届かぬ力
王城の外。
荒れ果てた大地に、レイクとミリアは立っていた。
「はぁ……はぁ……」
レイクは肩で息をする。
対するヴァルガンは、未だ余裕を崩していない。
「……まだ上があんのかよ……」
レイクが呟く。
「ええ」
ヴァルガンは微笑む。
「先ほどまでの私は、貴方たちの力を測っていただけですから」
「……!」
レイクの表情が険しくなる。
次の瞬間――
シュンッ!!
「――ッ!?」
ヴァルガンの姿が消えた。
「レイクくん!」
ミリアの声が響く。
咄嗟に振り向いたレイクの目の前へ、黒いレイピアが迫っていた。
ギィンッ!!
レイクは両腕を交差させ、紙一重で受け止める。
「ぐっ……!」
凄まじい衝撃。
足元の地面が大きく砕ける。
そのまま押し切られる――。
そう思った瞬間。
「『氷槍』!」
ミリアの放った氷槍が、ヴァルガンへ殺到した。
ヴァルガンはレイクから離れ、身体を翻す。
無数の氷槍が、その横を次々と通り過ぎていく。
「今!」
「おう!!」
レイクが地面を蹴った。
拳に炎を纏わせ、一気に距離を詰める。
「うおおおおっ!!」
ガキィィィン!!
ヴァルガンは簡単にレイクの攻撃を受け止めた。
ビュン!!
次の瞬間、ヴァルガンはすでにレイクの横にいた。
「なっ――」
ドゴォン!!
「ぐあっ!!」
レイクが吹き飛ぶ。
「レイクくん!」
ミリアが杖を構える。
ヴァルガンはミリアへ向かって踏み込んだ。
「――っ!」
ミリアは後退しながら魔力を集中させる。
足元に冷気が集まる。
「『星屑の絶対零度』!!」
パァァァァァン!!
一瞬で極寒の冷気が広がった。
大地が白銀に染まり、ヴァルガンの周囲を無数の氷が覆い尽くす。
「ほう」
ヴァルガンは冷気の中で微笑んだ。
ヴァルガンの身体が凍りつく。
――しかし。
バリィィィィン!
闇の魔力が氷を簡単に破壊した。
「そんな……!」
ミリアが目を見開く。
次の瞬間。
ヴァルガンがミリアの目の前に現れた。
「遅い」
ギィン!!
レイピアと氷の障壁が激突する。
「くっ……!」
ミリアの足が地面を滑る。
その横からレイクが飛び込んだ。
「ミリアから離れろ!!」
拳を振り抜く。
ヴァルガンはその拳を受け流し、レイクの腕を僅かに逸らした。
そして、レイクとミリアの間をすり抜ける。
「――っ!」
二人が同時に振り返る。
そこには、すでに距離を取ったヴァルガンがいた。
「……なるほど」
ヴァルガンは二人を見る。
「二人とも、なかなかの力を持っている」
レイクは拳を握り直す。
「だったら……!」
ミリアも杖を構え直す。
「まだ……!」
二人が同時に駆け出す。
レイクが正面から拳を振るい、ミリアが後方から魔法を放つ。
左右からの同時攻撃。
だが、ヴァルガンは、そのすべてを紙一重で躱していく。
拳を避け、氷を躱し、反撃する。
その動きには、一切の無駄がない。
「はぁ……はぁ……!」
レイクの呼吸が荒くなる。
ミリアも肩で息をしている。
レイクは拳を握り、歯軋りをした。
(あの野郎……どんどん早くなってやがる)
◇
王座の間。
ガキィン!!ガキィン!!ガキィン!
エギルと父王の激しい斬撃がぶつかり合っていた。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
エギルが剣を振り抜く。
父王は巨大な黒い魔力を纏い、その一撃を受け止めた。
ドォォン!!
「ぐっ……!」
エギルの身体が後方へ弾かれる。
「どうだ、エギル……!」
父王が吠える。
「これが……王の力だ!!」
父王の身体から、さらに黒い魔力が噴き上がる。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
「まだ力を引き出せる……!」
闇の魔道具が、不気味な輝きを放つ。
黒い魔力が父王の身体を覆い尽くしていく。
「私は……王なのだ!!」
父王がエギルへ襲いかかる。
ガキィィンッ!
エギルは父王の荒れ狂う斬撃を受け流し、鋭い眼光でその全身を注視した。
(呼吸が乱れている。足元の重心も定まっていない……!)
エギルは父王を押し返し、距離を取る。
「ぐっ……!」
父王の顔が歪む。
「父上……?」
「黙れ……!」
父王は腕を押さえる。
皮膚を走る黒い呪印が蠢き、筋肉が不自然に隆起していく。
「この程度の力……私が扱えないはずが……!」
黒い魔力が、さらに膨れ上がる。
「ぐあああああっ!!」
父王が苦しみ始める。
エギルは父王の姿を見つめた。
(この姿……これまで戦ってきた魔物となった人間たちと同じ……!)
エギルの視線が、父王の身体の一点に止まる。
黒い魔力が、そこへ集まっていた。
「……魔力の核……!」
父王が再び力を引き出す。
「エギルゥゥゥ!!」
黒い魔力を纏った攻撃が迫る。
ドォォォン!!
エギルは剣で受け流した。
そのまま横へ回り込む。
父王は振り返る。
「逃げるなぁぁぁ!!」
父王の魔力が、さらに膨れ上がる。
その中心で、魔力の核が形を変えていく。
エギルは目を細めた。
(まだ完全には形成されていない……ならば!)
