。ひとまずは危険に晒されているということはないようだな」


 話し方もどこか疲れ切っていそうな男は少し考える素振りを見せる。

 数秒後、視線を俺の方に戻して提案をしてきた。


「……現在地を確認する。一緒に街へ行かないか?」


「それもそうだな、そうするか。ここにいても何も変わらないし」


 俺自身もこの場にいたいと思わない。

 フィアネ……俺にも帰るべき場所がある。


「……そうなるとこいつをここに置いていくのもなんか気が引けるし、起こさないとだよなー」


 俺と男の視線は先ほどから陽光に照らされ、最高の昼寝をかましているアホ面へと向けられる。

 さっき男を起こしたように、肩を軽く数回叩く。


「おーい、起きろー。昼寝の時間は終わりだぞ」


「ZZZ……」


「全然起きねーな」


 肩を叩いたり、揺すったりを繰り返すが、全く起きる気配はない。

 依然としてアホ丸出しの寝顔を披露していた。


「なぁ、こいつ爆睡してるんだけど……考えてることは浅そうなのになんでこんな眠りは深いんだよ」


「……くすぐってみたらどうだ?」


「おー、それいいな」


「あぁ……すまない、冗談だ。普通に起こして……」


 何か言いかけてたのを気にすることなく、くすぐりを仕掛ける指が牙を向く。

 両脇の下にそれぞれ手を差し込み、10本の指を容赦なく、わしゃわしゃと動かす。


「フ、フフフン……」


 体がピクリと動く。

 目が覚めてきたのか徐々に口角が上がり、体をくねらせ逃れようとするが、くすぐりを断行する。


「フフフ、へへへ、ちょ、ちょっと、もう、もうやめて、や、やめえぇぇぇ、やめろって言ってるでしょうがぁぁぁぁ!!!」


 ガキは目をカッ! と見開き、草の上をゴロゴロと転がって抜け出すと、警戒するモンスターのように後退る。

 先ほどのアホ面とは打って変わり、それはそれは大層お怒りのご尊顔だった。


「なにするの! このクソうんこヘッドマン!」


 そう言いながらクソガキは憤慨し、俺のことを睨みつけてくる。


「は? 俺の髪が赤色ってのがわからねーのかよ? それに、お前の方がうんこみてぇな茶髪じゃねーか!」


 ふと、男の視線を感じ取る。

 その細まる目つきは、『子供相手に、お前は一体何やってんだ』とでも言いたげな様子だ。


(あ、まずい。つい、いつもの癖で……)


「コホン……じゃなくて、お前はここがどこか、なんでこんなとこで寝てたか覚えてるか?」


 睡眠の邪魔をされた怒りがまだ治っていないガキは両手の握った拳を振り上げ、怒りを露わにする。


「そんなもん知らないッ! ……あれ? そいえば寝る前、なにやってたんだっけ?」


 目を細めながら腕を組んで考え始めること数秒。


「……おぼえてない。 あれ!? そいえばししょーもいない!」


 こいつの、心の声ダダ漏れで喋ってそうなのは置いといて、俺も子供も何も覚えてないことには不自然さを覚える。

 さっきからぼーっと俺達を見つめる男にも声をかけてみるとしよう。


「なぁ、あんたも最近の記憶とかないのか?」


「……あぁ、俺も同じだ、全く思い出せない。まるで記憶が抜け落ちたみたいにな」


「なかなかに奇妙なことが起きてるんだな。俺達全員の記憶が抜けてるなんて」


(何なんだよこれ……誰も覚えてないなんて。この奇妙な巡り合わせとかいいから、もう帰りたい)


「……不明なことに焦りを覚えても仕方ない。ひとまず街へ行って情報を集めるとしよう」


「はぁ……それもそうだな」


 ぐぅぅぅーー


 誰かから、腹の鳴る音が聞こえた。

 その誰かは、恥ずかしげもなく名乗りをあげる。


「はい! はい! お腹空いたです」


「急にこんなところに連れて来られてるのに、お金は持ってるのかよ……?」


「ない!」


「お前、まさか奢ってもらおうって魂胆か? 言っとくけどな、こっちだって初対面相手に飯奢ろうとするほど贅沢な人生歩んでないんだよ。自腹で何とかしろ。そんで金がなきゃ飯は買えないんだからな。ないなら我慢しろよ?」


 ちなみに俺も銅貨どころか手持ち一文無しだということは黙っておこう。


「お、おれにのたれ死ねなんて……ひどい!」


「そこまで言ってねーよ! けど金稼ぎで依頼を受けるってもなー。この周辺にモンスターとかがいる訳でもないし」


 ぐぅぅぅーー


またもや、どっかの誰かから腹の音が聞こえた。

 2人の視線はなぜか、本当になぜか、俺へと向けられる。


 あ、やべぇや……


「お、おいチビ! いい加減にしろよな。お前の腹の音がいちいち、うるさいんだよ……」


「おれ今はなにもしてないもん! 今は絶対そっちだったもん!」


「このクソチビッ! その低身長をどんぐりサイズまで縮めてやろうか!?」


 先ほどから俺達のしょーもない言い争いを傍観していた男が口を開く。


「3人分の腹を満たせるくらいの金ならある、俺が出そう」


「「あ、ありがとうございます……」」


 空腹に抗えない俺と子供は最大級の敬意を表し、感謝を述べる。


 街に入って冒険者ギルドに向かう俺達。


 街中は茶色い瓦屋根の隙間から薪の煙が立ち上り、通りを歩く人々の話し声が騒々しく響いている。

 子供は男の袖を引っ張り訴える。


「ねぇねぇ、お腹すいた。早くご飯食べたい!」


「もう少しだから我慢しろよ。ったく、最早飯のことしか頭にねーのな、お前」


「何食べようかな〜、ステーキにしようかなー? それとも鶏肉の塩串焼きにしようかなー? あ、でもラムシチューも食べたいな〜ウヘヘヘ」


 こいつの脳みそは、お花畑ではなくお肉だらけらしい。


「よし、決めた。お前の呼び名は今日からクソガキだ」


「なんだと! おまえなんかクソうんこヘッドマンだ!」


「さっきからうんこヘッドマンにクソをつけんな! 次そう呼んだらお前の飯が全部俺に強奪されても文句ねーよなぁ?」


「う、うわぁ! なんて酷いことするの! この薄情者! 人でなし!」


「……落ち着け2人共。お前も子供相手にいちいちからかってやるな」


「う、わかった、悪かったよ......少しは気をつける」


 さすがの大人気なさに男から諌められる。

 そしてふと気づく。うんこで呼ばれるのが嫌なのもあるが、2人の名前を聞きそびれていた。


「そういえば、あんたらの名前聞いてなかったよな。俺はアルノ・ヴェニスだ。アルノって呼んでくれ」


「はあぁぁぁぁぁ!?」


「なんだよ、いきなりうるせーな......今度は俺の名前に突っかかってきやがって」


「ちがーう! なんでおれの名前全部知ってるんだ! このニセモノめ!」


 は?


「どういうことだよ……じゃあ、お前の名前は……」


「アルノ・ヴェニスはおれの名前だもん!」


 あの場所で目覚めてからの違和感がさらに加速する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。