虚飾の騎士王国
セレナと再会したレイクたち。
ミリアとセレナは、互いの手を取り合って笑っていた。
「何でセレナがこんなところにいるの?」
「私のセリフよ!」
その様子を、ゼノンが不思議そうに眺めている。
「誰だ?」
リゼットが答えた。
「スノウ公国の王女のセレナ姫だ。バルカーン王国の同盟国の王女にあたる」
「……同盟国の王女か」
ゼノンの視線がセレナへ向く。
セレナはすぐに笑顔を返した。
「リゼットも久しぶり!」
「ええ。セレナ様もお元気そうで」
「あ!またそんな他人行儀な言い方」
セレナが少し不満そうに頬を膨らませる。
「前にお友達って言ったでしょ?」
「あ、いや……そ、そうだったな……」
リゼットは小さく頷く。
セレナは満足そうに笑った。
ゼノンがぽつりと呟いた。
「明るいやつだな」
「そちらの方は?」
セレナがゼノンを見る。
「ゼノン!同じ学園の仲間だ!」
レイクが紹介すると、セレナは丁寧に頭を下げた。
「そうなのですね!よろしくお願いします、ゼノン様」
「あぁ。こちらこそ」
ゼノンが短く返した。
そんな中、レイクはセレナの姿を改めて眺めた。
王女とは思えないほど質素な服装。
それでも、スラムの住民たちの中にいる姿には、不思議なほど違和感がなかった。
「んで、なんでこんなとこいるんだ?お姫様がスラムになんてよ。しかも、やけに馴染んでねぇか?」
「これは……色々事情がありまして……」
セレナが言葉を濁す。
「……同盟国の王女がスラムで暮らしてんのか?」
ゼノンが尋ねた。
「……ええ」
「あんまり聞かねぇ状況だな」
ゼノンは少し考えるようにセレナを見る。
「初対面でずけずけ聞くようで悪いんだが、王国へ支援に来たところ突き返されたってとこか?ここは余所者には随分厳しいみたいだしな」
「……ゼノン様、鋭いお方なのですね」
セレナが少し驚いたように目を丸くする。
「……そんな……護衛は?」
ミリアが心配そうに尋ねた。
「皆、こちらで各々身を隠してるの」
セレナは顔を伏せて答えた。
「悪いな。デリケートな話に首突っ込んだ」
ゼノンが視線を逸らす。
「いえ!お気になさらないでください!」
セレナは明るく答えた。
だが、レイクはまだ納得していなかった。
「にしても、この辺りで暮らしてるってのもおかしくねぇか?国に帰らねーの?」
「……帰る訳にはいきませんでした」
その瞬間、セレナの瞳からふっと光が消えた。
「……どうして?」
ミリアが首を傾げる。
レイクも真剣な表情になった。
「話してくれねぇか」
「……はい」
セレナは周囲を一度見回し、声を潜めて語り始めた。
「実は、支援の申し出にこちらへ伺ったところ……王宮内で、『ある男』を見てしまったのです」
「……ある男?」
「ええ」
セレナはレイクを見つめた。
「レイク様がスノウ公国に来たあの日。私の家に義母さまと共に訪れた、あの男」
「……!!」
レイクの目が見開かれる。
ミリアも息を呑んだ。
「……そんな……」
「ヴァルガン……!」
レイクの声が、静かなスラムに響いた。
◇
その頃――。
バルカーン王国、王宮。
玉座の前で、国王が一振りの漆黒の魔道具を掲げていた。
「見よ!この我が身にみなぎる力を!」
ズズズズズ……ッ!
黒い魔力が魔道具から溢れ出し、国王の身体を包み込む。
「おお……!」
「なんという力……!」
周囲から次々と驚嘆の声が上がった。
国王は満足げに笑う。
「これが我がバルカーンの力だ!」
ゴォォォォ……!
