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カッコウ時計が、三時を告げた。
「そんな感じで、お祖母様が考えていたお式は、キャンセルさせてもらったんだけど。」
翔子は、ゴリゴリとコーヒー豆を引いている。
「全部一から考え直しなんだよねぇ。」
「いいんじゃね?俺も、スモーク焚いてゴンドラで降りてくるとか、ハート型のキャンドルサービスとか、ちょっと辛いなぁと思ってた。」
壮太はグラスを拭いている。
「お祖母様の憧れだったんだって。」
祖母がお嫁入りする時は、残念ながら、せいぜい白無垢から色打ち掛けのお色直し程度で、ゴンドラもキャンドルサービスも無かったらしい。
「何だっけ。大きな窓と、なんか・・パンジー?」
「ああ、真っ赤なバラと白いパンジーか。」
新居の理想とか、素敵なハネムーンとか、熱量が凄くて断るに断れなかった。
二人ともあんまりこだわりが無かったので、そこまで前のめりなら、まあいいかと祖母の希望に任せていたのだが。
今回、同窓会に無理やり連れて行かれて、心無い言葉を浴びせられたので、どうしても言わずにいられなかった。昔の意趣返しもあった。
「あんたなんかに売るものなんてないわよ」と言われた話を祖母に告げて、丸越の外商経由で前のめり気味に進んでいた結婚準備が、ちょっと止まればいいなあ、ぐらいに思っていが。祖母の怒り様は、翔子の想像を超えていた。
松野は、あんなに自慢していた美容部を飛ばされて、今は作業服で倉庫番をしているらしい。
若干かわいそうかな、と思いもするが、小学校中学校と、あと飛び火して高校でまでいじめられた八年を思うと、それぐらいの報復はありだと思う。
こっちだってもういい大人だ。
忘れた振りで、同窓会で会わないという道もあったのに、わざわざ引っ張り出したのだ。
どうせ余興でまた貧乏いじりをするつもりだったのだ。
自分が反撃されるなんて、夢にも思わなかっただろうけど。
「それで、どうする?」
少なくとも二百人ぐらいは招待客がいる、と聞いて、さっさと丸投げした壮太である。
「あ、これ。昨日買って来た。」
翔子がカバンから出したのは、○クシィ。
「えーとねぇ。ここ見て?」
なんだかんだ、楽しそうな翔子に、マスターは奥で聞き耳を立てる。
自分の時は、スモークにゴンドラも、ハート型のキャンドルサービスも、なんなら五メートルのニセモノのウェディングケーキ入刀も全部やった。
趣味では無かったが、当時のカノジョの小牧さんが、
「こんなヘンテコなイベント、二度と出来ない、絶対話のタネになる!」
と主張して、披露宴に取り入れた。
確かに大盛り上がりだった。スモークの中、小牧さんが「部屋とYシャツと私」を熱唱しながらゴンドラで降りた。その時はいたたまれなかったが、今では楽しい笑い話だ。
ま、結婚式は一から百まで女の子の物で、男は添え物だからな。
頑張れよ。
小学生時代の初恋を、やっとこさ成就しそうな息子に、心の中でエールを贈る。(詳しくは『なんちゃってシンデレラはコーヒー屋さん』を参照。)
結婚式はまだ半年も先だ。
しかもそこが人生のゴールでもない。
山あり谷ありを、二人で歩く。むしろそのスタートなのだから。
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