「今なら……壊せる」
エギルが剣を握り直す。
「何を言っている……!」
父王が迫る。
「私は……この力で……!」
エギルは真正面から踏み込んだ。
「父上」
「なに……!?」
「もう、終わりだ!」
エギルの剣が閃く。
白煌の魔力が、刃へと収束する。
「『聖煌破魔一閃』!!」
ズバッ!!
黒い魔力の中心を、一閃。
「――ぐっ……!」
父王の身体から、黒い魔力が一気に噴き出した。
そして――
パキィン!!
小さな魔力の核が砕け散った。
「……あ……」
父王の身体から力が抜ける。
膝が崩れた。
エギルは咄嗟に駆け寄り、その身体を支える。
「父上!」
父王は荒い呼吸を繰り返しながら、エギルを見る。
「……エギル……」
「……大丈夫です」
父王は自分の手を見つめる。
震えている。
その目から、先ほどまでの狂気が消えていた。
「私は……」
父王が、自らの震える手を見つめる。
「……間違っていたのだな」
エギルは黙って父を支える。
「力さえあれば……王として、すべてを支配できると思っていた」
「……」
「だが、支配されていたのは……私の方だった」
「……」
「エギル……」
「はい」
「すまなかった」
エギルは父王を見つめる。
しばらく沈黙したあと――
「……遅すぎます」
そう言って、エギルは父王を支え続けた。
父王は静かに目を閉じる。
戦いは――終わった。
◇
王城の外。
「うおおおおおおっ!!」
レイクが叫びながら突っ込む。
拳を振り抜く。
しかし、空を切る。
「――っ!」
ヴァルガンはすでに背後。
レイクが振り返る。
ドォォン!!
咄嗟に身を屈める。
ヴァルガンのレイピアが、頭上を空振った。
「あぶねっ!!」
「ほぉ」
レイクはヴァルガンから距離を取る。
「レイクくん!」
「大丈夫だ!ミリア、まだいけるか?」
「うん!」
「よし……一気に決めるぞ!」
「わかった!」
ヴァルガンはレイク達を見つめる。
「作戦会議は終わりましたか?」
「うるせぇ、今に見てろよ」
レイクはヴァルガンの背後にある岩を浮かせた。
「くらえ!」
岩石がヴァルガンへ迫る。
「こんなもの何になる」
ヴァルガンは軽々と躱す。
――だが。
ドドドドドドドド!!
四方八方から、無数の岩石が迫っていた。
「無駄なことを……」
ドォォォン!!
ヴァルガンは闇の魔力を展開し、岩石を全て破壊した。
土煙が舞う。
「こんな子供騙し何に……」
「なるんだよ、これが!」
レイクがヴァルガンの背後を取っていた。
「なっ……!?」
ヴァルガンが目を見開く。
レイクの右手の平に、凄まじい魔力が集まる。
「これで……終わらせる!!」
レイクの手に巨大な轟炎の塊が現れる。
ミリアも激しい魔力を集中させ杖を掲げる。
「いくぞ、ミリア!」
「うん!」
「『地獄の轟炎』!!」
「『氷晶天爆』!!」
ドッッッッカァァァァァン!!
轟炎と無数の氷晶が同時に炸裂する。
炎と氷が入り乱れ、大地そのものが大きく揺れた。
レイクとミリアは、荒い呼吸のまま爆発の中心を見つめていた。
「……やった……?」
ミリアが呟く。
やがて――
煙の中から、ヴァルガンが歩いてくる。
「嘘……だろ……」
レイクの目が見開かれる。
多少の傷はある。
だが、立っている。
「化け物かよ……!」
レイクの声が震える。
ミリアも言葉を失った。
ヴァルガンは二人を見つめる。
「素晴らしい威力ですね」
静かな声。
「ですが――」
一歩。
「まだ私には届きません」
「……っ!」
レイクが歯を食いしばる。
「ふざけんな……!」
再び拳を握る。
身体は限界だった。
それでも走る。
「うおおおおおっ!!」
ヴァルガンはレイクの拳を躱す。
そして――
ドゴォン!!
「ぐあっ!!」
レイクが吹き飛ぶ。
「レイクくん!」
ミリアが魔法を放つ。
しかし、ヴァルガンはその攻撃を躱しながら、一気にミリアへ接近した。
「――っ!」
ミリアが障壁を展開する。
ギィィン!!
レイピアが障壁を打ち砕く。
「きゃあっ!」
ミリアも吹き飛ばされる。
「ぐ……っ!」
レイクは地面に手をつく。
「くそ……!」
腕に力を込める。
――動かない。
少し離れた場所では、ミリアも身体を起こそうとしていた。
「……レイク……くん……」
声にも、もう力がない。
ヴァルガンがゆっくりと二人へ歩いていく。
レイクは拳を握ろうとする。
「……まだ……」
それでも顔を上げる。
「まだ……終わってねぇ……」
身体が動かない。
力が、残っていない。
ミリアも立ち上がろうとする。
しかし、膝から崩れ落ちた。
「……っ」
ドサッ。
レイクも地面へ倒れ込む。
静寂が訪れる。
ヴァルガンは、倒れた二人を見つめた。
「……終わりです」
ゆっくりとレイピアを構える。
「さて……」
その口元に、薄い笑みが浮かんだ。
「どちらから消しましょうか」




