第十話 「教えて! フォルス先生」
夜が明けて日が昇る。
昨日の疲れは回復していつでも動ける状態だ。
宿屋の廊下で起きてきた黒髪の男ーーフォルスと合流する。
「アルノ、昨日はよく寝れたか?」
「ああ、そりゃーもうぐっすり寝れた。おかげで今日も万全に動けそうだよ」
「そうか、よかったな……ところでアフルはどうした?」
「まだ見てないな。昨日から全員結構寝る時間はあったろうし、起きたか確認するか」
アフルがいる部屋の扉をコンコンっと3回ノックする。
「おーい、アフル起きてるか〜?」
「……」
昨日、あれだけうるさかったやつの返事は聞こえず、全くと言ってもいいほど静かだった。
「あれだけ夕飯時は騒がしかったくせに朝食はずいぶんと静かじゃねーか」
「まだ子供だ。朝が弱いんだろう、少し大目に見てやれ」
「あ、じゃあさ、フォルスに1つお願いがあるんだけど」
「なんだ?」
チャンスがあるなら早めに掴んでおくべし、だ。
少しでも早く強くなってあのバカをギャフンと言わせたいしな。
「俺に魔力コントロールの修行をつけてくれ!」
「……修行?」
「あぁ! 俺も昨日のフォルスみたいな魔力コントロールができるようになりたい!」
それを聞いたフォルスは何か考え、数秒黙り込む。
そして俺を試すように問いかける。
「修行をつけるのはいい……だが先に言っておくが、あれは簡単に身につくほど簡単じゃない。この旅の中で身につけられるほど甘くもない」
「それでもいいんだ、教えてくれ! フォルス頼む! 毎日ご飯のおかず分けてあげるから!」
本気と誠意を伝えるために渾身のおかずとセットにパシッと両手のひらを合わせてお願いする。
「俺をアフルだとでも思っているのか? はぁ……わかった。そこまで言うなら教えてやる……」
「いいのか!? へへッ、ほんとにありがとな!」
やる気という熱い昂りが体のうちから溢れ、漲る。
(よしッ! あのすごい魔力コントロールを使いこなしてまだまだ強くなってやる!)
フォルスが何か言いかける。
聞こえてきたのは『キィィ』という声。
違った。それは俺達の横にある木製扉が開く音だ。
「うるさ〜い、朝からうるさい……」
茶髪がボサボサで、寝ぼけ眼のアフルが部屋から出てきた。
赤ローブの袖で目をゴシゴシ擦る。
「チッ、もっと寝てりゃいいのに」
「なんだと〜、今悪口言った、朝食べたらボコボコに、する……」
「今じゃねーのかよ、後悪口じゃなくて嫌味な」
「そこまでだアルノ、朝食後にまた教えてやる」
ーー朝食を食べ終えた俺達は街の広場に来ていた。
「そんじゃあ、修行の続き頼むよ」
「おれもやる! フォルス教えて!」
「お前には関係ねーよ、あそこの野良猫と日向ぼっこでもしてろ」
俺の指差す先には、お腹の白いキジトラ猫が体を石畳にべったりつけて横に寝転がっていた。
3人の視線を感じ取った猫は、退屈そうな細目でこちらを見つめてくる。
「やだ! おれも修行する、フォルス教えて!」
「構わないが、魔力コントロールは簡単じゃない。身につかないかもしれないぞ?」
「やる!」
「そうか、ならせっかくだ、魔力コントロールを含め、ついでに魔力と魔術について話そう」
アフルは夢中なのか、『おわぁ!』と声を漏らし、目をキラキラさせて熱心に聞き入る。
「アルノもそれでいいか?」
「それで全然いいけど……」
そうだな、最近あんまり学んでなかったし、丁度いいかもな。
「まず、魔力についてだ。魔力は自身に流れるエネルギーであり、魔術や纏うことに使う燃料だと思っていい」
「魔力……燃料!」
「次に魔力コントロール、これは効率だ。いかに魔術などに使う燃料を減らし、質を上げるか」
「その質ってのが、フォルスの一刀両断に繋がるのか?」
「正解だ、魔力には燃料とは別の側面がある。質の高い魔力、それ自体が武器になり得るということだ」
(武器……もしかすれば一刀両断の仕組みが聞けるのか?)
