↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルノス・トリニティ ーId:Venisー  作者: もふもふラリアット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/11

第二話 「再会」


 俺達はパチパチと音を立てて、薪が燃える焚き火を囲み、周りに座り込んで勝利と再会を祝して飲み語らう。

 酒を喉に流し込むシェークが問う。


「プハー。にしても、なんでルフィンはあの戦場にいたんだい? それも傭兵達と一緒になってさ」


「オレは……傭兵になった」


「え……お前……」


「ほう、あれだけ傭兵になることを嫌っていたはずのお前が傭兵に……どういう心境の変化だ?」


 アッシュの問いかけにルフィンの視線は一瞬沈み込むが、まっすぐに俺達を一瞥してから告げる。


「傭兵だったオレのクソ親父が死んだ。そして暮らしていた村は潰れた」


 その場にいた俺は口を縫いつけられたみたいに、言葉を発することができなかった。

 かけられる言葉が見つからない。シェークとアッシュも似たような様子。


「昔は、オレを傭兵にさせようと強制する親父がただ嫌だったし、傭兵なんてクソ喰らえって思ってた。でも親父が死んでから、その真意がわかった」


 ルフィンの手は硬く握り締められ、小刻みに揺れる。


「親父はーー守りたかったんだ。家族を、オレを」


 詳細は知らない。けど、傭兵にはなっても俺の中では、ルフィンは変わらずルフィンのままだ。


「悪かったな。せっかくの再会だってのに」


「俺はーー」


 だから、これだけは言おうと思った。


「偉そうなことは言えねーけど、それがお前の選択ならいいと思う。自分の足で前へ進んだんだからな」


「フッ……十分偉そうだっつの。バカが」


「あぁ!?」


「はいはい、いちいちキレないよ。アルノ」


「ハハ! 湿っぽいのは終わりだ! ルフィンとアルノの尻拭いついでに本格的に飲むッ!」


「尻拭いはアルノだけで十分だ。ってかアッシュ、お前いつからそんな酒飲みになったんだ……」


 その後、ルフィンは俺達と行動を共にすることとなり、4人は再び旅に出る。


『何か』は見つかることがなかった。

 本当に俺はこいつらを巻き込んで何をしているのだろうか。

 それでも楽しかった。またこいつらとバカをしながら旅をするのが。


 それからーー


 とある小国を訪れる。

 その国にもモンスターは変わらず蔓延っていた。

 それを傭兵らしき武装集団が食い止める中、俺達も加勢する。


 ただ、何かおかしかった。

 今更すぎて気にならなかった疑問。なぜ別種族のモンスター同士が群れをなして、街や村を襲うのか。

 ーー俺達は、じきに思い知る。

 

「遅れんなよ、アルノ!」


「うっせ! お前には負けねぇ!」


「2人とも無茶はしないようにね!」


「ハハ! 俺が守ってやるから存分に戦え! お前達ッ!」


 俺達はおびただしく襲いくるモンスターらを斬り伏せていく。

 何もかも順調だった。


 激しさを増す戦場のど真ん中、異質なそれは現れる。


「ーー聖罰を受け入れなさい。己の『無力』を贖いなさい」


 皺の寄った柔和な笑みを浮かべる白髪をした中年の男。


 眼鏡をかけ、首には十字のペンダント。ところどころ、ほつれの見える土埃に塗れた司祭服を着込む。

 そして一切の武装もなくーー戦場に立つ。


 背筋を伸ばす洗練された佇まいは、殺気立つこの戦場において不気味なほどの穏やかさを漂わせていた。


 司祭はモンスターを斬り倒す俺達を見据える。


「いやはや、聖罰を拒むとは…… 自らの『無力』を知らない者達だ」


(なんだ……あいつ)


「おい、おっさんッ! こんなとこで何やってんだ! こんなとこにいないで早く逃げろこのバカ!」


「バカはテメェだ、アルノ。気をつけろ、あの野郎……モンスターに襲われてねぇ」


 眼鏡の男が手を払うと、モンスター達は俺達に牙を、爪を剥く。


(操ってるってのか……?)


