魔装
王城の中庭。
無数の魔物が、再びゼノンとリゼットへと押し寄せていた。
「グオオオオオオオッ!!」
「くっ……!」
リゼットが身を翻す。
振り下ろされた爪を紙一重でかわし、そのまま魔物の懐へ潜り込む。
シュッ!
短剣が閃く。
だが――
ズシン!!
別の魔物が横から飛び込んできた。
「――!」
リゼットが後方へ跳ぶ。
着地した瞬間、さらに三体の魔物が襲い掛かってきた。
「多すぎる……!」
リゼットが歯を食いしばる。
周囲を見渡しても、魔物、魔物、魔物。
倒しても、その奥から次々と新たな魔物が現れる。
「……はぁ……はぁ……キリがねぇな」
ゼノンも息を切らしながら、魔物の群れを見据えていた。
「リゼット、まだ動けるか?」
「あぁ!」
リゼットは短剣を握り直す。
「なら、もう一度だ」
ゼノンが片手を地面へ向けた。
「『大地の枷』!」
ズガガガガッ!!
地面から土の鎖が飛び出し、迫り来る魔物たちの脚へ絡みつく。
「グオッ!?」
「今だ!」
リゼットが駆け出す。
しかし――
ドォン!!
別の魔物が土の鎖を引き千切り、リゼットへ飛び掛かった。
「――っ!」
リゼットは短剣で受け止める。
ギィン!!
凄まじい力に押され、身体が後ろへ滑る。
「くっ……!」
さらに左右から別の魔物が迫る。
リゼットが身を翻し、二体の攻撃をかわす。
だが、着地した瞬間には、もう次の魔物が目の前にいた。
「……っ!」
シュン!
短剣が閃く。
魔物の攻撃をかわしながら、リゼットは必死に戦い続ける。
それでも、数が減らない。
「はぁ……はぁ……」
呼吸が乱れる。
短剣を握る手にも、徐々に力が入らなくなっていく。
ゼノンも荒い息を吐いた。
「……魔力も、かなり持っていかれたな」
「このままじゃ……」
リゼットが魔物の群れを見る。
その数は、未だに圧倒的だった。
ゼノンが冷静に口を開く。
「……一気に片付けるぞ」
「え?」
「このまま戦い続ければ、おれたちが先に潰れる」
ゼノンが魔物たちを見据える。
「だったら、次で全部叩き潰す」
リゼットの目に決意が宿った。
「……わかった!」
魔物たちが、一斉に二人へ殺到する。
「グオオオオオオオオッ!!」
ゼノンが片手を掲げた。
「『黒鉄の針林』!」
ズガガガガガガガッ!!
無数の黒鉄の針が突き出し、魔物たちを次々と弾き飛ばす。
「行け、リゼット」
「うん!」
リゼットが短剣を両手で握る。
その瞬間。
ヒュオオオオオオオオッ!!
風が、爆発的に吹き荒れた。
リゼットの髪が大きく舞い上がる。
シュッ。
シュシュッ。
シュババババッ!!
リゼットの周囲を、無数の風刃が舞い始めた。
「……いくぞ!」
「『風刃乱舞』!!」
シュンッ!!
リゼットの姿が消えた。
「グオッ!?」
魔物が振り返る。
だが、そこには誰もいない。
ザシュッ!!
「グアアッ!!」
魔物の身体に斬撃が走った。
その背後を、一陣の風が通り過ぎる。
シュンッ!!
ザシュッ!!
「グフウァッ!!」
別の魔物が倒れる。
もはや、リゼット自身が風だった。
魔物の群れの隙間を、縦横無尽に駆け抜ける。
シュンッ!!
ザシュッ!!
シュバッ!!
ズバッ!!
魔物の群れの僅かな隙間を、紙一重ですり抜け、全方位から風刃が炸裂する。
「グオオオオオッ!!」
次々と魔物が倒れていく。
「まだだ!」
リゼットは止まらない。
シュンッ!!
ヒュオオオオオオオオッ!!
あらゆる角度から、風の刃が魔物たちを切り刻んでいく。
「グオオオオオオッ!!」
魔物たちが混乱する。
気づくと、魔物達は中央の一箇所に纏まっていた。
「ゼノン!!」
「――あぁ!」
リゼットが空中へ離脱する。
その瞬間。
ゼノンが、密集している大量の魔物へゆっくり手を向ける。
「魔力を練るのに時間がかかった」
魔物の密集している箇所に、赤い魔力が徐々に濃く広がる。
ゴォォォォ……。
空気が熱を帯びる。
だが、炎は見えない。
魔力だけが、異常な密度へと凝縮されていく。
ギュ!
ゼノンは手を握った。
「『紅蓮爆砕』」
ドォン!!
一体の魔物を包む空間が爆ぜた。
「グオッ!?」
次の瞬間。
ドゴォン!!
その隣。
さらに――
ドォォォン!!
爆発が連鎖する。
ドドドドドドドドドォォォォォン!!
魔物たちが密集する空間そのものが、内側から粉砕されていく。
「グオオオオオオオッ!!」
咆哮が轟音に飲み込まれる。
ドォォォォォォォォォォォン!!
最後の爆発が、中庭を揺るがした。
やがて、静寂が戻る。
倒れた魔物たちが、中庭を埋め尽くしていた。
リゼットがゼノンの横に着地した。
「……はぁ……はぁ……」
短剣を地面へ突き立てる。
ゼノンも片膝をついた。
「……終わった、か」
「……うん」
リゼットが息を整える。
だが、その直後、倒れた魔物たちの身体から、黒い煙のようなものが立ち上り始めた。
ゼノンが目を細める。
「何だあれは?」
黒い魔力が空へ昇ることなく、何かに引かれるように、一方向へ流れていた。
◇
一方、城内の中層回廊。
ラルクとマルフィア、ルンペルの戦いは続いていた。
ギィン!!
