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バルカーン義勇隊

 反乱軍の前で、五人は堂々と並び立っていた。


「バルカーン王国義勇隊!参上!」


 レイクが拳を突き上げる。


 しかし――


「…………」


「なんだこいつら?」


 反乱軍達は、目を点にしたまま完全に固まっていた。


 レイクは満足そうに頷く。


「決まったな!」


「?何か決定したのか?」


「そういう意味じゃねーよ」


 ゼノンの真顔に、レイクが呆れたように返す。


「……レイクくんとゼノンさん、なんでノリノリなの……」


 ミリアが小声で呟く。


「絵本のヒーローになったみたい!ワクワクしちゃう!」


「え!?セレナも!?」


 目を輝かせるセレナに、ミリアが驚く。


「……恥ずかしい」


 リゼットだけは、目元を隠す仮面に手を添えながら俯いていた。


 その時、怒号が響き渡る。


「何者かわからんが、反乱軍に与する者は粛正する!」


 王国軍が一斉に魔力をレイク達へ放った。


「『氷の槍(アイス・ランス)』!」


 ミリアが杖を掲げる。


 ドドドドドドッ!!


 無数の氷の槍が闇の魔力と激突し、相殺された。


「今だ!」


 リゼットが地面を蹴る。


 ビュン!


 ワイヤーを伸ばし、王国軍の懐へ飛び込む。


「はっ!」


 短剣が閃き、騎士の武器を弾き飛ばす。


「おらぁッ!」


 ドガァン!!


 レイクの魔力を込めた拳が次々と王国軍へ飛び込んでいく。


 ゼノンが地面に手を付ける。


「『地裂大津波(ガイア・タイド)』!!」


 ドドドドドドッ!!


 大地が大きく隆起し、巨大な土の波が王国軍を飲み込んでいく。


「うわぁぁぁぁ!!」


「なんだ、この魔法は!?」


 王国軍が次々と吹き飛ばされる。


 反乱軍も、その光景に目を見開いた。


「す、すげぇ……!」


「強い!」


「よし!あいつらに続けー!」


「うおおおおおお!!」


 反乱軍も一斉に駆け出し、王国軍を押し始める。


「なっ……!」


 リゼットは敵を倒しながら、自分の仮面に触れる。


「……こんな格好で、あんな登場をしなければ……」


 顔を赤くしながらも、ワイヤーを操って敵を次々と倒していく。


 その隣では、ミリアが氷の魔法を放っていた。


「……でも、ちょっと楽しいかも」


「ミリア様!!??」


 リゼットが思わず振り返る。


「どりゃぁぁぁ!!」


 ドーーーン!!