 何か……嫌な予感が戦場にあった。

 それでも、この司祭を気にかける暇もなく、次から次へと獣牙は迫る。意志を抜き取られたように。


「無力を知らない者達よ。この私自ら、聖罰を与えましょう。まずは、あなたからだ」


 敵を斬り伏せ、次の対処を急ぐその時。

 柔和な笑みで塗り固められた顔、眼鏡の奥に映る真っ暗闇を写した瞳と、目が合ってしまった。


 悪寒。


 冷水を背中に垂らされ、反射的に体が硬直するように、手足の指先に至るまでピクリとも動けない。


 直感が告げるーー死を。


(早ッ……)


 司祭は既に、俺の間合いを踏破していた。


「アルノォッ!!」


 真横、巨躯が飛び出すーー


 歪な金属音と同時、何かが潰れたような生々しく鈍い音が耳奥を伝う。


「カ……ハッ……」


「アッ……シュ?」


 眼前、司祭の腕がアッシュの腹を貫いて、背から真っ赤に染まった手が生えていた。

 引き抜かれる腕、大きな背中には穴が開く。

 沈むーー今さっきまで、荒々しく豪快不敵に戦っていた男の命はたった一撃で消し飛ばされた。


 嘘、だ……

 

 頭が真っ白になる。

 鼓動が、呼吸が、生命活動そのものを拒絶する。


 ーー苦しい。


「あ……あ、ああぁッ」


 光の届かない瞳、司祭と視線が合う。


「これは驚いた。喜びなさい。あなたは今、神の祝福を得たのです」


「ーーハァァァァァッ!!!!!」


(ッ……!?)


 司祭にルフィンが斬りかかる。

 しかし、白刃は左手5本の指先で、がっちりと掴まれていた。


「オレの剣が……!?」


 そして、腕力だけでルフィンを剣ごと軽く投げ飛ばす。

 身を投げ出された青髪が大きく揺れて転がっていく。


「無駄、無意味、そして『無力』。あなた方のご友人は贖いました。神はきっと、お許しになられるでしょう」


「何だこの化け物ッ……! 逃げろアルノ!」


 依然として闇に染まる双眸は俺を捉えたまま。

 嫌な予感は拭えない。

 ルフィンの声に従うしかなく、思考もままならないまま、後方へと下がる。


「カービング・グランド」


 シェークの立っている地面が大きく隆起し、司祭のいた地面が深く、沈み込んでいく。


「アース・ピラー」


「愚か者共、聖罰を受けなさい……でなくては、私は……」


 沈み込んだ地面から拳大の土柱が十数本、容赦なく飛び出しーーその全てが司祭の体、至るところへ突き刺さる。


「僕は……お前を許さないーーフレイム・ボルテクス」


 逃げ場を絶つ炎渦がーー爆ぜる。

 一瞬の光、吹き荒ぶ爆風に目を細める。


 立ち込める黒煙。熱の余韻を残すように大地は焼け焦げる。ただ、そこに司祭は立っていた。


「な……僕の中級魔術を……!?」


 眼鏡は消し飛び、服は焼け跡を残す。


「ーーなぜ、なぜ、なぜッ! 『無力』を贖おうとしないッ! このままではいけない……私の使命を果たさねば、私は、私は『無力』などではなぃィィイ!」


 突如として怒りを露わにする男、さっきまでの気色悪い穏やかさは見る影もなく、情緒不安定に憤っていた。


 中年の男は走り出す。

 そしてーー跳躍。


(やめろ……)


 シェークの眼前に迫る。


「やめろォォォォッ!!!」


 司祭は腕を一振り。シェークの頭はなくなっていた。


(アッシュも、シェークも一瞬で死んだ……)


「俺が……」


 歯を食いしばり、剣の柄を固く握る。


 化け物は崩壊する土台から降り立ち、気色の悪い引き裂けた笑みを向けてくる。


 手遅れの中、感情が、思考がようやく追いつく。

 その忌々しい面へ殺意を向ける。


「お前を……お前をッ! 今……ここで殺すッ!」


 一直線に突っ込む。

 間合い、気色悪い視線と交錯。

 振り抜く。


 ーーパキィィィン……!


