最初の授業
ご覧いただきありがとうございます!
遂に学園に入学!
最初の授業とは…?
楽しんでいただけたら幸いです!
「本校は完全全寮制である。魔法および騎士としての実技は世界最高峰。これより君たちには、騎士としての戦い方、そして真の魔法の使い方を学んでもらう」
オリエンテーションで告げられた説明に、レイクの胸は躍っていた。
(ついに始まった学園生活! 最高の環境で、本物の魔法と騎士の戦い方が学べるんだ……!)
しかし——その高揚感は、クラス分けの発表で一瞬にして崩れ去った。
「……えーっと、君たち二人は……最下位クラス、いわゆる『補習組』だ」
「「えっ……」」
あてがわれた教室には、レイクとあの手続きの時に出会った栗色の髪の少女の二人しかいなかった。
二人は合格者の中で最も成績が低く、最初から「落第手前」という崖っぷちからのスタートだったのである。
「不安だね……退学させられちゃったらどうしよう……」
不安そうに身を縮こまらせる少女。だが、レイクはガハハと笑って自分の胸を叩いた。
「まあ、なるようになるって! 今が落第手前なら、これ以上は上に上がるしかないってことだろ! 頑張ろうぜ!」
「あ……うんっ!」
その時、教室の扉がガラリと開いた。
入ってきたのは——ボサボサの黒髪に、どこか目の下に隈を浮かべた、見るからに眠たそうな男だった。
パリッとした教員服や騎士甲冑とは程遠い、使い古されたくたびれた上着を羽織り、大きなあくびを噛み殺している。
「……ふわぁ。お前らか、今年の最下位組は」
男は気怠げに首を回すと、億劫そうに二人を見下ろした。
見た目は完全にやる気ゼロのダラけた大人。だが、その瞳の奥には、どこか冷ややかで射抜くような鋭さが宿っていた。
最下位クラスの担任——ラルク先生である。
「よし、揃ってるな。……着替えてグラウンドに出ろ」
「え? 先生、座学とか魔法の授業は……」
少女が恐る恐る質問する。
「つべこべ言わずに着替えろ。時間の無駄だ、モタモタするな」
◇
その頃、職員室では教員たちがざわついていた。
「学園長……正気ですか!? まさかあの二人の担任に、ラルク先生をつけたというのですか!?」
頭を抱えて学園長に詰め寄る教師たち。
ラルク先生——そのあまりに苛烈で理不尽とも言える鬼指導により、毎年受け持った生徒から脱落者・退学者が後を絶たない、学園随一の超問題教師だった。
「あの二人はただでさえ成績最下位の落第寸前なんですよ!? ラルク先生のしごきに耐えられるわけがありません! すぐに自主退学してしまいます!」
「ふむ……まあ見ていなさい。あの二人の入試データを見れば、理由がわかるはずじゃよ」
髭を蓄えた学園長は、お茶をすすりながら意味深に微笑むのだった。
◇
グラウンドに集合した二人に対し、ラルク先生は気怠げな態度のまま開口一番こう言い放った。
「まずは校庭を100周走ってこい」
「「……はい?」」
キョトンとする二人。少女がおずおずと手を挙げる。
「あの……授業とかは……?」
「だからこれが授業だと言っている。ほら走れ」
わけも分からぬまま、校庭を100周走り出させられる二人。
ゼェゼェと息を吐き、走り切って地面に倒れ込む二人だったが、地獄は始まったばかりだった。
「ほら次だ。腕立て1000回、スクワット1000回、腹筋1000回」
「え……」
思わず声が漏れ、固まる少女。レイクも目を丸くしてドン引きしていた。
「まじで言ってんのこの人……」
その後も、巨大な鉄球を担いでのマラソン、懸垂など、徹底的に体を作り変えるような極限の筋トレメニューが続いた。
夕方。全身の筋肉が悲鳴を上げ、ピクピクと地面に倒れ込む二人。
「今日はこんなところだな。明日も同じようなメニューだ。しっかり休めよ」
そう言い残して気怠げに去っていくラルク先生。
「うっぷ。」
「吐きそう…」
疲労困憊の二人は、夕飯を食べる食欲すら湧かなかった。
◇
その夜、寮の部屋で横になりながら、レイクは天井を睨みつけた。
(なんなんだよあの授業……! おれたちは魔法を学びに来たんだぞ!?)
