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滅びの実験

 王城の中庭。


 レイク達が駆け込むと、反乱軍が一斉に雪崩れ込んできた。


「まさか……」


 エギルが呟く。


 その先頭に立っていたのは――ルンペルだった。


「さあ、始めようか」


 ルンペルが穏やかに微笑む。


 直後。


 男達の身体から、黒い魔力が噴き出した。


「な、なんだ!?」


「ぐあああああ!!」


 次々と姿を変えていく反乱軍。


「魔物……!?」


 王国軍が後退する。


 その上空。


 高い建物の屋上から、二人の男女が戦場を見下ろしていた。


「ふふ……始まったね」


 マルフィアが口元を吊り上げる。


 その隣で、ヴァルガンが静かに戦場を見つめる。


「実験の舞台として、最高だ」


 地上では、ルンペルが笑う。


 王国軍が押し込まれていく。


「なんだあいつらは!?」


「ルンペル殿は味方じゃなかったのか!?」


「わからん!攻撃を止めろ!」


 王城内は、一瞬にして混乱に包まれた。


「何が……起きている……?」


 王族たちも状況を理解できていない。


「……やるしかねぇ!」


 レイク達は魔物達へ向かって走り出した。


 レイクが拳を握る。


「はああああっ!!」


 魔物を吹き飛ばす。


 その光景を見ていたルンペルが、僅かに目を細めた。


「……やはり貴様らか」


 マルフィアもレイク達を睨みつける。


「な!?あのガキ共……」


 そして、その先を見る。


「……そして、やつはラルク」


 マルフィアの顔から笑みが消える。


「厄介だね」


 ヴァルガンも頷く。


「同感だ」


 ルンペルはニヤリと笑った。


「ならば……」


 手を掲げる。


 黒い魔力が、王国軍へ向かって放たれた。


「なっ……!」


 王国の兵士たちの身体からも、黒い魔力が噴き出す。


「ぐあああああ!!」


「た、助けてくれ!!」


 次々と王国軍までもが魔物へと変貌していく。


「な……」


 レイクが目を見開く。


 敵も味方も関係ない。


 王国軍も反乱軍も、魔物となって互いに襲いかかる。


 戦場は、完全に制御を失っていた。


「お前ら、何がしてぇんだよ!?」


 レイクが叫ぶ。


 ルンペルは楽しそうに笑った。


「実験さ。付き合ってもらうよ。騎士学園の者どもよ」


 その言葉を残し、ルンペルの姿が闇の中へ消えた。


「待ちやがれ!」


 レイクが追おうとしたその前に、魔物たちが立ちはだかった。


「先生は……?」


 ミリアが周囲を見渡す。


「多分、ルンペルを追ってる」


 レイクが答えた。


 一方、王国軍の混乱に乗じ、国王と兄たちは王座の間へ向かっていた。


「父上!どこに行かれるのですか!!」


 エギルが叫ぶ。


 国王は答えない。


 そのまま王座の間へ向かっていく。


 エギルは追いかけようとするが、背後にはまだ戦っている仲間たちがいる。


「……」


 エギルの足が止まった。


「親子水入らず、積もる話もあるだろ」


「……ゼノン」


「行け」


 エギルは一瞬だけ仲間を見る。


「……すまない……!」


 エギルが走り出す。


 その隣へ、セレナも続いた。


「私もエギルと王座の間へ行きます」


「セレナ?」


「妃様を連れて、安全な場所へ移します。それから、スラムに潜伏している我が国の援軍も呼びます」


 ミリアが頷く。


「お願い!」


「うん!」


 二人は王座の間へ向かって走っていった。

◇

 王座の間。


 国王が扉を閉める。


 そこへ、エギルが追いついた。


「お待ちください、父上!」


 国王が振り返る。


「国民も家臣も利用され、このようなことになっている!」


 エギルの声が響く。


「なぜ、あの場を後にできるのです!」


「知らん」


「……!」


「そうだ、お前の仲間たちは支援に来たと言ったな」


 国王はエギルへ言い放つ。


「いい機会だ、なんとかしろ」


