乱戦の王城
王城の高台へと駆け上がったレイクとミリア。
その先には、ヴァルガンが黒い魔力を纏いながら、静かに立っていた。
「ヴァルガン!てめぇら何が目的なんだ!」
レイクが叫ぶ。
ヴァルガンは、僅かに目を細めた。
「ルンペルから聞かなかったか?ただの実験ですよ」
「実験でこんなことしやがって!ふざけんなよてめぇら」
レイクが眉をひそめる。
ヴァルガンは周囲を見渡す。
「ここは狭いな」
「……は?」
ヴァルガンが手を掲げた瞬間。
黒い魔力が地面へと広がった。
「な、なんだ!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
大地が大きく揺れる。
景色そのものが歪んでいく。
「レイクくん!」
「ミリア、離れるな!」
二人が互いに身を寄せた直後、視界が、黒い光に包まれた。
◇
王城の中庭。
そこでは未だ、無数の魔物が暴れ回っていた。
王国軍も反乱軍も関係ない。
元は人間だった者たちが、黒い魔力に呑まれ、理性を失った魔物となっている。
「くっ……!」
リゼットが短剣を構える。
前方から、数体の魔物が一斉に飛び掛かってきた。
「多すぎる……!」
「……そうだな、だが文句言っても何も変わらねぇ」
隣に立つゼノンは、冷静に敵の数を見渡していた。
「ここは、おれたちで抑えるぞ」
「あぁ!」
リゼットが地面を蹴った。
魔物の群れが一斉に押し寄せる。
ゼノンが片手を魔物へ向けた。
「『黒鉄の針林』!」
ズガガガガガガガッ!!
大地から無数の黒い鉄の針が突き出した。
迫り来る魔物たちが次々と弾き飛ばされ、地面を転がっていく。
「今だ!」
リゼットが一気に駆け出した。
弾丸のような速度で敵の懐へ潜り込み、短剣を振るう。
シュッ!
一体。
二体。
三体。
素早く敵の間をすり抜け、次々と短剣を叩き込んでいく。
だが、背後から、別の魔物が迫っていた。
「――!」
リゼットの防御が間に合わない。
その瞬間。
「『突風の衝撃』!」
ドォンッ!!
猛烈な衝撃波が魔物をまとめて吹き飛ばした。
「今だ」
「ありがとう!」
リゼットが再び飛び出す。
壁を蹴り、空中で身体を翻す。
そのまま魔物の背後へ回り込み、短剣を叩き込んだ。
ゼノンは周囲を見渡す。
倒したはずの魔物の後ろから、さらに新たな群れが押し寄せてくる。
「……まだ来るか」
ゼノンが手を掲げた。
空気が震える。
次の瞬間――。
ドォォォォォン!!
巨大な水の渦が巻き起こった。
「『渦潮の咆哮』!」
巨大な水の渦が、まるで龍のようにうねりながら魔物の群れへ襲い掛かる。
ズドォォォォォン!!
大量の水が中庭を駆け抜け、魔物たちを一気に倒していく。
土煙と水飛沫が舞い上がった。
「す、凄い……!」
リゼットが息を呑む。
だが、水煙の向こうから、再び魔物の咆哮が響いた。
「グオオオオオオオッ!!」
リゼットが短剣を握り直す。
ゼノンも静かに構えた。
「……まだまだ終わらせてくれねぇか」
「いこう!」
二人は再び、魔物の群れへと向かっていった。
◇
一方、城内の中層回廊。
ルンペルが歩いていた。
シュタタタタッ!
素早い足音が響き渡る。
「ん……?」
ルンペルが振り返ると剣を手にしたラルクが迫っていた。
「逃すわけないだろ」
「……なに!」
ルンペルが短剣を抜く。
「遅い」
ラルクが剣を振り抜く。
ギィン!!
ラルクの剣を黒い魔障壁が防いだ。
「……これは」
「気をつけなよ、ルンペル」
ラルクが声のする方へ視線を向けるとマルフィアが立っていた。
「助かったよ、マルフィア」
ルンペルがマルフィアへ礼を言う。
ラルクは一旦距離を取った。
「……マルフィア。お前もいたか。」
「ラルク、相変わらず無愛想だねぇ」
ラルクは剣を構える。
「二人がかりか。まぁいいだろ」
次の瞬間。
ラルクの姿が消えた。
「――!」
ルンペルが咄嗟に身を引く。
ズバッ!!
目の前を剣閃が走った。
「なに……!」
ルンペルの頬を、一筋の傷が走る。
「これでもくらいな!」
その瞬間、横からマルフィアが魔力を放つ。
スパッ!
ラルクの剣が、それを真っ二つに斬り裂いた。
「なっ……!?」
マルフィアが目を見開く。
ラルクが踏み込む。
ズバッ!
「くっ!」
マルフィアが後退する。
そこへルンペルが攻撃を仕掛けた。
だが、ラルクは僅かに身体を傾ける。
攻撃が空を切った。
そして、そのままルンペルの懐へ。
「――!」
ルンペルが目を見開く。
ラルクの剣が振り抜かれた。
ギィンッ!!
間一髪で防ぐ。
「ぐっ……!」
ルンペルの身体が吹き飛ばされる。
マルフィアが背後から黒炎の槍を幾重にも放つ。
同時に、距離を取ったルンペルが指を鳴らした。
虚空から無数の黒い針が雨のようにラルクの死角へと降り注ぐ。
幹部二体による、逃げ場のない連携攻撃。
しかし、ラルクは一歩も引かなかった。
ガキガキガキガキン!
