↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
80/81

離郷

 深い、深い闇の底。


 音もなく、光もない、漆黒の空間に、レイクは一人立っていた。


「……なんだ、これ……?」


 目の前には、渦を巻く巨大な闇の魔力。


 闇の中心には一人の少年が立っていた。


「…………」


 見慣れた顔と見慣れた身体。


「……おれ?」


 闇の中心に立つ少年は、何も答えず、レイクをじっと見つめている。


「……お前、一体?」


 ――ハッ!


 レイクの目が開いた。


 視界には見慣れない天井と、背中にはふかふかとしたベッドの感触があった。


「……ここは?」


 ゆっくりと身体を起こす。


 視線を横に落とすと、ミリアが椅子に腰掛け、こくりと小さく頭を揺らし眠っていた。


「……ミリア?」


 その時。


 ガチャッ。


 扉が開いた。


「目が覚めたみたいだな」


「先生……」


 入ってきたラルクを見た瞬間、レイクの表情が変わる。


「……そうだ!確か、おれヴァルガンと戦って……!」


 そして、ラルクへ問いかける。


「ヴァルガンは!?みんなどうなった!?」


 身を起こそうとするレイクを手で制し、ラルクは小さくため息をついた。


「落ち着け。詳しく説明してやる」


 ラルクは静かな口調で、決戦の結末を語った。


 ヴァルガンは肉体を捨て、父王を新たな器として奪った。


 その後、魔物達と転移して姿を消したこと。


「……エギルの、父ちゃんが……」


 レイクはシーツを握り締め、悔しそうに俯いた。


 ラルクはじっとレイクを見下ろす。


「お前、三日も寝てたぞ」


「え……そんなに……?」


「あぁ」


 ラルクはミリアへ目を向ける。


「ミリアが常に側にいた。心配だったんだろう」


 そして、レイクへ視線を戻す。


「後で礼を言えよ」


「……ミリアが?」


 レイクがミリアに視線を移す。


 その瞬間。


「……ん……」


 ミリアが目を開けた。


「……レイクくん!」


 ミリアが立ち上がる。


「よっ!」


 レイクはいつものように笑った。


「ありがとうな!ずっと近くにいてくれたんだってな」


「……よかった!」


 ミリアの表情がぱっと明るくなる。


 その様子を見ていたラルクが、レイクへ視線を戻した。


「やはり、覚えてないようだな」


「え?」


「ヴァルガンとの戦闘だ」


 ラルクは腕を組む。


「ミリアから聞いたが、お前がやつを圧倒した。その結果やつは肉体を捨てた」


 レイクの表情が固まる。


「……おれが?」


「あぁ」


 ラルクは頷いた。


「おれも駆けつけて見たが……異様な力に目覚めていた」


 ラルクの目が鋭くなる。


「心当たりは無いのか?」


「……わかんねぇ」


 レイクは自分の手を見る。


「何も覚えてない」


「そうか……」


 ラルクが静かに答える。


「…………」


 ミリアは静かに俯いていた。


 その時だった。


 ガチャッ!


