最終話 未来へ
今まで読んでいただきありがとうございました、
向日葵の体は少しずつ回復していた。
無残だった右手ですら、ようやく手と分かるほどまで癒えている。
それでも、まだ目を開けることはなかった。
神無月も梅も、回復の手を止めることはない。
神無月が必死に叫ぶ。
「戻ってこい!」
梅も涙をこらえながら声を掛ける。
「諦めないで!」
月花たちは向日葵を囲み、誰も諦めることなく見守っていた。
睦月は震える声で語りかける。
「帰ってこいよ……約束しただろ……。」
「俺を……置いていくなよ……。」
「パフェだって好きなだけ食わせてやる! だから俺のところへ戻ってこい! 向日葵!」
かすかな声が返ってきた。
「……約束……守ってよ……。」
「ひ、向日葵!」
睦月は思わず向日葵を抱き締める。
「い、痛い……死ぬ……。」
向日葵の弱々しい声に、百合と師走が慌てて睦月を引き剥がした。
「睦月さん!」
「離れろ!」
睦月は青ざめながら頭を下げる。
「……す、すまん……。」
皆が安堵した、その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ――。
島全体を揺らす激しい地震。
「なんだ!?」
卯月が辺りを見回す。
「地震ですの?」
百合が足元を押さえた。
薔薇が海岸へ目を向ける。
「かなり大きいですわ!」
揺れはさらに激しくなり、島の海岸が崩れ始める。
「ヤバい! 島から離れろ!」
如月が叫ぶ。
「立ってられない!」
蒲公英も体勢を崩した。
月花たちが脱出方法を探そうとした、その時。
月狼と宵うさぎが皆の前へ静かに立った。
月狼が低く告げる。
「落ち着け。私が何とかする。」
宵うさぎは寂しそうに月狼を見つめる。
「月狼さん……やっぱり、なるんですね?」
「ああ。それしかない。」
事情の分からない月花たちは、ただ二人を見つめるしかなかった。
宵うさぎは小さく息を吐く。
「神がいなくなったから、この島の崩壊が始まったんだ。」
そして静かに続けた。
「だから……月狼さんが神になるんだ。」
「そうすれば、全部収まる。」
彼岸花が尋ねる。
「月狼さんが神になると?」
「月へ行くことになる。もう……逢えない。」
宵うさぎは唇を噛み締める。
「月狼さんが神になったら、もう月花大戦は行われないと思う……。」
向日葵が問い掛ける。
「宵うさぎさんは?」
「私は一緒には行けない。」
「私には、やることがあるから……。」
百合が口を開く。
「他に方法はないのですか?」
月狼は静かに首を振る。
「ない。」
その声にも迷いはなかった。
「時間がない。」
「宵うさぎ、後は頼む。」
宵うさぎの瞳から涙が溢れる。
「月狼さん……。」
「はい! 後は……任せてください!」
「すまん。」
月狼は両手を天へ掲げた。
まばゆい光が月狼を包み込み、その体はゆっくりと空へ昇っていく。
「月狼さーーん!」
宵うさぎの叫びだけが、空へ響いた。
やがて月狼の姿は光の中へ消え、島を揺らしていた地震も静かに収まっていく。
月花たちは、それぞれ島からの脱出を始めた。
名家と共に帰る者。
1人で旅立つ者。
2人で歩み始める者。
仲間と新たな道を選ぶ者。
この大戦を経て、誰もが少しずつ変わっていた。
それぞれが、自分の意思で未来を選ぶ。
睦月と向日葵。
百合と師走。
如月と撫子。
葉月とネモフィラ。
月見草、朝顔、カトレア、南天。
弥生と鈴蘭。
神無月と彼岸花と薔薇。
それぞれが、それぞれの人生を歩み始める。
宵うさぎは静かに夜空を見上げ、優しく微笑んだ。
「月狼さん……ちゃんと、この人間の世界を見守るよ。」
――END――
本当にありがとうございました。
今後月花大戦のスピンオフ書くつもりでいます、そちらもよろしくお願いいたします。




