↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
68/82

横に立つ者

 王城内へ続く地下道。


 五人は足音を抑えながら、古びた石造りの道を進んでいく。


「随分と長いな」


 ゼノンが周囲の石壁を見渡しながら、微かな声で呟く。


 壁にはところどころ亀裂が走り、長い年月使われていなかったことが分かる。


「昔の抜け道とはいえ、よくこんなものが残っていたものだな」


 リゼットが呟く。


「……静かだね。誰もいないのが逆に怖い……」


 ミリアが周囲を見渡し、警戒しながら歩く。


 すると、前方に、ぽつりと、人影が立っていた。


「……!」


 五人が一斉に足を止める。

 

 人影は待ち構えていたかのように、微動だにせず、こちらを見つめている。


「……ルンペル」


 レイクが呟く。


 ルンペルは五人を見ると、驚いた様子もなく、穏やかな笑みを浮かべた。


「やあ。奇遇だね」


 レイクは身構える。


「……お前、こんなところで何してんだ?」


 ルンペルは小さく首を傾げてみせた。


「それは、こちらの台詞だと思うがね」


「……っ!」


 咄嗟に言葉に詰まったレイクは、露骨に視線を泳がせながら胸を張った。


「お、おれ達は、反乱軍の先見隊だ!教わった抜け道が本当に使えるか、確かめに来たんだよ!」


「……先見隊、ねえ」


 ルンペルは何も言わず、五人を見つめる。


 張り詰めた沈黙が流れる。


 ゼノンが魔力を練り始めた、その瞬間。


「……そうか」


 それだけだった。


 ルンペルは微笑むと、五人の横を通り過ぎる。


「邪魔をして悪かったね。ぜひ、しっかり調べて有用な情報を持ち帰ってくれ」


「……?」


 レイクは振り返る。


 ルンペルは何事もなかったかのように、そのまま地下道の奥へと歩いていく。


「……なんだったんだ?」


「……さあ」


 ミリアも首を傾げる。


 ゼノンはルンペルが消えていった暗闇を見つめていた。


「……妙だな」


「罠だろうか……」


 リゼットの懸念に、セレナが静かに首を振った。


「分からない。でも、今は立ち止まっている暇はないし、エギルを探し出さないと」


「ああ、そうだな!行くぞ!」


 レイクが前を向くと、五人は再び歩き始めた。


 やがて前方に、淡い光が見えてくる。


 近づくにつれ、それが地下道の出口だと分かった。


 レイクが扉に手をかける。


「……行くぞ」


 ギィィィ……。


 古びた扉が開く。


 その先にあったのは、王城だった。


 五人は周囲を確認しながら、静かに中へ入り込む。


 城内には王国兵が巡回している。


 その中には、闇の魔道具を身につけた兵士の姿もあった。


「……やっぱり、ここにもいる」


 ミリアが小さく呟く。


「ああ」


 レイクは拳を握る。


「早くエギルを探そう」


 五人は兵士達を避けながら、影から影へと身を滑り込ませ、王城の奥へ進んでいく。


 そして、王城の中心部から外れた、薄暗い訓練場の片隅に、見覚えのある背中があった。


 一人、黙然と剣を握りしめている青年。


「……エギル!」


 レイクが声を上げ、五人が駆け寄る。


 ビクッと肩を揺らしたエギルが、弾かれたように振り返った。


「……貴様ら」


 驚愕に目を見開くエギル。


 セレナが胸を撫で下ろす。


「よかった、無事だったんだね……!」


 エギルは険しい表情を浮かべる。


「……なぜ来た」


「なぜって、みんなあなたが心配で来たのよ」


 ミリアが訴えかけるがエギルは視線を合わせようともせず、冷徹に言い放った。


「……帰れ」


「……エギル」


 ゼノンが口を開く。


「お前の国の惨状は見た。放っておいて、帰るわけにはいかねぇよ」


 リゼットが続く。


「反乱軍は魔道具に命を吸われながら戦っている。王国軍側もそうだろう。魔族が関わっているとなれば尚更帰れん」


 ミリアが投げかけるように言う。


「エギルさん。私達にもできることがあると思うの。だから――」


「帰れと言っているのだ!」


 エギルは苛立ちを隠そうともせず、剣を鞘へと乱暴に納めた。

 