「レイク、起きたのか。体調は大丈夫か?」


 ゼノンが部屋へ入ってきた。


「おうよ!めっちゃスッキリ!」


 レイクは拳を握る。


 続いて入ってきたリゼットが、呆れたように息を漏らした。


「ミリア様に手間をかけさせるとは。そろそろ叩き起こそうかと思っていたところだ」


「お前、本当に心配してくれてた?」


 レイクが苦笑いを浮かべる。


 セレナも部屋へ入ってきた。


「レイク様!目を覚されたのですね!よかったです!」


 レイクが手を上げる。


「よっ、セレナ!絶好調だぜ!」


 そして、最後に、一人。


「寝起きから騒がしいやつだな」


 エギルが姿を現した。


「……エギル」


 レイクの表情が少しだけ変わる。


 エギルはその眼差しを真っ向から受け止め、ふっと口元を緩めた。


「そんな顔するな」


 そして、まっすぐレイクを見る。


「おれはやつらに借りを返すため、研鑽を積むのみだ」


「……そっか!」


 レイクは、ニッと笑った。


「あ〜〜っ!なんか腹減ったなー!飯食うぞ、飯!」


 レイクがベッドから勢いよく飛び起きる。


「レイクくん、もう動いても大丈夫なの!?」


 ミリアが慌てる。


「わからん!」


「えぇ!?」


「けど腹減ったし」


「……また、そんなこと言って」


 ミリアが呆れたように息を吐く。


 レイクはエギルを見る。


「エギル、豪華なの頼むわ!」


「遠慮というものを知らんのか、貴様!」


「お前に遠慮してどうすんだよ?」


「……貴様、やはりおれのことをなめてないか?」


「ケチなこと言うなよ〜、ケチル」


「誰がケチルだ!!」


 いつもの光景。


 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる二人の姿に、部屋の中には明るい空気が広がった。

◇

 大広間。


「うめぇぇぇぇ!!」


 レイクは食卓に並んだ料理を、ものすごい勢いで口へ運んでいた。


「おい、貴様!少しは落ち着いて食べろ!」


 エギルがレイクに注意した。


「無理!三日も寝てたんだぞ!」


「それは食欲も出るか……」


 ゼノンが呟く。


 そこへ、エギルの兄達が料理を運んできた。


「これも食べるといい」


「こっちもだ」


 次々と料理が並べられていく。


「おおっ!まだ出てくんの!?」


 レイクの目が輝いた。


「遠慮はいらない。改めて礼を言わせてくれ」


 兄達は、レイクへ向けて頭を下げた。


「父上を救うことはできなかったが……」


 レイクの手が止まった。


「悪いな、力が足らなかった」


 兄達は慌てて、手を横に振る。


「いや、違うんだ!君達がいなければ、我々もどうなっていたかわからない」


 レイクは笑った。


「友達の国だしな!できる限りのことやっただけだ」


 兄達は顔を見合わせ、静かに頷いた。


「……ああ。ありがとう」

◇

 食事を終えた後、レイク達は王座の間にいた。


 エギルは、妃の前に立っている。


「母上」


「どうしたの?」


「今回の戦いで、国は大きな被害を受けました。再興のために、おれは国に残ろうと思います」


 妃は、しばらくエギルを見つめていた。


「……本当の気持ちはどうなの?」


「……え?」


「お友達と、まだ学園で学びたいんじゃないの?」


「ですが……」


 エギルは言葉を詰まらせる。


 妃は優しく微笑んだ。


 そこへ、エギルの長兄が、力強くエギルの肩に手を置いた。


「お前は強くなった。良い友を持ち、おれ達も目を覚ましてもらえた」


 兄はエギルをまっすぐ見つめる。


「この国をお前一人だけに背負わせる気はない。奴らへの借りは、おれ達も返す」


 そして、穏やかに笑った。


「お前も研鑽を積んでこい」


 エギルは目を見開いた。


「兄上……」


 妃も笑みを浮かべ、頷いた。


「国は私達に任せなさい」


「……ありがとうございます」


 エギルは深く頭を下げた。


 妃はラルクへ向き直る。


「ラルク先生」


「はい」


「遠慮なく鍛えてやってください!ビシバシお願いします」


 妃は笑顔で告げた。


「もちろんです」


 ラルクが苦笑交じりに頷く。


 妃は満足そうに微笑むと、レイク達へ向き直る。


「みなさん」


「はい?」


 レイクが返事をする。


「この子、頑固で聞き分け悪くて、素直じゃないけど、よろしくね!」


「母上!何を言うのです!」


 エギルが慌てる。


「もちろんっす!エギル坊ちゃんは任しといてください!」


 レイクが胸を張った。


「誰が坊ちゃんだ!!」


「フフフ」


 妃が楽しそうに笑う。


 その横で、仲間達も笑っていた。

◇

 やがて、バルカーン王国を発つ時が来た。


 王城の前。


 妃とエギルの兄達、そしてセレナが、レイク達を見送っていた。


 セレナが一歩前へ出た。


「エギル」


 セレナが少し照れくさそうにエギルに声をかける。


「手紙書くね」


「あぁ」


 エギルは少しだけ視線を逸らした。


「時間があったら目を通しておく」


 そして、照れくさそうに付け加える。


「読む時間はないかもしれんがな」


「……あれ?」


 レイクの口元がニヤリと歪んだ。


「あれあれあれ?」


 エギルの肩を叩く。


「なになに、エギルくん?」


 ニヤニヤしながら顔を覗き込む。


「照れてんの、ねぇ〜?嬉しいんだろ?いつ来るかなぁってウキウキしてるんだろ?」


「……うるさい!」


 エギルの顔が赤くなる。


「ウキウキなどしていない!」


 そして、真剣な顔で続けた。


「ただ、いつ届くか、その際の返事は何を書こうか、どの程度の頻度がいいか、返事が早すぎると待ってたと思われるかもしれない等、悩んでいただけだ!」


「いや、めちゃくちゃウキウキしてんじゃん。先々の想定まで完璧じゃん」


 ゼノンが首を傾げ、口を挟む。


「エギル、手紙読めねーほど忙しいのか?おれで手伝えることがあれば何でも言ってくれ」


「……お前は黙ってくれ」


 エギルは肩を落としゼノンへ言う。


 リゼットが鼻で笑う。


「ふっ……青いな、エギル」


「やかましい!」


 その隣で、ミリアが恋バナの気配を敏感に察知し、瞳をキラキラ輝かせていた。


「エギルさん!お手紙のお返事悩んでるなら、いつでも相談乗るよ!!」


「……なぜお前がワクワクしているのだ。頼むからそっとしておいてくれ……!」


 エギルは頭を抱えミリアを見る。


 妃達から、笑い声がこぼれる。


 その光景を見つめながら、妃が静かに口を開いた。


「みんな」


 全員が振り返る。


「エギルの友達になってくれてありがとうね」


 妃が温かい眼差しで告げる。


 レイクはニッと笑った。


「こちらこそっす!」


 仲間達も、それぞれ微笑む。


 妃はエギルへ向き直った。


「エギル」


「はい」


「ちゃんとご飯は食べること。しっかり30回噛みなさい。歯は食後に磨くこと。夜更かしもダメ。お友達にも優しく。特にセレナちゃんには素直になりなさい。いつ愛想尽かされちゃうか、あたしもぉ〜心配で!あんたね、セレナちゃんみたいな可愛い子なかなかいないわよ!それから……」


 高速ミシンのように、ペラペラと止まらない妃の言葉。


「母上……もうおれはそれなりの歳なのですが……」


 エギルは冷や汗を浮かべる。


 ミリアも苦笑する。


「すごい勢い……」


 レイクは腕を頭の後ろに組み大きく笑った。


「エギルの母ちゃん、めっちゃ母ちゃんだな!」


 エギルは咳払いをし、仕切り直すように真っ直ぐな目を妃達へ向けた。


「では、いってまいります!」


 妃はエギルを真っ直ぐ見つめる。


「えぇ。いってらっしゃい!」


 レイク達は歩きながら妃達へ大きく手を振る。


 こうして一行は、バルカーン王国を後にした。

虚飾の騎士王国編、完結です!

エギルの故郷を舞台にした物語、最後まで読んでいただきありがとうございました。


そして次回からは、新章「騎士学園対抗戦編」へ。

レイクたちを待つ新たな戦いを、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。