静寂の森
ご覧いただきありがとうございます!
ついに合同演習!
ライバルとレイク達を待ち受けるものとはーーー
お楽しみいただけたら幸いです!
地獄の筋トレ特訓から1ヶ月。いよいよ最下位クラスの魔法演習が始まっていた。
「『ファイアーボール』!」
グラウンドにレイクの威勢の良い声が響く。
直後——ボーンッ!!!
石の標的が木っ端微塵に吹き飛んだ。
「誰が粉砕しろって言った。何回言えば分かる。凹ませる程度に威力を抑え、狙った位置に正確に当てる演習だ。もう一回やってみろ」
呆れ顔で指摘するのは、担任のラルク先生だ。
「うっす!! 『ファイアーボール』!!」
どかーーーーん!!!!
今度は先ほど以上の爆発が巻き起こり、辺りが爆煙に包まれた。
「……本当、センスないな、お前」
「言い過ぎじゃね!?」
頭を抱えるラルク先生に、レイクは煙の中から顔を覗かせて抗議した。
「少しはミリアを見習え」
「『ファイアーボール』」
隣で静かに手をかざしたミリアから、手のひらサイズの火弾が放たれる。火弾は綺麗な軌道を描き、標的にカツンと当たると、表面を綺麗に凹ませていった。
ポロポロと崩れ落ちる標的を見つめ、レイクは思わず感嘆の声を漏らす。
「お〜……すげえ!」
「魔法の本質は魔力のコントロールだ。威力が強ければいいってもんじゃない。狙った場所に、狙った威力で撃つ。それがお前の課題だな」
「うっす!!」
威勢よく頷くレイク。
ラルク先生は今度はミリアへと視線を向けた。
「それと、ミリア。お前、魔力の制御自体はできるようにはなったが……何か魔法を使う際、ほんのわずかに恐れがあるな。以前までの暴発による精神的なブレーキか? それとも……何か別の理由があるのか?」
「え……」
ミリアの肩が跳ねる。
「……今まで、魔法を上手く使えないことの方が多かったから……まだ、少し怖くて」
「……」
ラルク先生は黙ってミリアを見つめる。
レイクは不思議そうに二人を見比べた。
「まあいい。明日の話をしておく。明日、他クラスとの合同で実践演習を行う。まぁ、このクラスはお前ら2人だけの班になるがな。しっかり経験を積んでこい」
「「はい!」」
「なんかガッツリ冒険的なのが来たなー!! 明日が待ち遠しいぜー!!」
拳を握りしめて目を輝かせるレイク。そんな教え子に、ラルク先生は冷ややかな視線を送った。
「あ、レイク。お前、今みたいな大爆発の魔法を使ったら反省文だからな。考えろよ」
「あ、はい。さーせん……」
「よし、演習を続けるぞ」
◇
翌朝。
グラウンドには全クラスの生徒が集められていた。
「これより、他クラスとの合同演習を行う。各班に分かれ、実践を意識して協力するように。演習内容は三種類。担当教員の指示に従え」
壇上で説明する学年主任の声をよそに、周りの生徒たちの不躾な視線と噂話がレイクたちに向けられる。
「最下位クラスの班、二人だけだってよ」
「お荷物が少なくてラッキーだな。最近は多少魔法も使えるらしいけど、どうせ大したことねぇだろ」
その群れの中に、冷ややかな視線を送る男がいた。
騎士の国の王子、エギルだ。
(フン……足手纏いは少ない方がいいのだがな。)
◇
各班がそれぞれの演習地へ移動する。
「では、このグループは『静寂の森』での演習だね」
担当の教師が爽やかに説明を始めた。
「この演習では、森の奥にある教会から『ろうそく』を回収してきてもらいます。森には訓練用の魔物が配置されています。先にろうそくを持ち帰った班の勝ちです!」
「おー! なんかおもしろそう! 頑張ろうな、ミリア!!」
「うん!」
