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無色透明に君が滲む  作者: 莉乃
夢を乗り継いでいく
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第十一話

「ああいうのはもうダメ」


 冷めたパンケーキを口に運びながら釘を刺す。悔しいけど冷めていてもおいしい。


「ストップって言ったらやめるって言ったじゃないですか」


 聞こえてましたよね?と楽しそうに声が弾む。良い反論が浮かばない。


「とにかく!今後も『健全に』仲良くする!はい、復唱して!」


 めんどくさーいと口いっぱいにパンケーキを頬張り楽しそうにしている。さっきの姿はなんだったんだ。ため息が出る。


 なんで彼女を止めなかったのか、冷静になった今考えてもわからない。驚きはしたけど、怖くはなかった。少し痛かったけど、気持ち悪くはなかった。


 彼女の耳元で小さく漏れた自分の声が思い出される。


「つ、次やったら怒るから!もう口きいてあげない」


 これ以上ああいうのが続いたら、色々おかしくなってしまう気がする。今だって、首筋につけられた印が気になって落ち着かない。


「えー。すっごく良い表情だったのに」


「まあ、いいですけど。絶対に『無理矢理』はしないので」


 ニヤニヤした顔。一発ぶってやろうか。



 それよりも、と彼女は話題を変える。『それよりも』ではないんだけど。


「打ち上げ、やってくれるんですよね?」



 打ち上げか…。


 元々は『打ち上げ』と称した場で彼女に答えを差し出す。その日が、彼女にとっての『夢が醒める日』になっていたのだろう。


 結果として、彼女は今日『武見 陽絃と付き合う』という夢から醒めてしまった。だけど、『武見 陽絃と仲良く過ごす』という次の夢に乗り継いで行った。



「そうだね、やろっか」


 するりと流れるように言葉を紡ぐ。あの日、彼女に『打ち上げ』を提案したときはあんなに苦しかったのに。


「やったー!お店とかまだ決めてないですよね?」


「うん。バタバタしてたからまだ何も。今決めちゃわない?」


「じゃあ、私に決めさせてください!お店選びは後輩の仕事ですから」


 せっかく一緒にいるんだし、今決めちゃえば良いとは思うんだけど、何かこだわりがあるのかもしれない。正直、居酒屋とかオシャレなお店とかに疎い私にはありがたい申し出だった。


「えっと、いいのかな?ごめんね。あんまり詳しくないから助かるよ」


「お気になさらずです!良いお店紹介しますので楽しみにしててください!」


「お代は葉山さんと臼井さんにつけちゃおう。頑張ったんだから経費にしてくださいーー!!って」


 葉山さんの口調を真似てしまう。こんなこと、今までしなかったのに。どこか余裕ができているのかもしれない。


「じゃあ、お店決まったら連絡しますね」


 そこで、彼女は何かに気が付いたように声を上げた。


「先輩の連絡先、知らない…」


 あー…。


 人と仕事以外でやり取りをする機会が無さ過ぎて、『連絡先を交換する』という行為をしばらくしていなかった。


「交換しよっか」


 苦笑しながらスマホを取り出す。



 たった数時間の出来事。


 彼女と向き合っただけで、数年間抱え続けたものが綻び始めた気がした。


 今日の深夜に彼女に助けてもらって、家に泊めてもらって、美味しいパンケーキを一緒に食べて。


 お互い話すつもりもなかったことを話して。か、身体に触られたり…変なことをされたして。



 数年前。楽しい楽しい夢から蹴り落された私は、楽しそうに、気持ち良さそうに眠りにつく人々を一人で見送っていくことを選んだ。



 痛みを恐れてずっと眠らずにいた私は、大事な宝物のようにメッセージアプリが開かれたスマホを胸に抱く彼女と、眠りにつきつつある。



 夢を乗り継ぐなんて馬鹿げているけど、馬鹿でいいのかもしれない。多分。きっとそうだ。

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