↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルノス・トリニティ ーId:Venisー  作者: もふもふラリアット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/10

第一話 「何か」


「ねぇ、アルーー」

 

 その日、俺の中から『何か』が忽然と消えた。


 思い出せない。


 ただ漠然としていて、それでも大切に感じている。

 その『何か』を探しださなきゃいけない。

 なぜだか、そう思わずにはいられなかった。


 今思えば、この時点で既に歯車は、少しずつ狂い始めていたのかもしれない。


 ーーあてもない旅が始まる。


 腰に剣を帯び、茶色い革の胸当てやグローブにブーツを付け、それから深緑の外套を羽織る。

 最後に水と食料の入ったカバンを背負って家を後にする。


 旅立ってから間もない頃だった。世界各地で異常な数のモンスターが湧き始めたのは。

 街道は塞がれ、隣町に行くだけで命がけの世界へと変わり果てる。


 だが、それは俺の『何か』を探す旅にも暗い影を落とした。

 手がかりもないまま、手探りで世界を彷徨えば、モンスターは何の躊躇いもなく牙を剥く。

 ただ歩くことすら、命がけの試練へと変わっていった。


 迫るモンスターを斬っては逃げを繰り返し、なんとか生きながらえた先ーーとある村に辿り着く。

 

 既に村人達はモンスターの襲撃を受けていた。

 1人が喉元を噛み殺され、死体からどろりと漏れ出した血溜まりが出来る。

 それを見た周囲が悲鳴を上げて恐れ慄く。


 当時の俺は、何も悪くない人が人生を奪われていくのが嫌いだった。


 その人物が本当に悪かどうかすら、知る由もないというのに。

 ただ自分で決めつけただけの身勝手なエゴだ。


 そんなエゴを振り翳し、剣を抜き放つーー


 モンスターの体毛に覆われた頭部へと切先を突き刺し、討伐。それから俺は、村に1週間ほどの滞在をする。


 その僅かな期間を使って『何か』を探し出す。

 村人達との交流や、村周辺の探索を行う。

 しかし、期待出来る情報はなかった。


 この村に、探している『何か』はないと悟り、村を発つ。

 以降も各国の街や村を巡った。

 その度に街や村の脅威となるモンスターの討伐に協力しては、情報を集め続ける旅を繰り返していた。


 だが、『何か』は見つからずじまい。

 そもそも大切だと感じているのに、なぜ何もわからないのか。俺は一体何を探しているのか。

 無駄なのかもしれない……


 心が荒む中、人の行き交う街中を歩く。


「ーー君は……アルノかい?」


 懐かしい柔らかな声。

 振り向けば、見慣れたボロボロのローブと、先端に小さな魔石が嵌まった杖を携えた魔術師が立っていた。

 風に揺れる淡い茶色の髪の隙間から、懐かしい顔が覗いている。


「そういうお前はシェーク……?」


 シェーク・アセトナ。

 昔より少し背が伸びていたが、どこか人を安心させるような、穏やかな眼差しは間違いなくあいつだった。


「うわ、やっぱりアルノだ。なんだいその死人みたいな顔は。ちゃんとご飯食べてる?」


「うっせー。お前こそ、そのボロボロのローブまだ着てんのかよ」


「愛着だよ愛着! ……でも、ちょうどよかったよ。まさかこんなところで君に会えるなんてね。今は何をしているんだい?」


「あぁ、ちょっと探しものがあるだけ……」


 何かを察したシェークは深く踏み込まずに、フッと笑った。


「そっか。アルノ、お腹は空いているかい? 僕が奢るよ。君、食べるの好きだったじゃないか」


「い、今は普通だっての……まぁ、奢ってもらうけど」


 それから俺達はギルド内で飯を食べる中、互いの近況を話し合った。


「そういやさ、なんでシェークはこんなところに立ち寄ったんだ?」


「金稼ぎさ。ほら、最近モンスターが増えてきただろ? 稼げる時にしっかり稼いでおこうって思ってね。色んなパーティを転々としてた訳」


「じゃあさ、掲示板の依頼書びっしりだったけど、もしかしてあれ全部討伐系だったってことか?」


「そうそう。まったく……どこから湧いて出てるんだか、未だに判明してないらしいよ」


「そうなのか……今のご時世モンスターの数が多いと魔術師はパーティで重宝されやすいんじゃないのか?」


「まぁね。中級魔術を安定して使えるだけでも、引く手あまたさ。……それよりも」


 急にシェークは声のトーンを低くして話し始める。


「アルノ、君は……魔術をまた使えるようになったのかい?」


「いいや、全然。でもさ、これでもいいと今は思ってる。確かに、魔術をまた使えるようになって魔術師になれたらとは思ってるよ」


 でも、今の俺にも剣を振り続けたい理由がある。


「ーーまた4人で旅したいから」


「アルノ……」


「だからそん時のために剣で強くなろうと思ったんだよ。それに、あのバカには負けたくねぇし」


「あはは! 君ってば、まだルフィンに対抗心を燃やしているんだね。あいつが聞いたら絶対に鼻で笑うよ!」


「剣であいつには負けたくねぇ。絶対勝つ……!」


「……アルノ。僕もその旅に付き合っていいかな? それなら探しものだって、2人で探した方が早く見つかるかもしれないしさ」


「い、いいのか!? いよっしゃ! よろしくなシェーク!」


「あぁ! よろしく頼むよ、アルノ」


 それからシェークと共に、旅を始めたあの頃と同じ、旅を始める。


 各地の街や村を転々としていく中、とある危険地帯を訪れる。

 武装した人々と自我のないモンスター達との衝突。


 俺達はモンスター討伐に加勢しようとする。

 その中、猛々しく戦場を暴れ回る1人の男がいた。


 短く刈り込んだ黒髪に、筋骨隆々の巨躯。

 無骨な鉄の鎧を纏い、爪痕だらけの丸盾と片手戦斧を、力強く振り回す大柄の男。


 アッシュ・トラウエン。

 かつての旅で、どれだけ危険な前線でも絶対に俺達を後ろに通さなかった頼れる大男。

 相手を軽々と叩きのめす力は健在のようだ。


「アッシュのやつ相変わらずの馬鹿力してんのな」

 

