王族との再会
バルカーン王国。
騎士の国として名高いその王都へ、レイクたちはホウキで降り立った。
目の前に広がる光景に、レイクが思わず声を上げる。
「うおお……!すげぇな!」
巨大な城壁。
整然と並ぶ街並み。
至る所に掲げられた騎士の紋章。
通りを歩く騎士たちも、皆が堂々とした佇まいをしている。
ミリアも辺りを見渡す。
「本当に……騎士の国って感じだね」
「……かなり栄えてるな」
ゼノンが周囲を観察する。
リゼットも頷いた。
「エギルが誇りに思うのも分かるな」
「だよな!」
レイクは嬉しそうに笑う。
しかし、王都を進んでいくにつれて、少しずつ景色が変わっていった。
立派だった建物は次第に古び、整えられていた道も荒れていく。
やがて、壊れた家々が並ぶ一角へと差し掛かった。
道端には、痩せた人々。
食べ物を求める子供。
路上で暮らす者たち。
そして、騎士が通るたびに怯えたように道を空ける住民たち。
ミリアも表情を曇らせた。
「同じ国なの……?」
ゼノンが周囲を見渡す。
「……中心部だけ見れば、豊かな国だが、その裏側にこれだけの貧困があるってことか」
その時だった。
――ドォォォン!!
遠くから、凄まじい爆発音が響いた。
「なんだ!?」
直後、街中に怒号が飛び交う。
「反乱軍だ!」
「騎士団が来るぞ!」
「逃げろ!」
人々が一斉に走り出す。
「おい、何が起こってんだ!」
レイクたちが振り返る。
通りの向こうから、武装した集団が駆けてくる。
その後方には、王国の騎士たち。
「王国に逆らう者を捕らえろ!」
騎士たちが一斉に魔法を放つ。
反乱軍も負けじと魔法で応戦する。
「もう王国の言いなりにはならねぇ!」
魔法同士がぶつかり合い、街中に爆音が響き渡る。
「なんだよ、いきなり……!」
レイクが身構えた、その時、王国側の騎士が腰に下げた漆黒の短剣を抜いた。
ズズズズズ……ッ!
黒い魔力が一気に噴き出す。
負けじと反乱軍の先頭に立つ大男が、懐から取り出した黒く濁った指輪を掲げた。
指輪からドロリとした禍々しい闇の魔力が噴出す。
「闇の魔道具……!」
ミリアが目を見開く。
「……両方が持ってやがるのか」
ゼノンが険しい表情を浮かべる。
「おい!なんで両方ともそんなもん持ってんだよ!」
レイクが叫ぶが、殺気に呑まれた男たちにレイクの声など届くはずもなかった。
闇の力が街中を駆け巡る。
「まずい……!」
ミリアが杖を構える。
レイクも前へ出た。
「とにかく、街の人たちを巻き込ませるな!」
レイクが飛び出し、飛んできた魔法を撃ち落とす。
ミリアが防御魔法を展開する。
「みんな、こっちへ!」
リゼットが住民たちを安全な場所へ誘導する。
ゼノンも攻撃の軌道を逸らしていく。
「お前ら、戦うなら人のいないところでやれ!!」
レイクが怒鳴る。
だが――。
「余所者が口を挟むな!」
王国側から怒声が飛ぶ。
「王国の犬か!?」
今度は反乱軍からも睨まれる。
「……どっちもかよ」
レイクが呆れたように呟いた。
この国では、「余所者」というだけで一切の信用を得られない。
四人は市民たちを逃がし切るのを確認すると、それ以上の無益な衝突を避け、煙幕に乗じてその場から離脱した。
◇
王宮。
巨大な謁見の間には、豪華な装飾が施されていた。
壁には騎士の紋章。
左右には鎧をまとった騎士たち。
そして、その中央の玉座には一人の男が座っていた。
バルカーン王国国王。エギルの父である。
「ふむ……また反乱軍が騒いでいるか」
「はい。しかし、我が国の騎士団ならば何も問題はございません」
臣下が深々と頭を下げる。
「さすがは我らが王。偉大なる騎士王でございます」
別の臣下も続く。
「父上ほど偉大な王は、この大陸のどこを探してもおりますまい」
兄の一人が胸を張る。
「我がバルカーン王国の騎士に、他国の助けなど必要ありません」
もう一人の兄も頷いた。
王は満足げに笑う。
「うむ。それでこそバルカーンだ」
その場にいる誰も、王の言葉を否定しない。
国が荒れていることも、貧困が広がっていることも、反乱が起きていることも。誰一人として口にしない。
ただ、王を褒め称える。
「我が国は盤石です」
「陛下の統治に間違いなどありません」
「バルカーンは他国よりも優れた国です」
その中で、少し外れた場所で、エギルだけが押し黙っていた。
「…………」
エギルは父と兄たちを見つめ、拳を強く握る。
兄の一人が口を開いた。
「やはり王族たる者、誰よりも高貴であらねばなりません」
「その通りです」
別の兄が頷く。
「平民に媚びるなど、王族のすることではありません」
「うむ」
国王も頷いた。
「王族とは、常に上に立つ者なのだ」
エギルの眉がわずかに動く。
「騎士たる者、誇りを失ってはならぬ」
国王が言う。
その言葉だけなら、立派なものだった。
