第十一話 「活性」
おれの名前はアルノ・ヴェニス9歳。
昨日始めた魔力コントロールがむずかしいです。
「どうしたんだよ、アフル。早くしないと置いてくぞ?」
違った。
今のおれはアフル9歳です。
フォルスとアルノを名乗るニセモノへ走り出す。
「今そっちいくもん!」
手にひんやりが伝わる。
「ふへへへへ」
キラキラした小さい鉄の棒。
大っきい犬倒したおかねで魔術の杖を買ってもらった。
(これでもっとすごい魔術撃つ! あと帰ったら、ししょーにいっぱい自慢しよ!)
「デパルを発つ。2人は準備と忘れ物はないか、確認は済んだか?」
アルノは背負った茶色のリュックを手で軽くポンポン叩く。
「日持ちする食料にリュックとかも買ったし、忘れ物もないよ」
「おれの荷物はこの杖だけ!」
杖をビシッと掲げると日光を浴びて先端がピカリと光る。
「そうか、なら出発しよう。次の街はウィキニアだ」
「こっから北に進めばいいんだっけ?」
「その通りだ。ついでに言っておくが、昨日の魔力コントロールの修行程度なら歩きながらでも出来る。やる気があるのならやってみるといい」
「おれやる!」
次の街まで歩きながら、おれとアルノは修行を始めた。
昨日の感覚を思い返す。
ーー昨日の食後、デパルの広場。
「体のどこかに魔力を集中させることはできるか?」
「ふへへ、おれできるもんね!」
「それって魔術を扱う時に覚える初歩的な魔力コントロールの基礎技術だよな? 手に魔力を集めたりして感覚を覚える的な」
「それは魔術を扱うためのものだ。あくまで、これからやるのは魔力コントロールを最大限、扱えるようにするのがメインになる」
おれは右手を前に出して魔力を集中させる。
透明なユラユラとした魔力が手のひらに集まる。
アルノもおれをマネして右手を構えた。
「それを体の表面に張り巡らせてみろ。まずは右手から徐々に腕へ、次に胴体、途切れないよう体中に張り広げるんだ」
手のひらにある魔力を少しずつ腕を伝わせて体中に張り巡らせようとする。
「フンーッ! 伸びろッ……!」
魔力は右肘までしか伸びない。
全然伸びてない、なんで!
隣のアルノを見る。
「ダメだ……胴体に差し掛かる前に肩で止まる」
「初めてにしてはできている方だ」
「アルノずるい! なんでおれより伸びてるの!」
「俺は前から魔力使って戦ってたんだよ。まぁ、魔術ばっかにかまけてサボってたお前とは違うからな」
「なんだとー! おれより魔術使えないくせに」
「ぐはッ! お、お前この野郎……」
「落ち着け、お前達。さっき話した魔術と魔力コントロールを思い出せ」
「ハッ、イメージは魔力にも付与することが出来る。だったか?」
「じゃあ、なにイメージすればいいの!」
「魔力を薄い柔軟な膜だと認識してそれを体表面に張るイメージはどうだ?」
「おれがやる!」
「俺がやるッ!」
「おれが先にやる!」
「うっせぇ! 先とかあるかバカ!」
ーーデパルを出た現在に戻る。
むかつくとこまで思い出した。
(フンだ! おれのニセモノなんかに負けるもんか!)
「むむむむむん!」
薄く伸ばす……!