意気込む二人のかたわらで、不機嫌そうな声が割り込んできた。
「威勢が良いようだな」
高慢そうな顔の男が立っている。レイクが首を傾げると、エギルは鼻で笑った。
「少しは魔法が使えるようになったのだろうが、貴様らが勝つなどあり得ん。最下位クラスは陰に隠れて、魔物に喰われないよう震えているんだな」
「へへへ、エギル様言うねぇ!」
「まぁ最下位クラスのお前らが勝つ可能性なんてゼロだっての」
取り巻きの生徒たちが囃し立てる。しかし、レイクはポカンとした顔で問いかけた。
「え〜と……あんた誰? どっかで会ったっけ?」
「!? 貴様……!!」
エギルの額に青筋が浮かぶ。
「レイクくん!! 多分この人……!」
慌ててミリアがレイクの服の袖を引っ張った。
「口の聞き方を知らないようだな! これだから平民はっ!」
エギルは胸を張って名乗りを上げた。
「まぁいい、教えてやる! おれは由緒正しき騎士の王国、バルカーン王国第三王子! エギル・ソルト・マナ・ティウス・ノルタ・アントス・ガルバ・ヤマル・ラク・バルカーンだ!!」
「え? 名前長くね? もう一回言ってもらっていい?」
「貴様ーーーー!!!!」
「はいはい! そこ、揉めない!!」
爆発寸前のエギルを、担当教師が間に入ってなだめる。
「フン! まぁいい! 平民にこの由緒正しさは分からんだろう! 演習では覚悟しておけ!」
捨て台詞を残して去っていくエギル。その背中を見送りながら、レイクは呆れ顔で呟いた。
「なんか、めちゃくちゃキレてるな、あの名前長い人」
「名前長い人って……」
ミリアは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「準備はいいですね! では、演習開始!!」
「「おーーーー!!!!」」
◇
演習開始と同時に、生徒たちは森へと飛び出した。
シュバッ! スパァンッ!
エギルが見事な剣捌きで、訓練用の魔物を次々と斬り伏せていく。
「グワァーッ!?」
「フン。準備運動にもならんな」
取り巻きの賞賛を受けながら、エギルは悠々と森を進んでいった。
そのままエギルは森の奥にある教会へと辿り着いた。
「なんだ、これは……!?」
その扉を開けたエギルの目に飛び込んできたのは、驚愕の光景だった。
◇
一方、レイクとミリアの班。
「結構深くまで来たよな〜。こんな森、この近くにあったんだな」
「うん……。でも、魔物ってなんだか怖いね」
周囲を警戒しながら歩くミリアに、レイクはニッと歯を見せて笑いかけた。
「何言ってんだよミリア! おれたち、今まで頑張ってきたろ? やれることやってやろうぜ!」
「レイクくん……。うん! ありがとう」
レイクの力強い言葉に、ミリアの心がふっと軽くなった。
その時。
(〜願えば〜花は揺れ〜心が移ろう〜)
「え……?」
風に乗って、美しくもどこか不気味な歌声が聴こえてきた。
「歌……? なんだろう?」
ミリアが周囲を見渡すと、いつの間にかあたりの景色が変わっていた。足元には、色とりどりの怪しい花々が咲き乱れている。
「綺麗な花……」
(〜向かえば安らぎ〜あの花園へ〜心は移る〜)
ふっとミリアの瞳から光が消え、吸い寄せられるように別方向へ歩き出し始めた。
パシッ!
「ミリア! どこ行くんだ!?」
レイクに腕を強く引かれ、ミリアはハッと我に返る。
「え!? わたし……」
(フフフフフフフ……)
「!?」
木々の隙間に、謎の人影がこちらを見つめていた。
レイクが目を凝らした瞬間、人影は闇の中へ消える。
(あいつ……一体……?)
その直後。
グァーーーーーーー!!!