「ッ……!?」


 粉々の鉄片が飛び散る。

 手に違和感がビリビリと伝う。

 俺の振るった切先は、男に傷を負わせるどころか、手のひらに握り潰されていた。


(まだだッ……殺す)


 鋭く踏み込みーー


 ただ、次の動作に繋がることはなく……俺のみぞおちに司祭の拳がめり込んでいく。


「カハッ……!」


 間髪を容れず、胸一点に過剰な圧力ーー蹴りが入っていた。

 息が吸えず、視界が歪む。

 体が吹っ飛ばされ、地面を転がる。


「ハ……ハァ……うあッ……!?」


 重い拳が、俺の顔や体に次々とめり込む。

 反撃の隙もない。

 顔面に一撃を貰って吹っ飛ばされ、背中に突き刺す痛みが走った。


 立ち上がらなければ、殺さなければ……あいつを地獄に叩き落とさなければ。

 全身に鞭を打って立ち上がる。


(殺す……アイツを……)


 眼前、男の拳が振り上げられた時、背後に人影。

 魔力を纏った切先が振り上げられる。

 立っていたのは、ルフィンだ。


 直撃、膨大な血が漏れ出すーールフィンの血が。


 あのルフィンがあっけなく地面に倒れ込んだ。

 腹を引き裂かれて。

 嵌められた。


「フフフフフ……ハハハハハ!!! あぁ……ありがたき幸せ。私は『無力』ではなかった!」


「あ……ルフィン……お前ッ! お前ェェェェェェェェェェェェェッ!!!!!」


 魔力を拳へ回し、なりふり構わず突き進む。

 世界に害を成す害虫の憎たらしいあの顔面へ……


「ハアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 拳を振り抜く。

 視界の途絶。俺は化け物に殴られていた。

 膝から崩れ落ち、目と鼻の先は土一色が広がる。


「あなたは神に祝福された。しかし、神が最終的に選ぶのはこの私!」


(立て……立てッ……今すぐ、コイツの笑顔をぐちゃぐちゃにしてやるッ……)


 振り上げられたのは3人を殺したあの血塗られた手。

 手先は異常に伸び上がり、人ならざる鋭利な手だった。

 それは俺へ、振るわれる。


 ーードンッ!


「ッ……!?」


 俺の体は想像もつかない相手に、横へ突き飛ばされる。

 突き飛ばしたのは死に瀕してもなお、命を懸けて血反吐に塗れながら迫ったルフィン。

 刹那の中、横顔から向けられる視線と目が合う。


 最後に映ったあいつはーー曇りなく笑っていた。


 次の瞬間、化け物の爪はルフィンの胸を背中まで抉り抜き、その命を摘み取った。

 そして、それを握り潰すかのような悪辣極まる笑い声が響く。


「あぁ、痛いなぁアルノぉ! お前を庇ったせいで、腹に穴が開いちゃったぞぉ? ハハ!」


(……!)


 司祭の太い声。似ても似つかないアッシュの真似。

 次に甲高い猫なで声を作り、首を傾げてシェークを演じる。


「酷いよアルノ……君が逃げないせいで、僕の頭が破裂しちゃったじゃないか。……君なんて助けなきゃよかったなぁ!」


 最後に倒れるルフィンの頭を踏みつけ、冷たい嘲笑を真似てみせる。


「オレが死んだのはテメェのせいだ。無能野郎。……せいぜいオレの死体に感謝して、空虚に生き延びるんだな」


 崩れ落ちる。泥に両手をついて震える俺を前に、司祭は覗き込むように屈む。

 俺の肩へ軽くポン、と手を置いて、


「……ッ、ふふ、私が憎いですか? 憎いですよねぇ!?」


 もう片方の手で口元を覆う。指の隙間から見える口元は歪み、吹き出しそうな笑いを必死に噛み殺している。


「だがしかし……! 私より憎い人物が、この世にただ1人だけいるはずです。そう……それはーーあなた自身だ」


 悪辣な笑みを浮かべ、最後に吐き捨てる。


「己が『無力』を抱いて、生きなさい。……プフッ、私だけは、貴方を応援していますよ」


 意志が、希望が、潰える。

 底なしに沈んでいく感覚、体が動かせない。

 違う。気力がなかった。


 俺は『無力』。

 

 視界はゆっくりと真っ暗な深淵へと堕ちていくーー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。