「これはバルカーン王国の問題だ。貴様らが関わることではない」


「でも――」


「帰れ」


 エギルはもう一度、冷たく言い放つ。


「おれがなんとかする」


 レイクの表情が変わった。


「……またそれかよ」


「何?」


「一人で背負って、一人でなんとかするってやつだよ」


「それが王家の人間として――」


「まどろっこしい!」


 レイクがエギルの胸ぐらを掴む。


「さっきからガタガタ思ってもねーこと言いやがって!耳障りなんだよ!」


 エギルが目を見開く。


「おれはエギルと喋ってんだ!てめぇ誰だ?」


「……!」


 次の瞬間――


 ドンッ!


 エギルの拳がレイクの頬を打ち抜いた。


「レイクくん!」


「レイク様!」


 ミリアとセレナが声を上げる。


 レイクは殴られた頬を押さえながら、エギルを見る。


 エギルの拳は震えていた。


「貴様に何がわかる!!」


 声が訓練所内に響く。


「王家の者の責務は、国のため、民のため、その身を焦がし、国民に日々支えてもらった恩を返すことだ!」


 瞳から溢れ出しそうな涙を拭いもせず、エギルは喉を枯らして叫ぶ。


「おれが背負わずしてどうする!どうしようもなくとも、おれがなんとかしなければならないんだ!!」


「……」


 静寂が落ちる。


 レイクはしばらくエギルを見つめていた。


 そして、ニッと笑った。


「なんだ、本音言えんじゃねーか」


「……なに?」


 レイクは一歩前へ出ると、拳をぐっと引き絞る。


 ドゴォッ!!


 エギルの頬を、寸分の狂いもなく豪快に殴り返した。


「ぐっ……!?」


 よろめくエギルを見下ろし、レイクはニッと歯を見せて笑う。


「久しぶりだなエギル」


「貴様……!」


 レイクは息を吐き、肩をすくめた。


「エギル。確かに、おれはお前じゃねーし、王族の苦しみなんかわかんねーよ」


 レイクは真っ直ぐエギルを見る。


「だけどよ、おれ達はお前の横に立つことはできるぜ」


「……横に……?」


「一緒に悩んで、バカやって、笑ってさ」


 エギルの目が揺れる。


「いつもみてぇに、本心で喋れよ」


 その言葉を聞いた瞬間、エギルの脳裏に、学園長の言葉が蘇った。


 ――『エギルよ。たまには横を向いてみなさい』


 あの時は、その意味が分からなかった。


 王家の者として、前だけを見ていればいい。


 そう思っていた。


 だが、エギルはゆっくりと横を向く。


 そこには、心配そうに自分を見つめるミリアがいた。


 静かに腕を組み、笑みを浮かべるゼノンがいた。


 主を守るように、力強い眼差しを向けるリゼットがいた。


 そして、優しく微笑みかけるセレナがいた。


 自分の責任を代わってくれるわけではない。


 国を背負ってくれるわけでもない。


 それでも、自分の横に立っている。


「……そういうこと……だったのか」


 エギルが小さく呟く。


 そして、もう一つの言葉が蘇る。


 ――『なんかあったら言えよ。友達だろ?』


 エギルは俯いた。


「……頼む」


 絞り出すような、震える声だった。


「これまでの態度も詫びる……だから……」


 エギルは頭を下げた。


「……おれに力を貸してくれ」


 レイクは笑った。


「あたりめぇだ!」


 エギルが顔を上げる。


「エギル、おれ達はこの国の味方でも、救世主でもねーよ」


 レイクは拳を握る。


「ただのお前のダチだ」


 その言葉に、エギルは静かに目を伏せた。


 エギルは、最初から一人ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。