「魔力の質が高ければ、魔力は魔術と同等の仕組みを得ることが出来るからだ」
「同等の……仕組み? どういうこと?」
「魔術を撃つ時、一瞬でも思いえがーーいや、使う魔術のイメージをするだろう? イメージは魔力にも付与することが出来る」
「それがフォルスの真っ二つ!」
「そうだ。魔力にイメージを付与する、お前達が修行で目指す姿もこれにあたる」
「じゃあ、あの時フォルスは身体能力が上がるっていうイメージを魔力に付与したってことなの……か?」
「あれに関しては、ただ付与するだけでは完全と言わない。その魔力を全身に纏って初めて完成する」
「なんかすごい! フォルスすごい!」
「……」
はしゃぐバカの隣、手に力が入らなかった。
フォルスが頂きの見えない巨大な壁に見える。
ダメだ……いくら考えてもフォルスのように出来る気がしない。
言葉では簡単に言ってるけど、
(フォルス……お前は一体、どれだけの負荷を背負ったんだ?)
「最後に魔術。魔術は器だ」
「魔術! ……器?」
「魔力という燃料が自己のイメージを通して形を成し、魔術という器となって現れるということだ」
「魔術、すごい! 魔術、最高! フォルスもっと教えて!」
こいつはさっきからノリだけで本当に理解してるのだろうか。
「基本4属性魔術はわかるな? 火、水、土、風の4つからなる一般的に使われている魔術」
「習った! あと4つの魔術には初級、中級、上級もあるって! 上級はちょー強い! 上級最強!」
「初級はあんま大したことないもんな」
チラっとアフルを見る。
視線がかち合った。
どこか小馬鹿にした視線を察したのか、プルプルと肩を震わせる。
「初級だって強いもん! おまえなんか初級で一捻りにしてくれてやる!」
「はぁ、やめろお前達、急にケンカを始めるな」
フォルスがやれやれと止めに入り、話を再開した。
「派生属性魔術は知っているか? 火、水、土、風から2つ以上の組み合わせで生まれる魔術のことだ」
「おれ知ってる! ……けど難しくて出来ない」
「水と風合わせて氷属性とかだよな? 俺もあんまし見かけたことないけど、一般的にムズイのか?」
「基本4属性と違ってイメージと制御が複雑で器として使うには難しいようだ。基本と呼ばれない訳だな。それと基本4属性を極めた者だけが、辿り着ける治癒魔術も派生属性の一種とされている」
(治癒魔術……昔、師匠が使ってた……やっぱ師匠ってすごい魔術師だったんだな)
「じゃあさ、固有魔術は?」
ただ、それだけの興味本位だった。
聞いたことだけしかなかった魔術。
もしかしたらフォルスなら知ってるかもしれないと気になった。
途端、フォルスに違和感。
普段の疲れ切った雰囲気に冷たさが混ざり込む。
フォルスの表情が少し暗くなった気がした。
「フォルス……?」
「……何でもない、最後は魔術の極地とされる固有魔術だ」
アフルは聞いたことがなかったのか目をパチパチと瞬かせ、はて? と首を傾げる。
「ここまで話した魔術とは違う。属性の枠を越え、理から外れた力が働くこともある」
フォルスの目は暗い何かを物語るように重苦しさを乗せた鋭い目つきへと変わっていく。
「まさにその者だけの世界を、その者だけが使える器として創り上げてしまう。それが固有魔術だ」
「はいはい! 固有魔術っておれにも出来るの? おれもやりたい!」
「わからない。ただ1つ、揺るぎない意志、もしくは圧倒的なまでの自己を持っていた」
俺とアフルを見て問う。
「……説明は終わりだ、何か聞きたいことはあるか?」
そう言い終えるとフォルスは目を閉じ、軽くため息を吐いてから呼吸を整える。
どこか陰鬱とした雰囲気が消えていく。
(今の触れない方が良かったのだろうか?)
ゆっくりと目を開けて俺とアフルを見る。
「ない!」
思考を切り替え、フォルスの一刀両断を思い出す。
魔力コントロール、あのレベルに追いつくのはどれだけかかるのだろうか。
昔、魔術を失った。
なりたかったものを思い描くことはもう出来ない。
俺は魔術師にはなれない。それでもこの手にあるもののためなら。
(強くなりたい……守りたい人のために。肩を並べて戦ったあいつらとも、また一緒に戦いたい……だからーー例えどれだけかかろうが、意地でも食らいついてやるッ!)
「質問はないようだな。それならイメージを元に魔力コントロールの修行を始めよう」
俺は前へ歩みを進める。




