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無色透明に君が滲む  作者: 莉乃
夢を乗り継いでいく
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第一話

 あれから数日が経った。一言断るだけ。そう決心したはずなのに、私は答えを出せないでいる。


 今振り返っても彼女の行動は異常だと思う。でも、異常なのに今のところ一線は越えていない。そこに何か引っ掛かりを感じる。


 現にあれ以降芹羽からの連絡はなく、すれ違っても小さく会釈をされる程度。彼女に狂気染みた想いがあるのなら、とっくに行動を起こされていると思う。



 なんで好きなのか…理由を聞いてみる…とか。



 いや、おかしい。数日間考え込みすぎて頭が乙女になってしまっている。聞いた瞬間にこの前のように絡めとられて終わり。そんな未来しか見えない。


 でも…何か理由がないとおかしい。


 大きくため息。答えが無いことを延々と考えるのは疲れる。


 私はどうすれば良いんだろう。


    ◇


「えーーーーーーー!もったいないじゃん!受けようよ!!」


 思考を巡らせながらぼーっとモニターを眺めていると、フロア中の寝ぼけまなこを覚ますような大きな声が聞こえた。声の主は…出どころを探るまでもない。葉山さんがこのテンションの時は、あまり良くないことが起きる気がする。


 声の先を見やると、熱意とオシャレをモットーにした我らが葉山課長と、いつも困った顔をしている隣のチームの臼井うすい課長が一つのモニターを眺めていた。


 一度考えるのはやめようと一息ついたところでチャットの通知が届く。業務中にチャットが届くなんて日常茶飯事だ。何もおかしいことはない。


 それなのに、一瞬息が止まる。



『いとちゃーーーーん、ごめんけど、落ち着いたらこっち来てくれる???』


 ギャルか。


 直接呼びかけられる距離にはいるけど、チャットで都合を聞いてくれる辺り、この人は一応管理職なんだと思わせられる。


「承知です」とだけ返して席を立った。


    ◇


 どうやら、超大手飲料メーカー様。要するに、断れないところから急ぎ目の大型案件が届いたらしい。


 WEB系の代理店であるこの会社では、チーム単位でそれぞれクライアントを抱えており、他所のチームが抱える仕事に介入することはほとんどない。今回のは臼井さんチームの担当ではあるが、正直チーム内でさばけるほどの余裕がなく、うちに助けを求めてきた。という状況らしい。


 呼ばれた理由なんて考えるまでもない。


 正直厳しい。倫理観だとかなんとか基準法だとか、色々なルールを無視すればできなくはないけど、やりたくはない。多分デスマーチになる未来が見える。


「私がやりたいけどさすがにねーーー。かといって、いとちゃんもしんどいのはわかってるんだよねー…」


 うんうん唸ってるようだけど、打開策があるようには思えない。やりたくはないけど、仕事に集中できれば他のことはいったん忘れられるかもしれない。


「やりますよ。多分、なんとかなるので」


 上司、もといギャルの目が露骨に光る。


「本当に?いける??でも色々重なってるよね?ご飯食べる時間無くなっちゃわない?」


 忙しくなると昼食を抜いてデスクに向かい続ける姿を見られてから、彼女は私の食事事情をやたらと気にするようになった。心配してもらえるのはありがたいけど、もう子供ではない。


「大丈夫です。詳細伺いたいので、臼井さんも一緒にお時間いただけますか?」


 概要だけでは何がどうなっているのかよくわからない。状況把握から始めて、やらなければいけないことをまとめていこう。いつも通り、落ち着いて整理すれば何とかなる。


「武見さん、ごめんね。本当に申し訳ない。午前中なら空いてるから、このまま時間もらえるかな?」


 承知しました。そう伝え、自席に戻りPCを手に会議室を目指す。その道中で再び大きな声がフロアに響いた。


「いるじゃん!!あの子!!今そんなに忙しくないでしょ?いとちゃんのサポートに入ってもらおうよ!」


「まあ、今はそれほどだけど。でもまだ新人だし、重い仕事で疲れさせちゃうとこの先が…」


 臼井さんの困った声。この人はいつもこんな感じだ。葉山さんにいつも振り回されている。


 臼井さんチーム、新人…。


 頭が痛くなってきた。深い沼に誘うような甘い声が脳に反響する。


 いや、昨日決めたはずだ。どこかでタイミングを見繕みつくろって話す。


 幸いにも彼女は何もなければ真人間だし、仕事における評判もすこぶる良い。


 葉山さんが手を引き連れてきた戸惑い顔の芹羽を見て、小さく息を吐き、視線を逸らした。

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