家庭訪問
バルカーン王国、王城。
レイク達はラルクに連れられ、王座の間へと通された。
そこには、王座に座るバルカーン国王と王妃、その左右に控える二人の王子、そして多くの臣下達の姿があった。
国王はレイク達を見るなり、眉をひそめる。
「……騎士学園の教師が、何の用だ」
ラルクは眠そうな目のまま答えた。
「家庭訪問です」
「……は?」
父王の表情が固まった。
その言葉に、エギルの兄が前へ出た。
「家庭訪問とは。エギル、お前もよくもまあ平民などと馴れ合っていられるな」
「……なんだと?」
エギルの眉がぴくりと動く。
「王族たる者が、身分もわきまえず平民と友人ごっことは。恥ずかしくないのか?」
「黙れ」
エギルが低く言う。
「お言葉ですが、兄上。おれは――」
「ご覧の通り、ご子息は少々反抗期なものでしてね。担任として家庭訪問に参りました」
ラルクは割込み、懐から取り出した書状をひらひらと揺らし、隣に立つエギルへと視線を流した。
「誰が反抗期ですか!!」
エギルが即座に怒鳴った。
レイクがニヤリと口端を吊り上げた。
「へぇ〜、エギルってば反抗期か。プププ…年頃だぁね〜」
「叩っ切るぞ、貴様」
エギルは青筋を立てる。
ゼノンまで真顔で尋ねる。
「お前そうだったのか?仲良くした方がいいぞ」
「真顔で尋ねるな!相変わらず、ズレてるな」
エギルが額に手を当てる。
しかし、セレナは楽しそうに笑った。
「エギル反抗期なんだ〜お可愛いですわね〜」
「セレナ覚えておけよ……!」
ミリアが割って入り、心配そうな顔でエギルを見る。
「エギルさん……可哀想……」
「ミリア?」
「私はわかってるよ!そういう時期って誰にでもあるし!」
「なぜ貴様はいつも的外れなのだ!?」
リゼットが静かに腕を組む。
「言われてみれば……万年反抗期のような捻くれ具合ではあるな」
「リゼット、貴様!」
王座の間に、明るい笑い声が響いた。
「……」
国王も、兄達も、臣下達も、ただ呆然と、その光景を見つめていた。
ラルクは気にすることなく話を戻した。
「まあ、冗談は置いておいて」
ラルクが国王へ視線を向ける。
「学園としても、御国の状況を放置するつもりはありません。支援を出す用意があります」
「ふん、たわけたことを!」
父王が、嘲笑とともに立ち上がった。
「我が国が他国の、それも小童どもの手を借りるだと?笑止千万!」
父王の手に、黒い光を放つ魔道具の短剣が現れる。
「見よ!この我が身にみなぎる力を!」
ブワァ……!
禍々しい闇の魔力が、激しく漂う。
「おお!さすがは陛下!」
「さすがは父上!」
「我が国は不滅だ!」
エギルの兄達や臣下が、一斉に国王を称賛する。
その様子を見て、レイクが首を傾げた。
「え?別にあんたの力じゃねーじゃん」
全員の視線がレイクへ向く。
「あらま」
玉座の横の椅子に座っていたエギルの母である王妃が、小さく声を漏らした。
「…………」
王座の間が静まり返った。
レイクは気にせず続けた。
「王様はなんで道具の自慢なんかしてんだ?お買い得だったの?」
「レイクくん!失礼だよ!」
ミリアが慌てて止める。
「だって意味わかんねーじゃん」
レイクは本気で不思議そうな顔をする。
「『我が身にみなぎる力を!』とか言うから、すげぇもん見れると思ったら商品紹介してんだぜ?」
「ふっ……」
王妃が小さく吹き出す。
リゼットも口元を緩めた。
セレナも肩を震わせている。
「ふふっ……レイク様らしいですね」
ゼノンも微笑んでいた。
「……相変わらずだな」
そして、エギルも、ほんの僅かに微笑んだ。
レイクを見て、ラルクが深いため息をつく。
「……思ったことを口にしすぎだ、お前は」
すると、臣下達が怒鳴った。
「な、なんという無礼な!」
「王に向かってなんという口の利き方だ!」
「平民ごときが!」
「え!?めっちゃ怒るじゃん!」
レイクが目を丸くする。
「ってことは王様、マジでやってたの!?ドーピング前向き系?」
「……!」
国王の顔が真っ赤になった。
「す、すんません!おれ、ボケだと思ってて!」
レイクは慌てて両手を合わせ気まずそうに国王を見た。
国王は視線を露骨に泳がせ、震える声で呟いた。
「い、いや……ボケだし」
(陛下ー!!??)
臣下達の間に動揺が走った。
(顔真っ赤じゃん!絶対恥ずかしくなってるよ陛下!)
(涙目でプルプル震えてんじゃん!なんて事言うんだ、あの小僧は!)
