疑惑
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一件、大きな商談をまとめて会社に戻ると、警察が来ていた。
社内の好奇心に満ちた視線をかいくぐり、ひとまず目立たない商談スペースへと案内する。
「お宅のお子さんの件なんですがね。」
開口一番、ひげの刑事が口を開いた。
「今日、学校へ行かれていないようですが、ご病気ですか?」
「警察では、ずる休みの調査もやるんですか?…カゼでね、家で寝ているんですよ。そう学校にも連絡したはずですが?」
「そうですか。」
ひげは手帳に何事か書き込んで、あいまいに相づちを打った。
あんな可愛げのないガキの話なんか、わざわざしたくもない。
一応食わせてやっているんだから、たとえ警察だろうと文句を言われる筋合いはないはずだ。
「…用件はそれだけですか?であれば、私はまだ仕事がありますので、これで。」
「今日、お子さんの自転車が発見されたんですよ。」
「ほう、それはありがとうございます。見つけて下さって。」
「サドルに少し血痕がついていました。」
「何が言いたいのかわかりませんが、転んだか何かして血がついたんじゃないですか?」
「誰のですか?」
「そりゃ、乗ってた人間のでしょう。」
「実はですね、この自転車がある事件に関わっている可能性が高いので、ちょっと持ち主である息子さんに確認したいんですよ。」
「妻に言って下さいよ、私には関係がない。」
「奥さんは、寝込んでいるから可哀想だ、の一辺倒で、声も聞かせて下さらないんです。…ところで、金曜の夜、酷い言い争いをされたそうですが、相手はどなたとだったんですか?」
「なんの関係があるんです?警察に。」
「なんでも外にまで聞こえるほど、すごい怒鳴り声だったらしいですね。しかし急に静かになったとか。そうして、おとといの朝、お宅の車に血がついているのを目撃した人がいる。金曜夕方から今日、月曜にかけて、お宅の息子さんを見た人間はいない。車で怪我をした息子さんを、どこかに連れ出したのではないかという人もいましてね。」
「何が言いたいんだ?!俺がアイツを殺したとでも言うのか?!」
「まぁまぁ、そんなことは言っていませんよ。ただ、本当にお子さんは家にいらっしゃるんでしょうかねぇ?」
「同じ事を何度も答えるつもりはない。」
「それでは、あなたの車、調べさせてもらってもよろしいですか?」
「好きなようにすればいいさ。」
かくして俺の車は、黒いスーツの男2人に捜索を受ける羽目になった。
「なぁに、今回は簡単な調査ですから。すぐ終わりますよ。…おや?」
ひげ刑事の顔色が変わる。捜査員が透明のビニール袋を手にとり、なにやら入れている。
俺はそれが何かわかると、ヒヤリと背筋が寒くなった。
助手席の下から出てきたのは、血がべっとりついたガラスの灰皿…ああ、そういえば見当たらなかった!どうしてそんな所から。もしかしたら俺ははめられたのか?誰に?あのガキにか?!
これでは、どう言いつくろっても、怪しいのは俺ではないか!
「待ってくれ、俺は何もしていない。アイツは土曜にはもう家にいなかったんだ!」
「この血が息子さんのとは、一言もいっていませんがね。ところで、家にいないとおっしゃいましたが、あなた方は心配されなかったんですか?届けも出していないようですが?」
ひげが横目で俺を見た。その目はすでに容疑者を見る油断のない目だ。
「ただの家出かと…すぐ戻ると思って…。」
「ほう、で、なぜ嘘をついて学校に連絡したのですか?」
「それは…その…。」
「まぁ、いいでしょう。ゆっくり署でお話をお聞きしますよ。」