闇の魔力がさらに膨れ上がる。
その隣には、マルフィアとヴァルガンが立っていた。
「素晴らしいお力です、陛下」
マルフィアが恭しく頭を下げる。
「これほどの力を自在に扱われるとは。さすがはバルカーンの王」
ヴァルガンも穏やかな笑みを浮かべた。
「この力を手にされた陛下に、敵う者などおりますまい」
「そうだろう、そうだろう!」
国王は上機嫌に笑う。
「これほどの力があれば、反乱軍など恐れるに足らん!」
「その通りです、陛下」
「さすがは偉大なる王です!」
周囲から次々と称賛の声が上がる。
誰も、その力が国王自身のものではないことを言わない。
ただ、目の前の力を称え続ける。
それが、当然のことかのように。
国王はさらに胸を張った。
「もっとだ。もっと我が力を見せてやろう!」
再び、闇の魔力が放たれる。
王宮を震わせるほどの力。
国王は、その力と称賛に酔いしれていた。
その姿を、マルフィアとヴァルガンは静かに見つめていた。
◇
謁見を終え、静かな王宮の回廊を、マルフィアとヴァルガンが並んで歩いていた。
「……空っぽな王だこと」
マルフィアが侮蔑を込めて唇を吊り上げた。
「虚勢のために、自ら喜んで傀儡の道を選んでくれるんだから、世話はないね」
ヴァルガンも鼻で笑った。
「己の力ではない紛い物に執着し、周囲もただ称えるのみ」
ヴァルガンは、先ほどまでいた玉座の間へ視線を向ける。
「裸同然の道化だな」
「こちらも、どうやら上手くことが運んでいるようだな」
二人の背後から声がした。
振り返るとそこには、一人の小柄な男が立っていた。
マルフィアが目を細める。
「おや、ルンペルかい。いらない心配をしに来たのかい?」
「まさか」
ルンペルは笑みを浮かべる。
「既にこの国は我が魔族の根城。実験も滞りなく上手く進んでいる。あの方もお喜びになるだろう」
ヴァルガンは冷酷な眼差しで、王宮の奥を見据えた。
「元より中身のない虚飾の国だ。精々、我ら魔族の器として利用させてもらおう」
◇
一方、崩れかけた建物の中。
セレナはレイク達に、王宮で見たことを話した。
「……あの男の他にも魔女、そして親し気に話す者もいました」
セレナの表情から、笑顔が消える。
「この国は既に彼らのものになっています」
「……マルフィアも」
ミリアが呟く。
「王国軍が使っていた闇の魔道具……流出元はあいつらか」
ゼノンが腕を組む。
「だが、なぜ反乱軍まで……」
リゼットが疑問を口にする。
「……あいつらが配ってんだろうな。国民にも」
レイクが答えた。
「……断定はできませんがおそらく」
セレナが静かに続ける。
「それを見過ごす訳にはいかないと思い、ここでしばらく身を潜め、皆で調べています」
「なるほどな」
レイクが頷く。
「エギルがいたのもそういうことか」
「……!?」
セレナが顔を上げる。
「エギルがここに来ていたのですか?」
「ああ。会ったぜ」
レイクはニッと笑った。
「『二度と姿を見せるな』って追い払われちまったけどな!」
「エギル……そんなことを……」
セレナは胸を痛めたように眉を下げた。
「まぁでも、言う事聞く気はねーけどな」
「……え?」
「お前と一緒だよ。あいつを放っておく訳にはいかねぇ」
「……レイク様」
セレナが目を丸くする。
ミリアもセレナに笑いかけた。
「セレナ!私達にも協力させて」
「どの道、任務だしな」
ゼノンも頷く。
「しかし、レイク。どう調べる?」
リゼットが口を開く。
「ここは余所者には厳しい。反乱軍に聞いても、素直に教えてくれるとは思えないぞ」
「え?入っちゃえばいいじゃん」
レイクが即答した。
「「「「は?」」」」
「だから、おれらも反乱軍に入っちゃえばいいんだよ!」
「…………」
「どうやって魔道具手に入れてるか、おれらも体験だ!」
「ふふ」
ミリアが思わず笑う。
「……また、突飛なことを」
リゼットが呆れたように呟く。
「レイク様……変わらず大胆ですね」
セレナも苦笑した。
「いや、いい手かもしれねぇ。この目で見なくても、仲間になれば情報は取れる」
「ゼノン様まで……エギル、いつも大変ですね」
セレナが苦笑する。
「いつもはここでエギルさんが二人にガミガミお説教してるところ」
ミリアが楽しそうに笑う。
「そうなのね」
セレナは、どこか嬉しそうに笑った。
「でも、レイクくん。反乱軍ってどうやったら入れてもらえるのかな」
ミリアが少し考えるように首を傾げる。
「余所者の私達を簡単に入れてもらえるとは思えないし……」
「それはな……」
レイクはニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべ、全員を手招きした。
◇
――ドォォォン!!
再び、王国軍と反乱軍がぶつかる音が響き渡る。
「国を、おれたちが変えるんだ!」
「賊軍め!返り討ちにしてやる!」
怒号が飛び交い、両軍が激突する。
王国軍の騎士が魔力を練り上げた。
「食らえ!」
その手に、強大な魔力が集まる。
攻撃が放たれようとした、その瞬間――
ビュン!!
目元を隠す仮面の人影が、戦場へ飛び込んだ。
「『火拳』ッッ!!」
ドォォォォォォン!!!
炎をまとった拳が、騎士を真正面から吹き飛ばす。
「な、なんだ!?」
「何者だ!?」
突然現れた謎の人物に、反乱軍がざわめく。
仮面をつけたレイクは拳を握り直した。
「この国の惨状、これ以上見てられん!!」
その隣に、もう一人の人影が立つ。
「『地裂大津波』!!」
ドォォォォォォン!!!
大地が大きく隆起し、巨大な土の波がうねりながら、王国軍へ押し寄せる。
「うわぁぁぁぁ!!」
兵士たちが次々と宙へ舞う。
魔法を放ったゼノンが、レイクの横に堂々と立った。
続いて、目元に仮面をつけ、顔を真っ赤にしたミリア。
「あ、あの……」
その隣にはリゼット。
「くっ……なぜ私がこのような真似を……」
そして、なぜか仮面をつけて目を輝かせ、ノリノリで拳を構えている王女セレナ。
「参らせていただきます!」
五人が並び立つ。
レイクが拳を突き上げた。
「バルカーン王国義勇隊!参上!」




