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無色透明に君が滲む  作者: 莉乃
歩くような速さで
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第十話

「もう朝になっちゃいますね」


 芹羽の家に来たのが日付を回ったあとだから当然だけど、ずいぶん話し込んでしまったらしい。


「もう夕方まで寝ちゃおっか。寝起きあんまり良くないから、中々起きなかったらごめんね」


 眠気も限界が近い。


「えっと、私はどこで寝れば良い?」


 彼女は私の質問に答えず、微笑を浮かべている。


 聞こえなかったのだろうか。


「私はどこで寝れば良いかな?クッションとか貸してもらえればそれで充分だけど…」


 ベッドに腰かけ、枕元を優しく叩く姿を見て目が覚めてきた。


「ちゃんとベッドで寝ないと疲れ取れないですよ。残念ながら、我が家にはお客さん用のお布団なんてものはないので」


 楽しそうに、それでいて不敵な笑みを浮かべる姿を見て身体が強張る。


 断るという選択肢は無さそうだ。


「…変なことしないでよ」


 ジトっとした目で彼女を見やる。


「さっき変なことをしてきたのは先輩じゃないですか?」


 こいつ…。良かった雰囲気も台無しだ。


 でも、あの雰囲気のままだと色々やりづらかったかもしれない。彼女はそれを察していつも通り接してくれている。そう思うことにする。


「う、うるさい。もう寝よう」


 「はーい」と、気の抜けた返事を聞きながら、意を決して彼女の隣に横になる。狭くはないけどそれ程余裕はない。身体は常に密着してしまう。


 冷房が効いているから部屋は涼しいけど、彼女の体温なのか私の体温なのか、とても暑く感じる。


「電気消しますね」


 暗くなった部屋で、彼女に背を向けようと動かした身体が抱き寄せられる。


「ちょっと…!」


「いいじゃないですか。別に変なことなんてしませんから」


「こうしてると、すごく落ち着きます。暖かくて、安心する」


 心臓がうるさい。ずっとドクドク騒いでいる。


 腕だけではなく、両足で身体を絡み取られる。彼女に触れていない部分の方が少ないかもしれない。


「先輩、本当に敏感なんですね。ずっとびくびくしてて可愛いです」


 寝る直前だからか、ささやくように小さな声で話しかけてくる。耳元に彼女の声が深く入り込んできてこそばゆい。


「くすぐったいだけだから。早く寝なよ」


 彼女も私も素足だから、いつもよりも肌に触れた感触がハッキリと伝わってくる。意識しないですぐに寝ないと。ずっと起きてるとおかしくなりそう。


「先輩。寝る前に一つだけお願いしても良いですか?」


「…なに?」


 暗闇の中うっすらと見える彼女は髪が乱れて見慣れない姿。胸元だって、いつもより余裕ができてしまっている。いつもは完璧なのに、こんな無防備な姿を見られるのは特別感があって少し気分が良い。


「先輩に、もう一度印をつけたいです。キスマーク、つけたいです」


 まだ気持ちに整理がついていないけど、彼女とのキスは気持ち良かった。


 だから、彼女に印をつけられることも、多分嫌じゃないと思う。


 でも、それ以上を求められたらどうなってしまうんだろう。その先は答えを出してからにしたい。


「つけるだけならいいよ。そこから先はまだ…だめ」


「あと…私が変な反応しても、忘れること」


 消え入るような声で答える。


「先輩。私が先輩のことを本当に大事に思ってるから頑張って我慢しますけど」


 彼女は小さく息をついたあと、私の耳元に口を寄せ囁いた。


「そういう顔、私以外に絶対に見せないでくださいね」


 彼女の声が耳元に落ちた刹那、首筋に湿った感触が走る。耳元から首筋、肩へと。ゆっくり、ゆっくりと感触を染み込ませるように熱が注ぎ込まれる。


「…待って、それっ、だめ」


 ざらりとした舌が滑り、小さく吸い上げられるたびに身体が震え声が漏れる。


「早く…つけてよ」


 彼女が今しているのは本来の目的ではない。今日はすぐに終わらせて、眠った方が良い。


「あ、ぅ…」


 私のお願い通り、首筋に小さな痛みが走る。痛いのに嫌じゃない。不思議な感覚。


「先輩。せんぱい…」


 彼女の吐く息の暖かさ。息を吸う音。全てが鮮明に感じる。真っ暗な部屋に響く息遣いが私のものなのか、彼女のものなのかはわからない。


 印をつけた個所を何度も舌でなぞられる。なぞって、吸って。繰り返す。


 どんどん呼吸が浅くなり、身体の内側に熱を感じる。視界が霞んできた。


 もうやめた方が良い。


 「す…すと…」


 彼女を止めたいけど、彼女の舌と指先が動くたびに出したくもない声が漏れて、言葉が上書かれる。


 だめ。だめ、だめ、だめ、本当にだめ。


 彼女を引き離そうと両手を動かそうとしても、身体に力が入らない。彼女の浅い呼吸音も、寝間着がこすれる音も聞こえない。今聞こえているのはずっとうるさい心音と、私のこぼれる息と掠れた声だけ。



 やっ……ばい。



「おっと、ごめんなさい。また、やりすぎちゃいました」


「せんぱい、大丈夫ですか?」


 芹羽の顔が離れていく。名残惜しいという気持ちと、助かったという気持ちが混ざり合ってぐちゃぐちゃになる。


 無意識のうちに彼女の寝間着の袖を強く掴んでいたらしい。肩で息をする姿と、掴まれた袖を見てようやく気が付いたんだろう。


 まだ息が乱れている。それに、寸前で止められた反動で身体の感覚がおかしくなっている気がする。


 宙に浮いたままというか、身体が自分のものじゃなくなったような。


「もう…気は済んだでしょ…」


 自分のものじゃないみたいな声。掠れていて、熱を帯びていて、嫌になる。


「満足はしてません。でも、これ以上はやめておきます」


「お願い聞いてくれて、ありがとうございました」


 そう言うと、私の頭を撫でながら優しく背中を擦られる。包みこまれるような感覚は落ち着くけど、収まりかけてた熱がまた湧き出てくるような気がした。


「全部忘れてね…。本当に…」


 彼女のことは大切に思っているし、こういうことだって必要なことだとは思う。だけど、私の反応は彼女にとってはご褒美すぎるらしい。


 年上らしく、リードしないと…。このままでは、二年早く生まれた威厳が無くなってしまう。


「先輩、ちゃんと寝れますか?ずいぶんその…良さそうでしたから」


 暗闇の先にニヤつく表情が見える。


「…っ!うるさい。もう夜まで寝るから、起きなくても変なことしないでよ」


 そっけなく言って彼女に背を向けようとしたけど、両手両足でがっしりと捕らえられてしまった。暑いけど、このまま寝てやる。絶対に満足するまで目を覚ましてなんてやらない。


「わかりました。おやすみなさい。陽絃先輩」

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