「他者に頭を下げるなど、騎士の恥だ」
「…………」
エギルは黙ったまま、父を見つめていた。
「何かあったか、エギル?」
「……いや」
エギルは視線を逸らした。
その時だった。
「陛下。一つ、ご報告が……」
「何だ」
「同盟国から、また書状が届いております」
国王の表情が曇る。
「……またか」
「以前にも使者を寄越し、支援を申し出てきた国です。今回は国を挙げて支援を行いたいとのことですが……」
「必要ない。即刻突き返せ」
即答だった。
王は玉座から立ち上がる。
「我が国を何だと思っている?騎士の王国、バルカーンだぞ!他国の助けを借りねばならぬほど、我らは落ちぶれておらん」
「その通りです、父上!」
「我らが誇りを他国に売る必要などありません!」
兄たちがすぐに追従する。
「さすが陛下!」
「なんと誇り高きお方だ!」
王は満足げに笑った。
「そうだろう、そうだろう」
しかし、その時、一人の臣下が慎重に口を開いた。
「ですが……その国も以前は大変な状況にあったと聞き及んでおります。それを乗り越えた今、同盟の誼として誠心誠意――」
王の表情がわずかに変わる。
「……過ぎたことだ。余所の国の事情など、知ったことではない」
王は吐き捨てるように言った。
その言葉を聞いたエギルの表情が曇る。
「…………」
だが、何も言わなかった。
◇
王宮から離れたスラム。
レイクたちは情報を集めるため、住民たちに話を聞いていた。
だが、ここでも住民たちの目は冷たかった。
「余所者だな」
「さっさと消えな」
「あんたらに話すことなんかねぇよ」
「おいおい、別に敵じゃねぇって!」
レイクが声を上げる。
ミリアも頭を下げた。
「私たちはエギルさんを探しているんです」
「王族の知り合いだと?」
住民の警戒がさらに強くなる。
「ふざけるな! 王の走狗が、何の用だ!」
「……逆効果だったか」
ゼノンが悔し気な呟いた。
その時、壁の陰に座り込んでいた老人が、ぽつりと呟いた。
「……そういや最近、城の人間らしい奴がこの辺をうろついてるな」
「え?本当か!?」
レイクが振り返る。
「ああ。何度か見た」
老人は肩をすくめる。
「身なりこそ隠しちゃいるが、あの歩き方と佇まいはどう見ても城の人間だ」
「なんだって?こんな掃き溜めに王族が一人で来るなんて、普通じゃねぇよ」
ゼノンが老人に尋ねる。
「そいつはここでなにしてんだ?」
「そこまでは知らねぇ」
老人は吐き捨てるように呟いた。
「バルカーン王国の王族がここに……」
リゼットは口元に手を当て考える。
レイクの瞳が鋭く光った。
「……あいつだ」
老人に教えられた路地の先。
崩れかけた教会の裏手に身を隠すように一人の男がいた。
「エギル!」
レイクが駆け寄る。
エギルは一瞬、目を見開いた。
「……お前たち、なぜここにいる?」
「お前を探しに来たんだよ!」
「…………」
エギルは唇を噛んだ。
そして、表情を氷のように冷たく引き締めた。
「……平民が、気安く声をかけるな」
「……あ?」
レイクが眉をひそめる。
エギルは冷たい目を向けた。
「大方、貴様らのような汚い生まれのものには、この国は煌びやかに見え、さぞはしゃいでいるのだろう……目障りなダニ共め」
「エギルさん……?」
ミリアが悲しそうに呟く。
「帰れ」
エギルは言い切った。
「これはバルカーン王国の問題だ。貴様らが関わることではない」
レイクはエギルを見つめる。
「……お前、何言ってんだよ」
「帰れと言っている」
エギルは視線を逸らす。
「…………」
ゼノンは黙ってエギルを見ていた。
リゼットも何か言いたげな表情を浮かべる。
「エギル……」
「……二度と、おれの前に姿を現すな」
それだけを残し、エギルは背を向け、路地の奥へ消えていく。
ミリアがエギルの消えた方を見つめる。
「……エギルさん、何か隠してる」
「間違いないな」
ゼノンが答える。
リゼットも頷く。
「あの態度……本心とは思えません」
レイクは拳を握った。
「……あいつ、一人で何かやってやがる」
そして顔を上げる。
「だったら、なおさら帰れねぇだろ」
四人はスラムのさらに奥へと歩き出そうとした、その時だった。
「……あれ?」
ミリアが足を止めた。
レイクも振り返る。
「どうした?」
ミリアの視線の先に一人の少女がいた。
雪のように白い肌。
見間違えるはずがない。
「……セレナ?」
ミリアが呟く。
少女が振り返る。
「……え?」
そして、その目が大きく見開かれた。
「ミリア!?」
「え!?セレナ!!」
レイクが驚きの声を上げる。
「お姫様がなんでこんなとこに!?」
「レイク様……!」
セレナは驚いたまま、今度はミリアを見る。
「ミリア!」
「セレナ!」
駆け寄って手を取り合う二人を前に、レイクは呆然と口を開けて立ち尽くすしかなかった。




