第二話
「いとちゃんとせりちゃん、うちのエースと臼井さんとこのエースの夢の共演!!!熱いじゃん!有能コンビでサクッと終わらせて給料上げちゃおうよ!!」
小さな会議室にギャルの声が反響する。ギャルをもってすれば、無機質な会議室もカラオケボックスのようになる。ギャル、恐ろしや。
二人から聞いたところによると、今回の仕事は新商品の発売に合わせてWEBの紹介ページを作る。やること自体はシンプル。ただし、大企業なこともあってかデザインの監修はそれなりに厳しいとか。
「ちょーっと担当者さんが細かい人だからそこだけ面倒なんだけど、いとちゃんなら大丈夫だと思うんだよね」
「そうですね、聞いた限りではよくある案件だと思います。うん、大丈夫です」
強いて言えば時間が無いくらい。小さくつぶやき横目で隣を見やる。
真剣な表情でキーボードを叩く芹羽を見る。PCの画面を見ると、二人から説明された内容が綺麗にまとめられていた。
「先方とのやり取りと全体の指揮は武見さんにお願いできるかな。市川さんは武見さんの動きを見つつ、何か依頼されたときに手伝ってあげてほしい。葉山さんもそれでいいかな?」
「良きです!いとちゃんの仕事っぷりを見て色々勉強させてもらおうね~。ちっちゃいけどせりちゃんよりお姉さんだから!」
「…平均以下ですけど、そこまで小さくないです。飴もいりません」
どれが良い~?と飴ちゃんを差し出してくる手を払い、口を尖らせながら言う。
今は大ハラスメント時代だ。臼井さんの苦笑いは正解だと思う。
◇
「こんなところかな。悪いんだけど、市川さんだけ先に戻っててもらえる?」
会議室に入ってから30分弱。聞きたかった話は全て聞けたのでお開きになる直前、腰を上げかけた私たちに臼井さんが告げる。
「わかりました。では、失礼します」
熱も妖艶さもない、いつもより一つ低いトーン。丁寧に頭を下げ芹羽は会議室を後にした。
彼女が立ち上がった瞬間に漂った甘い香りに一瞬体が強張る。
「大体の進め方はさっき話した通り。武見さんメインでよろしくね」
「それで…忙しいところ申し訳ないんだけど、市川さんにはあんまり無理をさせない方針でお願いできるかな」
課長という立場が脅しにならないようにしているのか、なるべく穏やかで気を使った声色で告げられる。
「知ってるとは思うけど、ここ最近新人がギブアップしちゃうことが多くてね…。市川さんはこの先も頑張ってほしいから、なるべく無理はさせたくないんだ」
まあ、そういうことだろうとは思った。新人の退職が目立っているのは知っていたし、そもそも元は一人でやるつもりだった仕事だ。相方が芹羽だろうがそうでなかろうが、最低限しか任せる気はなかったから問題ない。
「もちろんです。私も可愛い後輩がいなくなるところは見たくないので」
嘘偽りのない愛想笑い。
隣のチームだとしても、人が減ればその分忙しくなる。彼女がいなくなると困る人はたくさんいるだろう。
「いとちゃんがいなくなるところも見たくないよーーー!!」
はいはいと適当にあしらいつつ、頭を下げて会議室を後にする。
それなりに忙しくはなりそうだけど、多分大丈夫。
仕事に関しては、多分…。




