揃い踏み
王城の旧礼拝堂。
長年使われていない薄暗い空間に、レイク、ミリア、ゼノン、リゼット、セレナ、そしてエギルの六人が集まっていた。
エギルが口を開く。
「それで……反乱軍は、王城への奇襲を考えているのか?」
「ああ」
レイクが頷く。
「ルンペルって奴が、反乱軍に王城へ繋がる古い地下道を教えたんだ」
「……ルンペルだと?」
エギルの表情が険しくなる。
「反乱軍は、その地下道を使って王城へ入り込むつもりみたい」
ミリアが続ける。
「しかも、そのルンペルっていう人は反乱軍に闇の魔道具を渡してたの。きっと魔族だと思う」
エギルは腕を組んだまま考え込むように俯いた。
「……そうか」
レイクがぽつりと口を開く。
「あいつ、昔からいたのか?」
エギルが首を横に振る。
「いや、やつのことはおれも知らん。おれが学園へ入学する前まで、やつはいなかった」
レイクが眉を寄せる。
「じゃあ、エギルが国を出てからか」
ゼノンが口を開く。
「闇の魔道具もか?今は王国軍や反乱軍が使ってるみたいだが」
エギルはゼノンへ答える。
「おれが国にいる頃は、闇の魔道具など存在すら知らなかった」
エギルは遠い目をする。
「……おれが知っているバルカーンとは、変わってしまった」
セレナがエギルを見つめる。
「エギル……」
リゼットが口元に手を当て、呟く。
「短期間でこれほど国が変わるとは一体どんな手を……」
ゼノンが頷く。
「確かに、闇の魔道具が国全体に蔓延してんのは異常だな」
「……力だ」
エギルが皆の疑問に答えた。
「力?」
「あぁ。この国の人間は、昔から力を重んじてきた」
エギルは祭壇へ目を向けた。
「騎士の国として名を上げ、強さを示し、他国から認められること。それが、この国の誇りだった」
レイクが首を傾げる。
「それが今の状況と関係あんのか?いかにも騎士の国って感じだけど」
エギルの目が鋭くなる。
「問題は、何のために力を求めるのかだ」
ミリアがエギルを見る。
「……どういうこと?」
「父上は元々、周囲から認められることを強く望む人だった。王として立派に、誰よりも偉大に見られたいと」
エギルの拳が僅かに握られる。
「父上が力を求めれば、周囲はそれを称えた。王が力を得れば、臣下もそれに倣う」
「……それで闇の魔道具か」
ゼノンが呟く。
「ああ。闇の魔道具は、父上の欲望にあまりにも都合がよかった」
エギルは頷いた。
「身につければ力を得られる。力を得れば、周囲は称える。称賛されればされるほど、より強い力を欲する」
ミリアが俯く。
「……止まれなくなったんだ」
「おそらくな」
エギルは否定しなかった。
「そして、仕える者たちも、父上に倣い力を持ち、称えられることを目的にし始める」
エギルは俯いて呟いた。
「かつての……身分に縋っていたおれのようにな……」
「エギルさん……」
ミリアは心配そうにエギルを見つめた。
「なるほどな」
レイクがエギルの肩に手を置いた。
「だから名前長いんだな。欲しがっちゃう欲張り家系だもんな。フルネームなんだっけ?エギル・マジ・ハタラ・キタクナイ・ダレ・カヤシナッテ・オヤユビ・ニナリタイ・バルカーンだっけ?」
「喧嘩売ってるのか貴様は!誰が山手線に乗るサラリーマンの願望だ!」
「いや、親指になりたいサラリーマン特殊だろ」
「貴様が言い始めたことだろうが!!」
エギルがレイクへ声を荒げた。
「いいか?おれの名はエギル・ソルト・マナ・ティウス・ノルタ・アントス・ガルバ・ヤマル・ラク・バルカーンだ」
「え?エギル・ヨッタ・イキオイ・デ・イッタ・フウゾク・ナン・カ・ムナシイ・バルカーン?」
「どんな鼓膜をしてるんだ貴様は!!」
レイクとエギルがいつもの様に言い合う。
そのいつもがなんだか懐かく、ミリア達は笑った。
「よかった…いつものエギルさんで」
ミリアが微笑んだ。
「……話を戻す」
エギルは表情を引き締めた。
「この国をここまで変えたのは、父上たちだけではない。マルフィアとヴァルガン。そしてルンペル……やつらが、人々の欲を利用している」
リゼットが頷く。
「そうだな。そして、国に対抗するため、反乱軍もまた闇の力に縋っている」
ミリアが静かに言った。
「王国と反乱軍が争うこと自体を、利用しているんじゃ……」
「そう考えるのが自然だな」
ゼノンが続ける。
「反乱軍と王国軍側、双方への闇の魔道具の供給。そして王城への地下道……あいつら、王城内で何か仕掛けるつもりとしか思えねぇな」
「……なら、まず反乱軍を止めねぇとだな」
レイクが踏み出す。
「待て。急に方針を変えさせるのは不自然だ」
エギルはレイクを制止し、全員を見渡す。
「しかも、魔族たちが何を企んでいるか、まだ具体的にわからん」
「……確かに」
リゼットが頷く。
「こちらが動いている間にも、王城内部で何かが進んでいる可能性がある」
「だったら、反乱軍のおっちゃん達にそれっぽい理由で待ってもらうしかねぇか」
レイクが考え込む。
