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夜中まで調書を取られて、警察に厳重注意された、という噂を聞いた。
その代わり、被害届を出されるのは免れたらしい。
例の三人は、拉致の疑いはもちろん昔の事も
「器物損壊罪や傷害罪とかは、法的に時効にはなっても、だからといって罪がなくなる訳ではない。」
ときっちり釘を刺されたと聞く。
あいつら、私の名前を出したりしてないわよね。
翔子を連れてこいと煽ったのは、松野だった。だからそこだけは心配だった。
しばらく不安だったが、翌週になっても特に警察が来ることもなかったので、彼女は騒ぎの事を忘れる事にした。
思い返せば、特に翔子と直接何かあった訳ではない。
小五で同じクラスになるまでは、「あの子、お父さん死んだんだって。」ぐらいの認識だった。
人より給食をたくさん食べるのも、気にした事はなかった。カレー食べたって、八宝菜食べたって、おかわりしようと別に構わない。
しかし転機はあった。
たまに給食に出る、ゼリーとかプリンとか、人気の高いデザート。欠席の子の分が、大体じゃんけんとかくじ引きとかになるやつ。
ある日、松野も参加したじゃんけんで、その時ちょっと好きだった伊藤君がゼリーを当てた。
悔しいけど、まあ伊藤君ならいいかと思って見ていたら、そのゼリーをこっそり翔子に渡したのだ。
何、それ。
よく観察していると、別の日も翔子にデザートを献上する男子が、他に何人かいた。
にっこり笑って、口を寄せて「ありがと」と囁かれたら、皆デレデレの骨抜きだ。
ムカついた。
ビンボー人のくせに。
ビンボー人のくせに。
それでも小学校の頃はまだ、貧乏いじりとか、切った消しゴムを飛ばすとか、そんなものだった。
中学に上がって最初の定期テストで、びっくりした。翔子はほぼ全ての教科で、一桁の順位を取ったらしい。松野は、半分よりちょっと上、という所だった。
ムカついた。
自分は母に叱られて塾通いの毎日だと言うのに。
ビンボー人のくせに、そんな成績なんておかしい。カンニングでもしてるんじゃないの。
次のテスト直前、誰も見ていない隙にノートをビリビリにしてやったら、ぐっと順位が下がった。成績一覧を見たから間違いない。
溜飲が下がった。スッとした。
やっぱりね。
それでも松野は翔子を抜く事が出来なかった。
そこからは、もう翔子をやっつける事しか考えられなかった。
悪評を流し、周りも巻き込んで、靴を隠し、ノートも教科書も落書きだらけにしてやった。
それだけやったのに、効果があったのは、一年足らずだった。
ノートがなく、教科書さえなくても、やがてそれに慣れた翔子は安々と学年トップか、それに近い成績を維持していた。
教師にも、進学を勧められていた。
ビンボー人のくせに。
結局高校で別れるまで、翔子の成績を抜く事が出来なかった。しかも翔子は、教師に勧められた近所の偏差値トップ校ではなく、一個下げた、少し遠い学校を選んだ。
何なの。
当てつけなの。
ちなみに、ちょっと好きだった伊藤君は、同窓会で再会したら小太りのメガネになっていた。
なんかがっかり。あのまま翔子とくっついちゃってもよかった。
真鍋先輩、格好よくなってたなぁ。
同じ中学だったし、空手部の主将だった壮太は、昔から男っぽくて頼れる先輩って感じだった。
あのいじめられっ子の翔子と結婚するのか。もったいない。
今から略奪とか、狙えるかな?
名刺を渡したし、連絡来るかも?
そんな事を考えながら、ウキウキ仕事をしていると、ある日、人事に呼ばれた。
え?もしかして昇進?
売り上げ一位の表彰かも?
足取り軽く、人事部のドアをノックする。