「行くよ、アルノ。僕達も参戦しよう」


「あぁ!」


「アクアネイト・レイ」


 シェークが中級の水属性魔術を放った。

 宙に舞い上がったいくつもの小さい水玉。そこから収束された鋭い水線が、雨のように真下のモンスター達へと降り注ぐ。


 俺は剣を抜き放つ。

 体の表面に浮かぶ半透明のオーラーー『魔力』が刀身に流れ、纏う。

 そして、アッシュの横へ。


「よう、アルノ。元気そうだが、相変わらず背は低いな!」


「伸びたわ! お前がクソデカすぎんだよ」


「ハハ! まぁいい、話はこいつらを片付けた後だ!」


 戦場に魔力の剣跡が走り、戦斧が敵を叩き割った。

 そして、戦いは勝利に終わる。


「ハハハハ! 助かったぞ! アルノ、シェーク!」


 豪快に笑いながら、アッシュが俺の背中をバシバシと叩く。相変わらず手が重くて痛い。


「痛ッ……! 何すんだ! このデカブツ!」


 鎧を脱いだアッシュの腹を殴る。

 俺の右拳は壁のような腹筋にせき止められた。


(硬ッてェ……)


「俺は今鉱石でも殴ってんのか……?」


「それよりもアッシュ、君はなんでこんなところで戦っているんだい?」


「気分だ!」


「はは! 相変わらず軽いね、アッシュは」


「脳みその重さを筋肉に全振りしたんだろ」


「逆にお前達はなぜ2人でいるんだ?」


 アッシュにこれまでの旅の経緯を話す。


「宛のない旅ということか。よし、決めた。俺も行くぞ!」


「決めんの早ッ……シェーク、お前同行を決める早さアッシュに負けてるぞ?」


「はぁ……別に競ってないって。よろしく、アッシュ」


「あぁ、またよろしく頼む! さて……今日は再会の祝いだ! ジャンジャン飲むぞ!」


 アッシュが加わり、また賑やかになった。

 昔のように。

 ただその後、俺とシェークにはアッシュのクソデカいびきと2日酔いの二重苦が待ち受けていたのはまた別の話。


 俺達3人は再び町や村を転々としては、その度にモンスターを討伐した。

 しかし、肝心の『何か』は今も見つからないまま。


 それからまた時間は進む。


 とある荒野、モンスターが中規模に出現する。

 近くにある街を守るため、傭兵団が防波堤として立ち塞がった。

 俺達はそこへ加勢することとなる。


 モンスターは恐らく50体ほど。

 対して俺達は数十人規模。

 戦いは熾烈を極める。


「アッシュ!」


「任せろ!」


 アッシュがモンスターの攻撃を盾で防ぎ、一撃を入れる。俺は前へ駆け出し、2体を斬り伏せる。


「フレイム・ボルテクス」


 シェークの火属性中級魔術。

 螺旋状に旋回する炎が数体のモンスターを焼き払う。

 2人がいるだけで負ける気がしなかった。


「よし! 俺だって」


 白刃を覆う魔力がモンスターを斬り倒していく。


「へへッ! まだまだーーッ……!?」


 俺の視界全てを巨影が染め上げる。

 殺意が俺に牙を剥く……かのように思われた。

 

 ーーやつが来るまでは。


 巨影が晴れ、モンスターは力なく地に沈む。

 モンスターの頭には、半透明の魔力を纏う剣が突き刺さり、その上にーーそいつはいた。


「相変わらずの無様さだな。アルノ」


 風に揺れる、鮮やかな青い髪。

 軽装の黒い革鎧を纏い、剣の柄に片手を乗せて不敵に笑う男。


「テメェは……」


 呼び覚まされた対抗心から、手に力が加わって剣を固く握り締めていた。

 間違いない。


(俺の記憶にある中で、世界で1番ムカつくあの憎たらしい面は……)


「ルフィン……!」


「よかったな、オレに助けられて。感謝しろよ? 危うく無様な死に様を晒すとこだったんだからな」


「あの程度で俺が死ぬとでも思ってんのかよ。だとしたら、相変わらずお前の目は節穴ってことになるぜ」


「ハハ! ルフィン、お前もここに来ていたとはな!」


「やれやれ、また騒がしいのが増えたね」


「また騒々しいお前らの面を拝めたんだ。なら……やることは1つだーー」


 ルフィンは敵を切り伏せながら決意、意志をあらわにする。


「今からお前ら3人は絶対に死なせねぇ。敵は全員このオレがぶっ潰す」


「ふざけんな、おんぶにだっこ? お前1人でアッシュを背負えるってか? ぺしゃんこ間違いなしだっての」


 かつて追いかけた背中を追って、強引に横へ並び立つ。

 俺とルフィンは魔力を切先に纏わせ、剣を構える。


「やれんのか? アルノ」


「テメェは下がってろよ、ルフィン!」


 ーー駆ける。


 久々の再会を果たした俺達は相変わらず競い、助け合いながら敵を殲滅し、数的不利を覆す。


 戦いは勝利を収めた。


 血生臭い戦場だというのに、久々にこいつらと再会できたことに俺は、高揚していた。


 この仲間達となら、あの失った『何か』を取り戻せるんじゃないか、と――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。