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「やだぁ。本当に連れてきたんだ。」
クスクス笑う声。
「かわいそうー。」
「めちゃ店員て感じ。」
茶色のTシャツにデニム、カフェエプロン。
仕方ない。今まで働いていたのだ。
「まぁいいじゃない。貧乏人だって人の役に立てるでしょ。」
「いい事言う〜。」
顔だけでは分からない。
胸に名札をつけているので、それを見てやっと「ああ、あの子か」と分かる程度である。
まあ座れ、と椅子に座らされる。
華やかなパーティ会場で、身の置所がない。
「でもさ、佐藤。お前ホントに綺麗になったなぁ。」
連れて来たうちの一人がそう言った。
ワイシャツの胸に、池野とある。思い出した。学校の机に、でっかくウ○コの絵を書いた奴だ。今なら子供じみたイタズラだと笑えるけど、当時は結構堪えた。油性ペンはなかなか消えなかった。
「あんなしょぼい店で働くより、ホステスとかさ、儲かるんじゃねぇ?」
胸に吉田とある。こっちは本当に思い出せないけど、どうせ池野のツレだろう。
「え、俺のカノジョにしてやってもいいぜ〜。」
誰だか分からない、ゲラゲラ笑う声。
いいえ、結構です。
翔子は辺りを見回す。
ここは何という場所だろう。ホテル?イベント用の貸しスペースかな。
「やめときなよ、ビンボーが伝染るって。」
女の声が割り込む。
誰かが翔子に飲み物を持ってきたのを、手で追い払う。
「会費払ってないんでしょ。持って来なくていいよ。」
「そーそー。飲む権利なーし。」
わっと笑い声が起こった。
「いや、無理に来てもらったんだし。」
池野はさすがにちょっと気を使う振りをする。
「だったら今からでも、会費払ってもらえばいいじゃん。」
でも、財布もスマホもない。
帰る時、どうしたらいいんだろう。
「ほーらね。」
胸に松野と名前がある。化粧が濃くて、全然面影がないが、六年生の時の女ボスだった子だろう。
当時、結構可愛くて男子連中にちやほやされていた。
自分からは何もしないが、周りに命じて靴を隠したり、教科書に落書きさせたりしていた。
「どうせ会費が惜しくて、欠席にしてたんでしょ。」
当時から腰巾着だった菅谷。今でも腰巾着らしい。
「ちょっとちょっと。やめときなよ。」
横から男子が割り込んだ。
「俺、前に言わなかったっけ。佐藤さん、バイトしてるけど、実は・・って。」
あー。見た事あるな。前田君か。壮ちゃんの空手部の後輩だった。
一度、バイト先に来て、青ざめて帰ったっけ。
「あ~。なんか経済界のドンの愛人になったとかなんとか。」
松野は鼻で笑った。
「えっ」
前田は、自分が吹いた話の思わぬ変化に、言葉に詰まる。
「いや、そうじゃなくて。」
「バッカじゃないの。そんなのが未だにこんな格好でいる訳がないでしょ。」
「そーそー。どう見ても、ファミレスのバイトじゃん。」
「いや、そうなんだけど。」
前田は、松野を見て、菅谷を見て、それから無表情で座っている翔子を見た。
「俺は、忠告したからな。」
逃げた。
「何、あいつ。」
松野はせせら笑う。
「まあでも、こんなに美人になってたら、あながち嘘ってわけでもないかもな。」
男たちは、翔子の周りから離れない。後ろの方でも、
「佐藤、めっちゃ美人になってる。」
という声とともに、人が入れ替わり立ち替わりぐるぐる移動している。
松野は舌打ちした。
「ま、ちょっとぐらい綺麗になってても、ビンボーじゃね。どうせ高卒でしょ。」
「そういえば、高校だって行けるかどうか、怪しかったもんね。」
それは事実だ。
マスターが
「奨学金使ってでも、せめて高校は出ておきなさい。」
と言ってくれなければ、諦めていたと思う。
ちなみに母は、
「えっ、高校って自動的に行けるんじゃないの?」
と驚いていた。小学校から大学までエスカレーターであったらしい。
「大学出てないと、就職難しいよねぇ。」
「そーそー。私でさえ、二十社ぐらい受けたもん。」
そうなんだ。
就職活動らしきものをしなかった翔子は、入社試験もした事がないし、当然落ちた事もない。
「でもさ、丸越デパートのBAさんなんでしょ。いいなぁ。やっぱり美人だからじゃない?」
「ええ?そうかなぁ。」
謙遜しながらも嬉しそうに松野が応じる。
「ま、売り上げは私が一番だから、そこはちょっと自慢?」
翔子は思わず顔を上げて、松野を見た。
「丸越デパート?」
松野は嫌そうに、翔子を見下ろした。
「なによ。あんたなんかに売るものなんてないわよ。」
「ああ、そうなんだ。」
翔子はつぶやく。
「佐藤さん!」
聞き覚えのある声がした。