「ふざけるな、バカ野郎!」


 エギルの怒声が響き渡った。


「なに?」


 国王の顔が歪む。


「聞こえなかったか?バカと言ったんだ、愚か者め!」


 エギルは一歩踏み出した。


「どうやら頭どころか、耳まで使い物にならんようだな!」


「父に向かって、その口の利き方……!」


「関係あるか!」


 エギルが怒鳴る。


「仲間を見捨てる者が騎士の王なら、さっさとやめて大道芸人にでもなったらどうだ?一芸やれば、拍手がもらえるぞ?」


「貴様……!なんだ、その口の利き方は!?」


 国王が叫ぶ。


 エギルは冷たい声で言った。


「なんだ?拍手をもらうこと以外の生き甲斐があんたにあったのか?」


「……!」


 国王の顔が強張る。


 後ろでセレナが息を呑む。


「エギル……」


 エギルは一度だけ、セレナを見る。


「何をしている、セレナ」


「……!」


「母上を安全な所へ頼む」


「……は、はい!」


 セレナは王妃のもとへ駆け寄る。


 その時だった。


「エギル、お前!」


 兄の一人が怒鳴る。


「父上になんて失礼なことを!」


 エギルは兄達を睨みつけた。


「父上に胡麻をするしか能のない兄上達は黙ってくれ」


「なに!?」


 兄たちの顔が怒りに染まる。


 国王もエギルを睨みつけた。


「貴様……どういうつもりだ?」


 エギルは静かに答えた。


「父上」


 その声は、不思議なほど落ち着いていた。


「おれは、あなたの教えや考えに間違いはないと信じておりました」


「……」


「だが――先程、はっきりわかった」


 エギルは剣を抜く。


 鋭い金属音が、王座の間に響いた。


「あんたより、おれの方が、騎士として数段上だ!!」


「なんだと!!!???」


 国王の怒号が響く。


 エギルは剣先を父王へ向ける。


「稽古をつけてやろう。全力で来い、老いぼれが」


「貴様ァァァァァ!!」


 二人の怒声が王座の間を震わせた。

◇

 一方、王城の中庭。


 レイク達は、襲い来る魔物たちを次々と迎え撃っていた。


「くそっ!多すぎる!」


 レイクが魔物を吹き飛ばす。


 その時ふと、高台の回廊へ視線を向ける。


「……あいつ」


 そこには、眼下の地獄絵図を見下ろす――ヴァルガンの姿があった。


「レイクくん?」


 ミリアが声をかける。


 レイクは拳を握った。


「すまねぇ、みんな!ここ任せてもいいか?」


 ゼノンが振り返る。


「どうした?」


「ヴァルガンがいた」


「!?」


 ゼノンの表情が変わる。


 レイクは高台を睨みつけた。


「先生はルンペルを追ってるはずだ。結局、どうやってもあいつら追い出さねーとだしな」


 レイクは拳を握り直し、仲間を見る。


「ヴァルガンは、おれがやる!ここを頼む!」


 リゼットが声を上げた。


「しかし、一人では……奴の力は未知数だぞ!」


 その言葉にミリアが一歩前へ出た。


「私も行く!!」


「……ミリア様?」


 リゼットが驚く。


「ゼノンさん、リゼット。ここはお願い」


 ゼノンは高台を見つめ、それから周囲の魔物たちを見る。


「……わかった」


「ゼノン!」


 リゼットが声を上げる。


 レイクは申し訳なさそうに笑った。


「ごめんな、ゼノン、リゼット」


 そして、少しだけ笑う。


「正直ここはきついと思うけど……まぁ、ゼノンなら大丈夫か」


「……」


 ゼノンが目を細める。


「変にプレッシャーかけるな」


「ん?」


「そんなん言われたら、なんとかするしかなくなるだろ」


 レイクがニヤリと笑う。


「お前もおれによく言うだろ?『お前なら』ってさ。仕返しだ」


 ゼノンは小さく笑った。


「そうか。じゃあ、あっちは頼むぞ」


「おう!!」


 レイクが笑う。


「行くぞ、ミリア!」


「うん!」


 二人は疾風のように地を蹴り、高台へと駆け上がっていった。

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