剣と短剣が激突する。
「……!」
ラルクが押し返す。
ルンペルが後退。
だが、その瞬間――
「喰らいな!」
マルフィアの黒い魔力が襲い掛かる。
ドォン!!
ラルクが剣を振り抜く。
ザンッ!!
魔力を斬り裂いた。
その隙に、ルンペルが懐へ入り込む。
「――!」
ギィン!!
短剣を受け止める。
ラルクが弾き返す。
だが――
「まだだよ!」
マルフィアが追撃する。
ドォン!!
ラルクが横へ跳ぶ。
着地。
その背後へ、ルンペル。
「……!」
ギィン!!
振り返りざまに受け止める。
ザンッ!!
斬り返す。
ルンペルがかわす。
そこへマルフィア。
ドォン!!
ラルクが斬る。
バシュッ!!
黒い魔力が弾け飛ぶ。
三人の攻防が、一瞬ごとに入れ替わる。
ラルクの剣がルンペルを捉えれば、マルフィアが援護する。
マルフィアへ斬り込めば、ルンペルが死角から迫る。
互いに一歩も譲らない。
「……」
ラルクが目を細める。
「思ったより、やるな」
「こちらも、ようやく本気になったからな」
ルンペルが笑う。
マルフィアも口元を吊り上げる。
「さあ……ここからだよ!」
二人が同時に踏み込んだ、その時。
「……ん?」
ルンペルが、ふと動きを止めた。
黒い煙がどこからともなく流れてくる。
「これは……」
マルフィアも気づいた。
王城中庭の方角。
倒れた魔物たちから放たれた黒い魔力が、二人へ向かっている。
「……ふふ。なるほどねぇ」
マルフィアが笑う。
黒い魔力が、二人の身体へ吸い込まれていく。
ドクン。
ドクン。
その瞬間、二人の魔力が膨れ上がった。
「これは……負の魔力」
ルンペルが愉快そうに呟く。
「倒れた魔物たちから、我々へ流れてきているようだな」
マルフィアが両手を広げる。
「ありがたく、使わせてもらおうじゃないか!」
ドクン!!
黒い魔力が二人を包み込む。
ゴォォォォォ……!!
空気が震え、地面に亀裂が走った。
ラルクが二人を見る。
「……そういう仕組みか」
短く呟いた。
「行くよ!!」
マルフィアが突っ込む。
同時に、ルンペルが消えた。
「――!」
正面から黒い魔力。
ドォン!!
ラルクが斬り裂く。
しかし、背後にルンペルの短剣。
ギィン!!
受け止める。
ラルクが弾く。
そこへマルフィア。
「隙あり!」
ドォォン!!
ラルクが跳ぶ。
着地した瞬間、ルンペルが迫る。
ギィン!!
ラルクは剣で受ける。
マルフィアが魔力を放つ。
ドォン!!
ラルクはかわす。
シュンッ!!
ルンペルの短剣が迫る。
ギィン!!
ラルクは剣で受ける。
先ほどまでとは明らかに違っていた。
速く、そして、重い。
「……!」
ラルクの足が滑る。
ズズズッ……!
ルンペルが押し込む。
「どうした?」
さらに力を込める。
ピシッ。
ラルクの足元に亀裂が走る。
その瞬間――
「はあああああっ!!」
マルフィアの魔力が横から叩き込まれた。
ドゴォォォン!!
ラルクが吹き飛ぶ。
ズザザザザッ!!
地面を滑り、剣を突き立てて止まった。
「……」
ラルクが顔を上げる。
マルフィアとルンペルが、ゆっくりと近づいてくる。
「どうだい?」
マルフィアが笑う。
「さっきまでの余裕は、なくなったんじゃないかい?」
ルンペルも短剣を構えた。
「我々の力は、まだ増すぞ」
ドクン。
再び黒い魔力が膨れ上がる。
ラルクは黙って二人を見つめる。
「……」
ラルクの頬に血が一筋、流れた。
ラルクはそれを親指で拭った。
「……」
再び二人が迫る。
ラルクが剣を振る。
ギィン!!
受ける。
だが、力負けした。
「……!」
ラルクの身体が大きく後退する。
ズザッ!!
マルフィアが笑った。
「ようやく追い詰めたねぇ!」
ルンペルも続く。
「これで終わりだ」
二人が一気に距離を詰める。
その瞬間――
ラルクが、ふっと二人から大きく距離を置いた。
「……?」
マルフィアが眉をひそめる。
ラルクはゆっくりと顔を上げた。
「……もういい」
「何がだい?」
「後悔するなよ」
ラルクが剣を縦に構え、剣に指を添えた。
そして――静かに呟いた。
「……魔装」
その瞬間――
ドォォォォン!!
ラルクの足元から、巨大な水柱が噴き上がった。
水流が一気に全身を駆け上がる。
脚。
胴。
腕。
身体を巡る水流が高速で渦を巻き、その渦がそのまま装甲へと変わっていく。
そして最後に――剣。
ギュォォォォン!!
刀身の周囲を水流が渦巻き、鋭く凝縮される。
「……!?」
マルフィアの笑みが消える。
ルンペルも目を細めた。
「遊びは終わりだ」
ラルクが、一歩前へ踏み出す。
――ドン。
戦場の空気が、完全に変わった