 レイクの拳が地面を叩き、王国軍が一気に吹き飛ばされる。


「くっ……退け!退け!!」


 王国軍が撤退し、反乱軍から歓声が上がった。


「やったぞー!!」


「王国軍を追い返した!」


「助かったぜ!あんたら、いったい何者なんだ?」


 レイクはニヤリと笑う。


「おれ達の正体は――」


 その瞬間。


「バルカーン義勇隊です!!」


 ミリアがレイクを遮って前へ出た。


 目をキラキラさせ、えっへん、と胸を張っている。


「…………」


 その場が静まり返る。


 ミリアの顔が、みるみる赤くなっていく。


「……あ、あれ?」


 レイクがニヤッと笑う。


「ノリノリだな~。最初、嫌がってなかったっけ?」


「え!?いや、これはその……」


 ゼノンが淡々と告げる。


「お前がリーダーみてぇだったぞ」


「……やめてください」


「なんだよ、ミリア~。素直じゃねぇやつだな~」


 レイクがニヤニヤしながらミリアの肩を叩く。


「ミリアうちわ作るか?バルカーンの皆さんに推されちゃう??」


「やめて!!」


 ミリアが顔を真っ赤にして叫ぶ。


「そ、そういう訳じゃなくて……なんだか楽しくなって来ちゃって……」


「うん!わかる!私もヒーローになった気分!」


 セレナが嬉しそうに頷く。


「だよね!だよね!」


 二人が盛り上がる横で、リゼットだけが引きつった顔をしていた。


「……ミリア……様」


 こうして、レイク達五人は反乱軍に迎え入れられることになった。

◇

 反乱軍の拠点。


 そこでは、先ほど戦っていた者達がそれぞれ身体を休めていた。


 彼らの腰や腕には、先ほど王国軍が使っていたものと同じ、漆黒の魔道具があった。


「これがあれば、王国軍なんか怖くねぇ!」


「こいつは本当にすげぇ武器だぜ!」


 誰もがそれを誇らしげに見せている。


 しかし、レイクの視線が、一人の男の腕で止まった。


 魔道具を装着している腕が、赤黒く異様に腫れ上がり、皮膚の下には血管のような黒い痣が網目状に浮かび上がっている。


「……っ、いてぇな」


 男が腕を押さえる。


「大丈夫か?」


「これくらい平気だ。王国軍に殺される理不尽に比べりゃ、どうってことねぇよ」


 男は笑っていた。


 別の男の首筋にも黒い痕が浮かび、さらにその隣では、男が肩を押さえて苦しそうに息を吐いていた。


 それでも誰も気にしていない。


「すごいんだぜ、この魔道具!」


「ああ!これさえあれば、おれ達だって王国軍と戦える!」


 レイク達は互いに顔を見合わせた。


「……レイクくん」


 ミリアが小さな声で呼ぶ。


「ああ。魔道具から、身体に魔力が流れ込んでるだけじゃねぇ」


 ゼノンが魔道具へ視線を向ける。


「その代わりに、本人の生命力や魔力まで少しずつ吸い上げてやがる」


「……!」


 ミリアが息を呑む。


「本人達は……気づいていないのでしょうか」


 リゼットが周囲を確認しながら尋ねる。


「多分な。強くなれるってことしか見えてねぇんだろ」


 ゼノンが答える。


 男達は、自分達が蝕まれていることも知らず、その力を頼りにしていた。

◇

 その夜。


 反乱軍の拠点に、一人の男が姿を現した。


「おお、ルンペルじゃねぇか!」


「今日も来てくれたのか!」


 反乱軍の男達が、親しげに声を掛ける。


 ルンペルは穏やかな笑みを浮かべた。


「やあ、皆。今日も随分と無理をしたようだな」


「ちょっと身体が痛むくらいだ!」


「ルンペルのおかげで、今日も王国軍を追い返せたんだ!」


「そうか」


 ルンペルは男達を見回す。


「だが、無理はするなよ。身体を壊してしまっては、戦うこともできなくなる」


「分かってるって!」


 男達は笑う。


 その様子を、レイク達は少し離れた場所から見ていた。


 ルンペルは、反乱軍にとって昔から魔道具を供給してくれる頼れる協力者だった。


「今日は、新しいものを持ってきた」


 ルンペルが懐から魔道具を取り出す。


「おお!新しい魔道具か!」


 反乱軍が一斉に集まってくる。


「これがあれば、もっと王国軍と戦える!」


 ルンペルは魔道具を見せながら、静かに微笑んだ。


「ただし、今回は、少しだけ条件がある」


「条件?」


「ああ」


 ルンペルは一人の兵士へ魔道具を差し出す。


「この魔道具を君に渡そう」


 そして、ゆっくりと言葉を続けた。


「その代わり、君が望むものを一つ、私に約束してほしい」


「望むもの……?そんなの、この国から悪徳貴族を追い出すことくらいだ!」


 ルンペルが笑う。


「いいね。では、その願いが叶った暁には、君の大切なものを、私に一つ分けてもらうよ」


 男は内容も深く考えず、差し出された魔道具を受け取る。


「契約成立だ」


 その瞬間、魔道具から、僅かに黒い光が走った。


 レイク達は目を細める。


(……あいつだ)


 レイクはルンペルから目を離さない。


「セレナが言っていた、王宮にいた男……」


 ゼノンが小声で呟く。


 今ここで騒ぎを起こせば、反乱軍への潜入が無駄になる。闇の魔道具を調べるためにも、黙っているしかなかった。


 ルンペルが、ふとレイク達へ視線を向ける。


(……やつら)


 一瞬だけ目を細めた。


(……まあいいだろう)


 しかし、それ以上は気に留めず反乱軍を向き直った。


「そういえば、君たちは、王城へ攻め込みたいのだったな」


「おうよ!」


 反乱軍の男が頷く。


「だが、王城は警備が厳しい。正面からじゃ、とてもじゃねぇが入れねぇんだよ」


 ルンペルが口元を吊り上げる。

 

「それなら、裏道を使えばいい」


「裏道?」


 ルンペルが頷く。


「王城へ繋がる古い地下道がある」


「そんなものが……?」


「昔は使われていたが、今ではほとんど使われていない。王国軍も把握していないだろう」


 反乱軍の男達の目が輝く。


「王城へ直接入れるのか!」


 ルンペルが穏やかに笑う。


「チャンスがあれば、そこから奇襲を仕掛けるのも手だろう」


「それだ!」


「それなら一気に王国軍を崩せる!」


「よし!早速、奇襲作戦を考えよう!」


 その様子を見て、ルンペルは満足そうに笑う。


「では、私はこれで失礼するよ」


「ありがとう、ルンペル!」


「また頼むぞ!」


 ルンペルは手を振りながら、拠点を後にした。


「よし!まずは兵力を――」


「地下道の入口を確認して――」


 そんな中、レイクが立ち上がる。


「あー……悪い」


「ん?」


「おれ、ちょっと疲れたわ。奇襲作戦は、みんなで考えといてくれよ」


 レイクは大きく伸びをする。


「……え?」


 反乱軍が首を傾げる。


 すると、ミリアも立ち上がった。


「私も……今日は少し疲れちゃったかな」


 ゼノンも続く。


「おれも休ませてもらう」


 リゼットも、


「……私も、そうさせてもらおう」


 最後にセレナが笑顔で、


「では、私もご一緒しますね」


 と立ち上がった。


「……なんだ?」


 反乱軍は五人を不思議そうに見つめる。


 しかし、一人の兵士が笑った。


「まぁ、今日あれだけ戦ったんだ」


「そうだな」


「あいつらのおかげで王国軍を退けられたんだ。きっと疲れてるんだろう」


「ゆっくり休ませてやろうぜ」


 五人はその言葉を背中で聞きながら、拠点を後にした。

◇

 夜の街を、五人が静かに歩いていく。


「……ここだな」


 レイクが足を止める。


 目の前には、古びた建物の陰に隠れるように、地下へ続く小さな入口があった。


 ルンペルに教えられた、王城への裏道。


 ゼノンが周囲を見回す。


「……誰もいねぇ」


 セレナも頷く。


「では、行きましょう」


 ギィィィ……。


 レイクが古びた扉を開けた。


 その先には、暗く長い地下道が続いている。


 レイクは拳を握る。


「よし……行くぞ」


 五人は静かに地下道へ足を踏み入れた。

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