「そうだね」
ミリアが頷いた。
エギルが腕を組みながら続ける。
「その間に、おれは王城内を探る。マルフィアたちが何を企んでいるのか、できる限り調べる」
「じゃあ、明日また集まろうぜ!」
レイクが拳を握った。
「昼を過ぎた頃でいいだろう。場所はスラム」
ゼノンが言った。
「ああ。それまでに各々情報を集めよう」
エギルも頷いた。
◇
翌日の朝。
反乱軍の拠点には、男たちの声が響いていた。
「よし!今日こそ王城へ攻め込むぞ!」
そんな中、レイクが一歩前へ出た。
「ちょっと待てくんねぇか?」
「ん?」
レイクは頭を掻いた。
「いきなり攻め込むより、もう少し作戦を練った方がいいんじゃねぇか?」
「何だ?怖気づいたのか?」
男がレイクに問いかけるとゼノンが割り込むように口を開いた。
「地下道を抜けた先の警備の情報がない」
リゼットも静かに告げる。
「仮に侵入できたとして、その後どうするかも決めておくべきです」
ミリアが言葉を挟む。
「慎重にする方がいいかなと思います」
反乱軍の男たちがざわめく。
「……確かに」
「王城の中までは分からねぇ。地下道が使えるからって、すぐ突っ込むのは危険か」
少しずつ、反乱軍の熱が落ち着いていく。
レイクが笑った。
「よし!じゃあ今日は、情報収集と作戦を考えようぜ」
「そうだな!」
反乱軍の男たちは地図を囲み始めた。
◇
王宮。
エギルは玉座へ続く道を一人で歩いていた。
「……反乱軍の手引きはした。計画通り事を運べる」
エギルの足が止まった。
ルンペルの声だった。
続いて、マルフィアの声が響く。
「ふふ……実験は上手くいきそうだね」
エギルは壁際へ身を寄せ、二人の会話へ耳を澄ませた。
「この国が出涸らしになるまで利用させてもらおうじゃないか。王も、兵士も、国民もね」
マルフィアが笑う。
ヴァルガンが答える。
「この王城を我らの勢力拡大に使わせてもらおう」
(……勢力拡大だと?)
エギルの拳が強く握られる。
(もっと調べる必要があるな)
エギルは踵を返した。
◇
バルカーン王国の検問前。
ラルクは立ち止まり、王都を見上げた。
(……妙だな)
肌にまとわりつくような、嫌な違和感。
ラルクは小さく息を吐くと、検問へ歩み出した。
◇
昼過ぎ。
スラムの一角にレイク達は集まっていた。
「そういやエギルにスラムで集合しか言ってねーけど、ちゃんと来れんのかな?」
レイクが腕を頭の後ろに組み呟く。
「大丈夫だ。エギルなら、魔力を辿って来る」
ゼノンが手に魔力を練り出し答えた。
「おー、だからずっとそんなんやってたんか!さすがゼノン」
レイクは感心した。
そんな中、ミリアがふと顔を上げる。
「さすがで思い出したけど、ラルク先生いつ来てくれるんだろう」
「あ、そういやおれら先導隊だったな」
レイクも思い出したように言った。
「相手はマルフィアクラスが三人。ラルク先生と合流するまでおとなしくしてる方がいいかもしれませんね」
リゼットがミリアへ言う。
その時。
「待たせたな」
背後の声にレイク達が振り返るとエギルが立っていた。
そして、その後ろに見覚えのある男がいる。
ミリアが驚いたように目を見開く。
「先生……!」
ミリアが嬉しそうに微笑む。
「先生……だと?」
エギルが振り返るとラルクが立っていた。
「……ラルク先生!」
ラルクはいつものように気怠げに言葉を放つ。
「お前ら、無事だったようだな。……エギル、何よりお前が無事で良かった」
「ご心配をおかけしました」
エギルはラルクに頭を下げた。
だが、セレナだけが首を傾げた。
「……先生?」
「ラルク先生!あんなだるそうで、眠そうで、ろくでもなさそうだけど、すごい人なんだぜ!おれらの先生!」
レイクがセレナへ胸を張ってラルクを紹介した。
「悪かったな、ろくでもなさそうで」
ラルクがレイクへ気怠げに返答した。
そして、ラルクはセレナへ視線を向けた。
「……そちらは?」
「この子はセレナ。スノウ公国の王女なんです」
ミリアが紹介する。
「初めまして、ラルク先生!セレナ・スノウです」
セレナが頭を下げる。
「どうも」
ラルクも手をあげ挨拶した。
「後から来るって言ってたの、ほんとだったんだな!」
レイクがニッと笑って言う。
「ああ」
ラルクはレイク達を見渡した。
「で?色々調べてたんだろう」
「当然!」
レイクが胸を張って答える。
ラルクは王城を親指で指す。
「なら、王城に向かいながらお前らの調べた事を聞こう」
「え?」
全員がきょとんとする。
「あの……先生」
ミリアがゆっくり手をあげラルクに問う。
「この国は余所者に厳しいですし、王城内に簡単に入れないと思うんです……」
ラルクはミリアの言葉を聞くと手に書状を広げた。
「学園からの書状だ。王城内へ入る許可も取っている。まぁ家庭訪問だな」
「家庭訪問……」
拍子抜けした空気が流れる。
「お前らついて来い」
こうして、家庭訪問という名目でレイク達は王城へ歩み始めた。