「いやぁ〜……そうっすよね〜。自分、鈍くてすんません!失礼でしたね!」
(そうそう!失礼だよ!ちゃんと察する事できるじゃんあの子!)
(……いや、でも陛下は気にしてるよな?)
(どうする!?誰かフォローしろ)
「いや……別にボケだしぃ……!全然!気にしてねぇし!」
(陛下ー!!!??)
(気にしかしてねーよ陛下!)
(初めてオシャレな髪型にして、それいじられた男子中学生みたいになってるよ、陛下!)
(陛下もう立ち直れないよ!)
「……えーっと……そうだ!」
レイクは隣のエギルの肩を叩いた。
「エギル!息子として慰めてやれ!」
(息子に丸投げしたー!)
(何してくれてんだあの小僧!)
「おれに全投げするな!!」
エギルが怒鳴った。
「いいか!父上はな、とにかくなんでもいいから褒めてもらいたい方なのだ!」
グサッ。
国王の胸に、見えない何かが突き刺さった。
レイクは首を傾げた。
「え?なにそれ?子ども大人みたいなやつ? 親からの愛情足りてなかった感じ?」
グサッ。
国王の肩が落ちた。
ゼノンが腕を組み、真剣な顔で頷く。
「確かに、あの歳になってまで褒めてもらいてぇなんて、ずっと寂しい思いしたんだろうな。可哀想に」
グサッ。
国王の表情がさらに沈んだ。
リゼットがエギルを見る。
「エギル、やはり親子だな」
「……何?」
「そういう面倒なところも父上に似ているじゃないか」
「誰があんな寂しがり屋だ!!」
ドグシャァッ!!!
息子の言葉が、父王の心に深々と突き刺さった。
臣下達が一斉に動揺する。
(もうやめてあげてぇ!!!)
(陛下はもう限界だから!誰か止めて!!)
そして、ミリアが慌てて両手を広げ、父王を庇うように叫ぶ。
「みんな失礼だよ!エギルさんのお父さん、素敵なお父さんだと思うよ!」
国王の目に僅かな光が戻る。
(おぉ、よかった優しそうな子だ)
(陛下も少し回復したご様子だ)
臣下達も胸を撫で下ろしたその瞬間。
「息子のエギルさんが小さなことをできただけでもいいの!お皿洗えたね、とか、片付けできたね、とか!褒めてあげないと!」
グサッ。
国王は白目を剥きかけた。
(陛下ぁぁぁぁぁ!!)
ミリアの言葉に臣下達も冷や汗が溢れ出していた。
「あはははははは!」
突然、玉座の隣の王妃が大声で笑い出した。
「あなた達、エギルのお友達かしら?」
レイクが振り返る。
「え?あっ、そうです!」
「あら、そう!」
王妃は楽しそうに笑った。
「ごめんなさいね〜。この人、昔からこうなのよ!」
「母上……?」
エギルが呆然とする。
王妃は今度はエギルを見る。
「エギルもね〜、小さい頃は本当、偉そうだったの。この人の真似ばっかりして……こんな甘えん坊で大丈夫かしら、なんて思ったけど」
「母上!昔のことです!」
レイクがニヤリと笑った。
「へぇ〜甘えん坊のお坊ちゃんだったんですね〜」
「その顔をやめろ!」
エギルが喚く。
それを見て王妃は楽しそうに笑う。
「でも、今は安心!エギル、人らしくなったわね!」
「母上……」
「それに比べて、この人はずっとこう!もぉ嫌になっちゃう」
「あの……エギルさんのお母様なんですよね?」
ミリアがおずおずと尋ねた。
「ええ、そうよ」
「その……すみません。失礼なことばかり……」
「あぁ〜、いいのいいの!」
王妃は笑いながら手を振る。
「もう何年もまともに口を利いてないし」
レイクたちが顔を見合わせる。
「「「「「あ〜やっぱり……」」」」」
レイクたちの声が見事に重なった瞬間。
「いい加減にしろー!!!!!!!」
王座の間に、国王の絶叫が響き渡った。
その直後だった。
バタバタバタッ!!
廊下を駆ける激しい足音。
「陛下!!」
一人の兵士が、息を切らして王座の間へ飛び込んできた。
「反乱軍が奇襲を仕掛けてきました!!!」
レイクたちの表情が一変する。
「奇襲!?」
「そんな……」
ゼノンが呟く。
「時間を稼いだはずだろ」
父王が血走った目でレイク達を睨みつけた。
「貴様ら!家庭訪問だの何だのと時間を稼ぎ、裏で反乱軍を手引きしていたのだな!」
「ちげーよ!おれらじゃねえ!」
レイクの叫びも虚しく、父王は短剣を振り上げた。
「ええい、支援などいらん!我がバルカーンの誇る兵力のみで、ネズミどもを一網打尽にしてくれるわ!」
国王から臣下や兵士達が一斉に中庭へ飛び出す。
「おれらも行くぞ!」
レイク達は一斉に王座の間を飛び出した。