ラルクの太刀筋が、迫る黒炎の槍を霧散させ、同時に黒針の豪雨を見切り、受け流す。
「なんだと……!?」
ビュン!!
ラルクがマルフィアとの距離を詰める。
「――なっ!?」
ラルクの刃がマルフィアへ迫る。
ルンペルが割って入る。
ギィン!!
間一髪で受け止める。
だが、ラルクはそのまま剣を振り抜いた。
「ぐっ……!」
ルンペルの身体が大きく吹き飛ぶ。
ドォン!!
ルンペルは壁へ叩きつけられた。
「ルンペル!」
マルフィアが叫ぶ。
その瞬間、ラルクが目の前にいた。
「――!?」
マルフィアが咄嗟に後退する。
「遅い」
ラルクの剣が振り下ろされる。
ズバァッ!!
黒い魔力が切り裂かれた。
マルフィアの身体が大きくよろめく。
「くっ……!」
そこへ、ルンペルが再び攻撃を仕掛ける。
ラルクは振り返る。
そして、紙一重で避けた。
「バカな……!」
ラルクはそのままルンペルの横をすり抜ける。
ルンペルが振り返った瞬間、ラルクの剣が目の前にあった。
ギィンッ!!
ルンペルは辛うじて受け止める。
「……!」
ラルクの剣圧に、ルンペルが押されていく。
そこへマルフィアが魔法を放つ。
ラルクは剣を引き、振り向きざまに斬る。
バシュッ!!
魔法が霧散した。
「……!」
マルフィアとルンペルは静かにラルクを見つめる。
「……なるほど、こいつは化け物だ」
その頬には、一筋の血。
「思った以上に厄介だね」
マルフィアも息を整えながら、ラルクを睨む。
「ただ、あたしらがやられっぱなしで終わると思わないことだね」
その瞬間。二人の周囲から、黒い魔力が膨れ上がっていく。
ラルクは剣先を二人へ向けた。
「……やっと本気になる気になったか」
空気が震える。
ラルクの目が僅かに細くなった。
そして、戦場の空気が変わった。
◇
その頃、王城の外。
広大な大地の上に、レイクとミリアは立っていた。
「……ここは?」
レイクが周囲を見渡す。
さっきまでいた王城は、遠くに見える。
ヴァルガンが二人の前に立っていた。
「ここなら、余計な邪魔も入らん。存分に貴様らの命を刈り取ってやろう」
ヴァルガンが黒いレイピアを手に構える。
「……!」
レイクが拳を握る。
「ミリア」
「うん」
ミリアが杖を構える。
二人は並んでヴァルガンを見据えた。
その瞬間、レイクが地面を蹴った。
「うおおおおおっ!!」
ヴァルガンも動く。
ズガァァァン!!
三人の魔力が激突した。
◇
王座の間。
エギルと父王は、互いに剣を構えていた。
「稽古をつけてやろう。全力で来い、老いぼれが」
「……貴様ァッ!!」
父王が踏み込む。
ドォン!!
凄まじい一撃が振り下ろされた。
ガキィィィン!!
「ぐっ……!」
エギルが受け止める。
床が砕け、亀裂が走った。
「どうした、エギル!お前も騎士なのだろう!」
父王がさらに力を込める。
「言われなくても……!」
エギルが剣を滑らせ、攻撃を受け流す。
そのまま身体を捻り、斬り返した。
シュッ!!
父王が身を逸らす。
刃が頬を掠めた。
「……!」
エギルは止まらず、踏み込み連撃を繰り出す。
ガキィン!
ガキィィン!!
激しい剣戟が王座の間を駆け抜ける。
「ぬぅ……!」
父王が剣を振り下ろす。
エギルは紙一重でかわし、その懐へ飛び込んだ。
「そこだ!」
白い魔力が、エギルの剣へ集まる。
「『聖煌一閃』!!」
シュピィィィィンッ!!
白銀の斬撃が一直線に走る。
「ぬおおおおおっ!!」
父王が闇の魔力を叩きつけた。
白と黒の力が激突する。
ドォォォォォン!!
「ぐあっ!」
二人の身体が同時に吹き飛んだ。
エギルは床を滑り、片膝をつく。
「……まだだ」
エギルはすぐに立ち上がった。
向かい側の父王もまた、ゆっくりと立ち上がる。
そして、その身体から、先ほどとは比べものにならない黒い魔力が噴き出した。
「……!」
エギルの表情が変わる。
父王が闇の魔道具を握り締める。
「これほどの力があるのだ……!」
黒い魔力が王座の間を覆っていく。
「私は負けん!!」
「……父上!その力を使い続ければ……!」
エギルが叫ぶ。
「黙れ!」
父王が吠える。
「私は王だ!!誰にも止められん!!」
(なんて魔力だ)
エギルは剣を握り直した。
父王の皮膚の表面には、先ほどの中庭の魔物たちと同じ、赤黒い血管のような呪印が浮かび上がっていた。
「止めなければならない」
エギルは剣を構える。
「死ねェッ、エギル!!」
父王が、黒い奔流を纏った剣を振り上げる。
エギルは剣を構えようとした。
しかし、その瞳に映る狂乱した父の顔に、幼き日の記憶が重なる。
「……父上」
ほんの一瞬、エギルの腕が止まった。
父王が、その隙を逃さず、一気に距離を詰めるのだった。