怒りと理不尽さがこみ上げる。しかし、レイクは拳を固く握りしめた。
(…いや、こんなところでへばって溜まるか……!)
翌日も、その翌日も、地獄のような筋トレ授業は続いた。
学校内では早くも噂が広まり、他のクラスの生徒たちから「あいつら、また、走り込みしかしてないらしいぜ」「またラルク先生のところで退学者が出るな」と笑い物されていた。
そんな二人を、校舎の二階から見下ろす一人の男がいた。
実技試験で、石を目にも留まらぬ速さで切り刻んでいた少年——騎士の国の王子である。
「ふん……あんな落ちこぼれと同列に扱われては困るな」
鼻で笑う王子。その近くには、試験で凄まじい破壊魔法を出していた少年もレイク達の様子を見ながら立っていた。二人は最高クラスの二大首席として、早くもピリピリとした空気を放っている。周りの生徒たちは「あの首席2人早速バチバチだ。」「あぁ。こっちが緊張するよな。」
二人の圧に冷や汗を流していた。
◇
その日のきつい授業を終え、レイクは自室でペンを宙に浮かせる日課の練習をしていた。
(こんな筋トレばかりで、本当に魔法が使えるようになるのか……?)
考えても答えは出ない。レイクは「クソッ! 考えてても仕方ねえ!」
ホウキを手に取り、夜の敷地へ飛び出した。
「いくぞ……!」
ホウキに乗り込もうとするレイク。だが、案の定魔力が暴走し、近くの大きな木に頭から突っ込んでしまった。
「いてて……」
木に引っかかってブラブラとぶら下がったレイク。ふと下の広場に目をやると、手のひらに小さな火を出して真剣に練習している少女の姿があった。
「どうも……」
ぶら下がったまま声をかけるレイク。
「……どうも?」
見上げてポカンとする少女。
彼女もまた、レイクと同じように陰で独自に魔法の練習を重ねていたのだ。
「隠れて練習してたのかー!」
「うん……。あなたも、ホウキの練習をしてたんだね」
「そうそう! でも、おれ全然安定して乗れなくてさ……」
「私も魔法を出すと、すぐ暴走しちゃうの…」
お互いの悩みを打ち明け、意気投合する二人。
「でも、おれなんかより全然すげーよ! おれなんてホウキに乗るだけで木に突っ込んでるんだぜ?」
「ふふっ、でも夜にこうやって努力してるのはすごいと思うな」
お互いを称え合う二人。レイクはふと思い立って尋ねた。
「そういえば、まだ名前聞いてなかったな! おれはレイク! 君は?」
「私はミリア。ミリア・エストレア。改めてよろしくね、レイクくん!」
「おう! 明日もきっときっつい筋トレかな〜」
「ふふ、そうかもね〜」
「まぁ、お互いきついけど、絶対に乗り越えようぜ!」
月明かりの下、二人は笑顔でグータッチを交わしたのだった。
◇
それから毎日、きつい筋トレ授業が続いた。
夜になると自然と集まり、ミリアは魔法のコントロール、レイクはホウキ飛行の練習を繰り返す。
——そして、そんな二人の陰の努力を、闇の中から静かに見守るラルク先生の姿があった。
特訓が始まって2週間が経過した頃。
夜の練習中、ミリアがぽつりと不安をこぼした。
「このままずっと続くのかな。もっと魔法の勉強したり、そういうものなのかと思ってた…学校は私達を辞めさせたいのかな……」
「うーん、確かにな……」
レイクは首の後ろをかきながらも、ニッと力強く笑ってみせた。
「でもさ、ここで逃げたらもったいなくね? だっておれたち、ここまで頑張ったんだぜ! 最後までやり抜いて、あの先生をびっくりさせてやろうぜ!」
「……! うん……そうだね!」
レイクのポジティブな言葉に、ミリアの表情に明るさが戻った。
さらに日は過ぎ——驚くことに、二人の身体は次第にその過酷なメニューに順応し始めていた。
