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強制撤退

 城内の中層回廊。


 水の渦から生まれた透明な装甲が、ラルクの全身を覆っていた。


 水流は絶えず身体を巡り、脚から胴へ、胴から腕へと流れ続けている。


 その一部が剣へと集まり、刃の周囲で激しく渦を巻いていた。


「……魔装」


 ラルクは静かに呟く。


 対するマルフィアとルンペルは、先ほどまでとは明らかに違うラルクの気配を感じ取っていた。


「これは……まずいね……」


 マルフィアが笑みを消す。


 ルンペルも目を細めた。


「ああ。先ほどまでとは、まるで違う」


 ラルクは構えた。


 次の瞬間――


 ドンッ!!


 床が大きく軋む。


「なっ――!?」


 マルフィアが目を見開いた。


 ラルクの姿が消えた。


 直後。


 ギィィィン!!


 水を纏った剣が、マルフィアの黒い魔力を正面から叩き切る。


「くっ……!」


 マルフィアが吹き飛ぶ。


 その横からルンペルが黒い魔力を放った。


 しかし、ラルクは身を僅かに傾ける。


 黒い魔力が頬を掠め、そのまま背後へ抜けていった。


 ラルクは止まらない。


 踏み込む。


 斬る。


 躱す。


 再び踏み込む。


 水の装甲が身体の動きに合わせて流れ、ラルクの速度と力をさらに引き上げていく。


「チッ……!」


 マルフィアが舌打ちする。


 ルンペルも後退した。


「このままでは、こちらが削られる」


「……そうみたいだね」


 二人は視線を交わす。


 そして、同時に後方へ跳んだ。


 撤退。


 それを悟ったラルクの目が細くなる。


「……逃がすと思うか」


 ドンッ!!


 ラルクが地面を蹴る。


 一瞬で距離を詰め、逃げる二人の前へ回り込んだ。


 ドカァァン!


「――っ!」


 マルフィアとルンペルはラルクの攻撃に吹き飛ばされる。


「なんて力だい……」


 マルフィアが表情を歪め、立ち上がる。


 その瞬間だった。


『マルフィア、ルンペル。撤退だ。しかし……彼が相手だと厳しいか』


 二人だけに、声が届いた。


「……!」


 マルフィアの表情が変わる。


 ルンペルも振り返った。


「……モルドレッド様」


 ラルクは眉をひそめる。


「……?」


 二人が何かを聞いている。


 だが、ラルクには何も聞こえない。


 次の瞬間――


 ドォォォォン!!


 二人の足元に巨大な黒い魔法陣が浮かび上がった。


「なに――!?」


 ラルクは即座に踏み込む。


 ギュオオオオッ!!


 水を纏った剣が振り抜かれる。


 しかし――


 ズンッ!!


 剣先が空を斬った。


 そこにいたはずの二人の姿が、完全に消えている。


「……ちっ」


 ラルクは剣を下ろした。


 回廊には、戦いの痕跡のみ残っていた。

◇

 その頃――。


 王城の外の広大な大地


 レイクとミリアは、ヴァルガンと激しい攻防を繰り広げていた。


「うおおおおっ!!」


 レイクが正面から突っ込む。


「レイクくん、右!」


「おう!」


 ミリアの声に反応し、レイクが拳を振り抜く。


 ヴァルガンは身体を僅かに逸らした。


 拳が空を切る。


 その隙を狙い、ミリアが氷の槍を放った。


「『氷槍(アイスランス)』!」


 ズガガガガッ!!


 無数の氷槍がヴァルガンへと迫る。


 ヴァルガンは黒いレイピアを振るった。


 キィン!キィン!キィン!


 迫る氷槍を次々と弾き落とす。


「くっ……!」


 ミリアが歯を食いしばる。


 その横からレイクが再び飛び込んだ。


「これならどうだぁっ!!」


 拳に炎が集まる。


「『火拳』!!」


 ドゴォォォン!!


 地面を抉るほどの一撃。


 しかし、ヴァルガンは、その拳を紙一重で躱した。


「なっ……!」


 レイクの背後に、ヴァルガンが立つ。


「レイクくん!」


 ミリアが叫ぶ。


 ギィン!!


 黒いレイピアが振り抜かれる。


 レイクは咄嗟に身体を捻り、直撃を避けた。


「ぐっ……!」


 それでも勢いに押され、地面を滑る。


 ミリアがすぐにレイクの前へ出た。


「レイクくん、大丈夫?」


「ああ……!」


 レイクは立ち上がる。


 再び二人が並ぶ。


 ミリアが氷を放ち、レイクがその隙を突く。


 左右から同時に攻める。


 だが、ヴァルガンは、それすら読んでいた。


 氷を避けながらレイクの拳を受け流し、そのままレイクの横を抜ける。


「――っ!」


 次の瞬間。


 ヴァルガンがミリアの背後にいた。


「ミリア!」


 レイクが叫ぶ。


 ミリアは振り返りざまに氷を展開する。


 バキィン!!


 間一髪。


 ヴァルガンの剣と氷の壁が激突した。


 しかし――


 ギギギギギ……!


 黒い魔力が氷を押し込んでいく。


「……っ!」


 ミリアの表情が苦しくなる。


 レイクが横から拳を叩き込んだ。


「うおおおっ!!」


 ヴァルガンは後方へ跳ぶ。


「うむ。中々いい連携ですね」


 ヴァルガンはレイク達を見据える。


 まるで、大人が子供の児戯を眺めているかのようだった。


(なんだこいつ……!)


 レイクの背筋を冷たい汗が伝う。


 ミリアもまた、肩で息を荒らげながら杖を握りしめていた。


(私たち、ちゃんと連携してるのに届かない……!)


「……くそっ!」


 レイクが拳を握る。


「こいつ……強ぇ……!」


 レイクの額から汗が落ちる。


 ミリアも無言で頷いた。


「さて、戦いの手本を見せてあげましょう」


 ヴァルガンの足が、微かに沈み込んだ。


 シュンッ!!


「――ッ!?」


 次の瞬間、レイクの瞳の前にヴァルガンの顔面が存在していた。


「しま――」


 レイクが両腕に魔力を込め交差し、防御を固める。


 ガギィィィンッ!!


「がはっ……!?」


 レイピアの斬撃が、交差した腕を粉砕せんばかりの衝撃で叩き込まれた。


 レイクの身体が何十メートルも吹き飛び、地面を跳ねながら転がっていく。


「レイクくん!!」


 ミリアが悲鳴を上げた瞬間。


 彼女の視界は漆黒のマントで覆い尽くされていた。


「……っ!氷――」


「遅い」


 振り抜かれた細剣の腹が、ミリアの展開した障壁を強引に圧壊した。


 ドォン!!


「きゃあっ……!」


 レイピアが生む衝撃波にミリアは吹き飛ばされた。


「ぐ……っ、くそ……!」


 レイクは血を吐き捨て、立ち上がった。


 ヴァルガンはゆっくりと細剣の切っ先を下げ、二人へと向けた。


「……まだ終わりではありませんよ」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


「さあ……続けましょうか」


 黒い魔力が、再び膨れ上がる。


「まだ上があんのかよ……」


 レイクとミリアは、ヴァルガンを見据えた。

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