第四話
セレクトショップでお互いに似合う服を見合ったり、雑貨屋で目が合ってしまった小さなぬいぐるみを買ったり。
特に行き先を決めずに目についたお店に入っていく。ただそれだけなのに、ずっと楽しかった。この時間を本にして閉じ込めてしまいたいと思う。
次の予定までまだ時間があるらしく、目についたジュエリーブランドのお店に二人で入る。たまに目にするけど、あまり入ったことはないブランド。
「ここ可愛いからたまに見るんですけど、買ったことはないんですよねー」
「私も。結構好きなんだけど、ちょっとお高くて…」
指輪にブレスレット。ネックレスにピアス。たくさんのアクセサリーが目につく。
その中でひときわ目に付いたケースの前で足を止める。
月と太陽をモチーフにしたようなイヤリング。それぞれが対になっているかはわからないけど、多分同じシリーズのものだろう。
どちらかと言えばひっそりとした位置に置かれているし、特段目立つものではないと思う。多分これよりも人気の商品はたくさんあるはずだ。
でも、とても目を惹かれた。
私が月で芹羽が太陽。
どうしてそう思ったかはわからないけど、とてもしっくりくる。
「先輩、なんか良いものありましたか?」
離れてしまった手を繋ぎなおし、こちらを覗き込みながら彼女は聞いてくる。
「いや、なんでもない。それより時間は大丈夫?」
「そうですねー、そろそろ行きましょっか。ゆっくりで大丈夫です」
目を惹かれたのはそうなんだけど、衝動買いするほど手頃な値段でもない。ウィンドウショッピングなんて、そんなことの連続だと思う。
「すっごく良いところなので、楽しみにしててくださいね!」
◇
別の建物に移りエレベーターに乗り込む。楽し気に揺れる手に引かれてたどり着いた場所は、無機質なビルの中ではなく、異世界のような空間だった。
少し薄暗いけど、怖さは感じない不思議な雰囲気。
「発券してくるので少しだけ待っててくださいね」
私の手を放し、小さな機械に向かう後ろ姿を眺める。急に自由になった手が行く先を失う。
ここはプラネタリウムらしい。プラネタリウムと言えば、科学館とか学校行事で行くような場所にあるイメージだったから、全く気が付かなかった。
おしゃれな映画館というか、テーマパークの一部というか。非日常を感じる。
落ち着かなくて、芹羽の後ろ姿を目で追う。
あの服もサンダルも、いつもと少し違う髪型も。この日のために考えてきてくれたんだろうか。友達と遊びに行く彼女を見たことが無いから、いつも通りなのかそうじゃないのかがわからない。
別にいつもと同じでもいいけど。
でも、できれば特別であってほしい。なんて私は面倒くさい女なんだろう。自分に嫌気がさす。
チケットを二枚手にした芹羽が戻ってくる。すぐに手を繋がれて、一瞬息が詰まる。
「お待たせしました。先輩、ずっとキョロキョロしてて可愛いです。でも、ここで驚くのはまだ早いですよ」
彼女に手を引かれ、受付でチケットを渡し施設の中に足を進める。手を繋いだままだったから、店員さんの目が少しだけ痛かった。
「うわ…」
一面に広がるのは満点の星空。小さな星々が空一面を覆い、遠くには月も見える。幻想的な音楽も聴こえてきて、現実の輪郭が薄くなるような感覚を覚える。
「すごい…本当に…」
大きなドーム状の部屋には、映画館のように沢山のシートが置かれている。それに、前方には巨大なマシュマロのような足の低いソファ。
薄暗さと無機質に並ぶシートは映画館にしか見えないのに、視界の半分を覆う星空がここは特別な空間であることを教えてくれる。
「まだ始まってないですよ。でも、喜んでもらえてそうで安心しました。今日はいろんな初めての先輩が見れて楽しいな~」
「うん…。ちょっと感動してた。プラネタリウムってもうちょっと子供向けだと思ってたから」
「ここは定番のデートスポットですからね。お堅い先輩も、ロマンチックな星空でメロメロになっちゃいますよ」
意地の悪い顔でからかってくる芹羽をジトっと見やると、すぐに手を引かれて真っ白なソファに連れていかれる。
「席って…ここ?」
「はい『雲シート』っていう席みたいです。靴脱いでそのまま横になって大丈夫ですよ」
「髪は乱れちゃいますけど。」と、少し困った顔をしながら、彼女は大きなソファに横たわる。
「先輩。こっち、来てください」
広いドームの中でも『雲シート』の数は少なく、隣との距離も遠い。カップルシートみたいなものなのだろう。
今日一日ずっと人が多い場所にいたから、ようやく二人きりになれた気がして、嬉しさと共に気恥ずかしさが顔を出す。
こんなところで躊躇っていたら上映時間になってしまう。覚悟を決めて靴を脱ぎ彼女の隣で横になる。視界のすべてが星空で埋め尽くされて、胸が高まる。
「ふかふかで気持ち良いですね~。空がリアルすぎて、外にいるみたいです」
視界を覆うのはきらめく星空。隣には芹羽がいて、手のひらからは彼女の熱が伝わってくる。本当に二人だけでいるみたいな、そんな気持ち。
「先輩」
こちらに身体を向けながら、私と握った手を自分の頬に当てる姿が目に映る。
「今、すごく幸せな気分です。先輩はどうですか?」
近くにはいなくても同じドームの中に人はたくさんいる。だから、私にしか聞こえないような小さな声で囁いているんだろう。
優しくて、とろけるような甘さもある声に顔が熱くなる。多分、私は今真っ赤な顔をしているんだろう。
「…どうだろうね」
目を逸らしながら、私の手を何度も握り返す感触を記憶する。
まだ、答えを出す時ではない。察しの良い彼女のことだから、私がどういう答えを出すのかはわかっているんだと思う。
それでも、ちゃんと気持ちを彼女に伝えるまでは、私は曖昧でいないといけない。プラネタリウムが終わるころには十六時を過ぎているだろう。この曖昧な関係もあと少しで終わる。




