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無色透明に君が滲む  作者: 莉乃
歩くような速さで
32/43

第八話

「あの頃は自分を変えようと、自分の描いたヒロインになるために必死でした」


 目元を腫らしながら、それでも清々しい声で彼女は続ける。


「喋り方も、立ち振る舞いも、見た目も。何から何までやり直しです」


「あ、一応言っておくと、今の私はもうあのヒロインを模倣してないです。いつの間にか、これが自然な私になりました」


「そっか」


「色々重い話をしてしまってごめんなさい。同情してほしかったわけじゃないんです。それだけはわかってください」


「うん。わかってる」


 同情とかそんなものはない。彼女が誰にも話せず抱えていたものを話してくれたことで、私の中の答えはもう固まった。


「私からもお礼を言わせてよ」


 芹羽に顔を向け、目を合わせる。すっぴんでも大きな瞳が揺らいでいる。


 「ずっと好きでいてくれてありがとう。それと、あの頃の私じゃなくなっててごめんね」


「芹羽こそ…失望したんじゃない?」


 あの頃の私は、それこそ芹羽のように明るく活発な子供だったと思う。


 大人になって落ち着いた。そういう言い方をすれば聞こえは良いが、私のは違う。


「驚きはしました。キラキラしてた先輩が、空っぽで消えそうな人になってたから」


 人によっては中身が丸ごと入れ替わった。そう言われても仕方がないと思う。


「でも、そんな先輩と再会しても想いは変わらなかったんです。空っぽだけど、根元にはあの頃の先輩がいました」


「そんな先輩がどこかに消えていっちゃうのが怖くて、焦って強引になっちゃったんですけどね」


 手元のペットボトルをいじりながら、彼女は気まずそうに目を逸らす。


「あのさ」


 話そう。


 こんなこと話す意味は無いのかもしれない。無いかもしれないけど、彼女には知る権利があるだろう。


 あの日私は夢から醒めて、眠れないまま数年間、暗闇の中を歩き続けていた。


 しばらくして芹羽と出会って、彼女と一緒に別の夢に乗り継いだ。この夢が醒めたらまた、二人で次の夢に乗り継いで行く。


 改めて言葉にしてみても支離滅裂。意味不明だ。それでも、多分。私たちはそれでいいんだと思う。


「私の話も聞いてほしい」


 震える声で言い切り、芹羽に視線を向ける。彼女の表情には不安が滲み出ている。それでも、真っ直ぐな眼差しを私に向け、小さく頷いてくれた。


 目を瞑り、静かに呼吸を繰り返す。 


 芹羽が変わったのなら、私だって変わらなければいけない。


 もう一度大きく息をつき、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

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