第八話
「あの頃は自分を変えようと、自分の描いたヒロインになるために必死でした」
目元を腫らしながら、それでも清々しい声で彼女は続ける。
「喋り方も、立ち振る舞いも、見た目も。何から何までやり直しです」
「あ、一応言っておくと、今の私はもうあのヒロインを模倣してないです。いつの間にか、これが自然な私になりました」
「そっか」
「色々重い話をしてしまってごめんなさい。同情してほしかったわけじゃないんです。それだけはわかってください」
「うん。わかってる」
同情とかそんなものはない。彼女が誰にも話せず抱えていたものを話してくれたことで、私の中の答えはもう固まった。
「私からもお礼を言わせてよ」
芹羽に顔を向け、目を合わせる。すっぴんでも大きな瞳が揺らいでいる。
「ずっと好きでいてくれてありがとう。それと、あの頃の私じゃなくなっててごめんね」
「芹羽こそ…失望したんじゃない?」
あの頃の私は、それこそ芹羽のように明るく活発な子供だったと思う。
大人になって落ち着いた。そういう言い方をすれば聞こえは良いが、私のは違う。
「驚きはしました。キラキラしてた先輩が、空っぽで消えそうな人になってたから」
人によっては中身が丸ごと入れ替わった。そう言われても仕方がないと思う。
「でも、そんな先輩と再会しても想いは変わらなかったんです。空っぽだけど、根元にはあの頃の先輩がいました」
「そんな先輩がどこかに消えていっちゃうのが怖くて、焦って強引になっちゃったんですけどね」
手元のペットボトルをいじりながら、彼女は気まずそうに目を逸らす。
「あのさ」
話そう。
こんなこと話す意味は無いのかもしれない。無いかもしれないけど、彼女には知る権利があるだろう。
あの日私は夢から醒めて、眠れないまま数年間、暗闇の中を歩き続けていた。
しばらくして芹羽と出会って、彼女と一緒に別の夢に乗り継いだ。この夢が醒めたらまた、二人で次の夢に乗り継いで行く。
改めて言葉にしてみても支離滅裂。意味不明だ。それでも、多分。私たちはそれでいいんだと思う。
「私の話も聞いてほしい」
震える声で言い切り、芹羽に視線を向ける。彼女の表情には不安が滲み出ている。それでも、真っ直ぐな眼差しを私に向け、小さく頷いてくれた。
目を瞑り、静かに呼吸を繰り返す。
芹羽が変わったのなら、私だって変わらなければいけない。
もう一度大きく息をつき、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。