魔力が右手から伝っていき、肘でピタリと止まった。伸ばそうとしても引っかかったみたいに伸びない。
「また出来ない!」
透き通った魔力がホロホロ消えた。
赤茶髪のニセモノを横目でチラリと見てみる。
「あー、クソッ! また同じところだ……肩までは魔力を薄く伸ばせるのに」
「これは時間がかかる。ゆっくりと時間をかけて魔力に慣れろ。これは使っていない筋肉と同じなんだからな」
「筋肉!? そんな柔軟体操的なもんなのか?」
「そうだ。固まった筋肉は1日では柔らかくならない。時間をかけてほぐす」
「魔力をほぐす! うすーい感じでほぐす!」
そんなこんなで修行しながら歩き続けて数日が経ち、次の街ーーウィキニアに到着していた。
着いた頃には、夕陽でオレンジ色に塗られたような街中をだらだら歩く。
「つーかーれーたー」
「結局、この数日かけても魔力の伸びは変わらなかったなー。むしろ途中から魔力が縮まってた気がするし」
「おれも……全然伸びない」
「魔力が減ったからだろう。今日はもう宿屋に行って各々休んでから、続きはまた今度にしよう」
「せっかくだし、明日何するかちょこっとだけ決めとくか?」
「明日は修行……!」
「デパル出発前の買い込みで金が減ったはずだ。良さそうな依頼を探しにギルドへ行くのはどうだ?」
「お、いいなそれ! ついでに気分転換で街もブラブラしたい!」
「決まりだ」
『ぐぅぅぅ』とお腹の音が鳴った。
「フォルス、干し肉ちょうだい。つかれてるのにお腹もへった、なんでもいいから食べたい」
「お前感情以外の表現も豊かだよなぁ。昔の俺でもそこまで欲に忠実じゃなかったね」
「おれは頭も豊かだから、アルノが前にお腹鳴ってたのしっかり覚えてるもんね」
「頭豊かなんて言葉聞いたことありませーん。つまりなんですか、アフル君は自分のことをバカだって言いたいと?」
「な、なんだ……」
むかっときたのを抑える。
なんだと! が出そうになった。
(よくよく考えれば、ニセモノなんかにおれのすごさ知られても別にー? 嬉しくないもん)
「フン! いいもん別に、ニセモノにおれのすごさを理解できなくてとーぜん! 褒めてくれなくたってフォルスならおれのすごさわかってくれるし、褒めてくれるもんね!」
「そ、そうだな……まだ若いのに魔術を使っているんだ。今でも魔術はすごいが今後、さらに伸びるかもしれないな」
おれは腕を組んで、うんうんと首を縦に振る。
「アルノ、少しでいい、褒めてやってくれ……」
「そうだ! そうだ! 褒めてくれれば許してやらんこともない!」
「はぁ? フォルスまで何言ってんだよ……このガキさっきと言ってること違うし、結局褒めてほしいだけじゃねーか」
アルノはため息を吐いて、おれを見ながら考え込む。
そして出てきた褒め言葉は、
「あん、なんか……すげーや……すげ」
「なんだとーッ!」
なんだと! が爆発する。
アルノの深緑のマントを両手で掴みかかって、グワン、グワンと引っ張ったり、押したりを繰り返して揺さぶる。
「お、おい! やめろ! 服が伸びるわッ!」
それでも揺さぶり続ける。
いかりの限り、マントを伸ばしてやる!
「あべっ」
額にズキンと痛みが走るーーアルノのデコチョップが入った。
痛みのあまり、変な声と同時に服からパッと手が離れる。
額をさすさすしながら睨んだ。
「この! へそ曲がり!」
「落ち着け、アフル。アルノはただ素直になれない年頃なだけだ」
「いや、全然本心なんだが? フォルス全然俺のことわかってないよね?」
「そんなことよりだ。ほら、着いたぞ。あそこが今夜泊まる宿屋だ」
フォルスはゆらゆら揺れる旗を指差す。その下に宿屋があった。
おれとアルノもその『休める場所』を見て、休戦することにした。
それから翌日の昼。ぽかぽかのいい天気。
ギルドで昼飯を食べ終わり、依頼掲示板の前。
「なぁフォルス、この鹿なんてどう? 報酬金は高い訳ではないけど、修行には持ってこいだったり?」
「おれにも見せて!」
おれは高いところに貼ってて見えないからジャンプする。
その隣、フォルスはじっくり依頼書を見つめていた。
「確かに修行になるかはわからないが……まぁ、いいだろう」
フォルスは依頼書を取り、3人で受付へと向かう。
受付のお姉ちゃんに依頼書を渡すと、
「モンスターの活性化のことは聞いていますか?」
「活性化? なんだそれ? 聞いたことないけど?」
「現在、王国内各地で本来の生態とは異なる動きを見せて、気性が荒くなるモンスターが急増しているとの情報があるんです」
フォルスは眉を寄せながら聞いた。
「何が原因だ?」
「それが、まだ原因不明とのことでして……討伐依頼に向かう際は十分に気をつけてください」
「この辺のモンスターの活性化はどうなっている?」
「現状、ウィキニア一帯での活性化報告は3件。3件とも危険度の低いモンスターに起こり、いずれも討伐済みなため、各地よりは比較的安全ではあります」
「もしかしたら、まだ活性化モンスターがいるってことだよな?」
「万が一のこともあります。身の危険を感じた段階で早急な撤退をしてくださいね」
ーーこうして向かった鹿狩り。
森の中、木々が少なくて地面に日が差してる場所。
まるで、ここだよ! と言ってるみたいに『それ』は映り込んだ。
「おわ……」
喉がキュッと締まる。
思わず目を隠したくなった。
嫌な臭いが鼻の奥に流れ、ごくりと生唾を飲む。
目と鼻の先ーー
人やモンスターが潰れて地面が真っ赤になっていた。