森全体を揺るがすような、凄まじい咆哮が響き渡った。
「レイクくん!!」
「おい! マジかよ!?」
草むらを押し分け、オオカミの魔物が群れを成して現れた。
訓練用とは明らかに違う、凶暴な気配を放っている。
「魔物……! さっきのあいつの仕業か!?」
「どうしよう……っ!」
青ざめるミリアに対し、レイクは不敵な笑みを浮かべた。
「決まってんだろ! やるぞ!!」
◇
場面は再び、教会前のエギル班。
エギルの表情が凍りついていた。
地面には生徒たちが倒れ、森は血に染まっている。
「ハァ……ハァ……! どうなっている……!?」
エギルは剣を構えながら絶句していた。
目の前に立ちはだかるのは、校舎ほどもある巨大なオオカミの魔物。
(オオカミの魔物……!?先ほどの魔物とは明らかに違う……演習用なんかじゃない!)
グワァーーーー!!!
咆哮一発で木々が吹き飛ぶ。逃げ惑う生徒へ、魔物の巨大な爪が振り下ろされる。
「うわぁぁぁぁぁーーー!!」
巨大な身体から放たれる圧倒的な威圧感に、エギルの膝が震え始めた。
(なんだこれは……こんなの聞いてないぞ……っ!!)
◇
その頃、レイクとミリアの元でも猛攻が続いていた。
グワァー!!!
背後から飛びかかってくるオオカミの魔物。あまりの素早さに、ミリアの反応が遅れる。
(……殺される……!)
ミリアは死を覚悟し、目を瞑った。
その時。
ふわっ。
目の前で、巨大な魔物の体が唐突に宙へと浮き上がった。
「え……?」
「何よそ見してんだ、犬っころ」
魔物を魔法で浮かせていたのは、レイクだった。
「オラーーー!!!」
ドッシーン!!
レイクは魔物を高く持ち上げると、地面へ強烈に叩きつけた。
「クゥ〜ん……」
白目を剥いてバタンと倒れ込むオオカミ。
「大丈夫か、ミリア?」
「うん! ありがとう……!」
「よっしゃ! あらかた片付いたな!」
周囲には、倒されたオオカミが転がっていた。ミリアは驚きを隠せない。
「すごいね、レイクくん……あんなにあっさりとやっつけちゃうなんて……」
「何言ってるんだよ。ミリアだって魔法使って倒してただろ! さすがだな、助かったぜ!」
「え、あ……ありがとう……」
ミリアは微笑み返した。
(……私は、あんなに怖かったのに。レイクくんは……)
グワァーーーーーー!!!!!!
その時、森の奥深くから、先ほどとは比べものにならない巨大な咆哮が響き渡った。
衝撃波で森の木々が大きく揺れる。
「な、なに今の……!?」
「わかんねぇ。……行ってみよう!」
「う、うん!」
走り出すレイクの後を追うミリア。レイクの脳裏には、先ほど見た謎の人影が浮かんでいた。
(あの女が出てからだ。森の雰囲気がおかしい。あいつは一体……?)
必死に走る中、ミリアは意を決してレイクの背中に問いかけた。
「あのさ!レイクくん!」
「ん?」
「怖くないの……?」
「何が?」
「魔物とか……この森とか。私は怖くて、さっきも動けなかったのに……レイクくんは全然怖がってないから」
「……それは」
◇
教会。
エギルは血に濡れた地面に膝をつき、激しく震えていた。
目の前では、超大型のオオカミの魔物が、赤く光る目で自分を見下ろしている。
グワァーーーー!!!!
死の爪が、エギルに向けて振り下ろされる。
(死ぬ……殺される……! まずい、死ぬ嫌だやめろ死ぬどうする殺されるーーー!!)
天才と持ち上げられた王子のプライドは崩れ去り、絶望に目を閉じた。
その瞬間。
「『ファイアーボール』」
ドーーーン!!!
正確に魔物の顔面へと着弾した火弾が炸裂し、巨体が大きく仰け反った。
「おい、デカブツ。よくもみんなをこんな風にしてくれたな」
煙の中から歩み出てきたのは、不敵に笑う少年。
「貴様は……っ!?」
エギルが呆然と見上げる中、レイクはニッと口角を上げ、拳を握りしめた。
「こっからは、おれ達が相手だ! いこうぜ、ミリア!!」
「うん!!」
最下位クラスの二人は、巨大な魔物へと立ち向かっていく——!