最初は喉を通らなかったご飯もモリモリ食べるようになり、「今日は懸垂かな?」「走りながらお腹空いてきた〜!」と笑い合いながらメニューをこなすようになっていたのだ。
◇
そして、特訓開始から1ヶ月が経過した、ある日の朝。
グラウンドに立ったラルク先生が、二人をじっと見つめて言った。
「今日までよく耐えたな。……おい、レイク。ホウキに乗ってみろ」
「えっ……? あ、はい!」
昨晩の練習で少しコツを掴みかけていたが、まだ完璧とは言えない。
「先生、まだ上手く乗れるか分からないですけど……」
「昨日までの疲れがあったはずだ。今は違う。いいから乗れ」
言われるまま、レイクはホウキを構えた。
深く息を吐き、落ち着いて魔力を流し込む。
(落ち着いて……魔力を……)
すると——ふわっ。
ホウキは暴走することなく、ピタリと地上数メートルで安定して静止した。
「なっ……!? う、浮いた……!!」
「自在に行きたい方向へ進んでみろ」
指示通りに体重を傾けると、ホウキはレイクの思い通りにスイスイと大空を駆け抜けた。
「うぉぉぉぉぉぉっ!! 乗れた! 自在に乗れたぞーーーっ!!」
「すごいよ、レイクくん!!」
はしゃぎ倒す二人。
「このレベルではしゃぐな、お前らは……」
とラルク先生呆れつつ、次にミリアに向き直った。
「次、ミリア」
ラルク先生が手をかざすと、地面から土と石でできた標的が立ち現れた。
「あの的に、軽い穴を開ける程度に魔法を叩き込んでみろ。コントロールしろよ」
「えっ……でも、また暴走して暴発しちゃうかも……」
「いいからやれ」
意を決したミリアは、手をかざして小さな火弾を放った。
すると、火弾はまっすぐに飛び、的にカツンと小さな穴を開けて消えた。
「あ……あれ……!? 暴走……しない……!?」
「すげーじゃん!ミリア! 思い通りにコントロールできてるぞ!」
「うん……! うんっ!!でも、どうして…」
自分の手を見つめ、歓喜と驚きに震えるミリア。
ラルク先生はゆっくりと語り始めた。
「……お前たちに地獄の基礎トレーニングを課したのは、入試データから俺が判断した結果だ。お前らの魔力量は常人を遥かに凌駕している。……だが、その膨大な魔力に体が追いついていなかった」
「体……ですか?」
「そうだ。ブレーキがないから魔力が制御できず暴走する。ホウキに乗れなかったのも、魔法が暴発していたのもそれが原因だ。」
二人は目を見開いた。
「昨今は魔法ばかりが注目されるが、騎士の基本は肉体と精神だ。英雄と呼ばれる者達は魔法も使いこなすが、その根底には強靭な肉体がある。勉強ばかりでナヨナヨしたような奴じゃ出せる魔法も出せない。いざという時に走って駆けつけることもできん。そんな者は騎士とは呼ばない。」
ラルク先生は二人をまっすぐに見つめ、力強く頷いた。
「この1ヶ月お前らを鍛えたのは本物の騎士にするためだ。耐え抜いたお前たちの肉体と精神共に、この学校でも最上位と言っていい。……誇っていいぞ」
「うおぉぉぉぉぉっ!! 褒められたーーーーっ!!」
「やったね!!」
手を取り合って跳ね回る二人。
(まあ、こいつらの場合、魔力量が最初から規格外だからな……それを作るために体力づくりをするのがセオリーだか…)
ラルク先生は不敵な笑みを浮かべる
(例年なら全員初日で逃げ出すこのメニューを、1ヶ月耐え抜くとはな。楽しみな奴らだな)と心の中で笑った。
「よし! 今日からは座学、および実践での授業に入る! だが落第手前であることに変わりはないぞ! 常に緊張感を持って過ごせ!」
「「はいっ!!」」
元気よく返事をする二人。
青空を見上げるレイクの脳裏に、あの日見たメドロードの背中が浮かんでいた。
(……少しは近づけたかな)
膨大な魔力を扱う『器』を手に入れた少年と少女は、ついに真の学園生活へと一歩を踏み出すのだった——!




