背負った帰郷
本話から「虚飾の騎士王国編」スタートです。
エギルの故郷で何が起きているのか、なぜエギルが当初あのような差別主義な性格なのか、なんとなくわかる編です。
男同士の友情、魔族の企み、レイクに起こる変化……などなど、お楽しみいただけますと幸いです!
王立騎士学園、学園長室。
重厚な調度品に囲まれた静寂の中、エギルは背筋を正し、学園長と向かい合っていた。
「……故郷、バルカーン王国へ戻る許可をいただきたく、お願いに参りました」
学園長は、静かにエギルを見つめた。
「故郷で、何か起きているのか?」
「はい。先日、任務の際に我が国に立ち寄りました。同盟国で起きていた異変だけでなく、国全体に不穏な動きがありました。」
エギルは学園長へ真っ直ぐな視線を向ける。
「これ以上看過することはできません。王族に連なる者として、この手で決着をつけるべき問題です」
学園長はしばらくエギルを見つめていた。
「仲間たちには話したのかね?」
「……いいえ。これは、おれの国の問題です。あいつらまで危険な目に遭わせるわけにはいきません」
学園長は黙ってエギルを見つめ、小さく息を吐いた。
「……わかった。ただし、無茶だけはするな」
「ありがとうございます」
エギルは深く頭を下げる。
「では、失礼します」
「おっと、一つ伝え忘れたことがあった」
学園長室を後にしようとするエギルを学園長が呼び止めた。
「エギルよ。たまには横を向いてみなさい」
「……?心に留めておきます」
エギルはそう言うと学園長室を後にした。
その足取りに迷いはなかった。
自分の故郷は、自分の手で確かめる。
ただ、それだけを胸に刻みながら。
◇
数日後。
エギルの姿は、未だ学園から消えたままだった。
レイクたちは、その間に何度もラルクへ尋ねていた。
だが、ラルクは何も話そうとはしなかった。
そして今日もまた。
「なぁ先生!いい加減教えてくれよ!」
レイクが声を上げる。
ラルクは黙ったまま、レイクを見るだけだった。
「何日も聞いてんのに、ずっと黙ったままじゃねーか!」
レイクが苛立ったように声を荒げる。
隣にいたミリアも、不安そうな表情でラルクを見る。
「エギルさん……本当に、どうしたんですか?」
ゼノンも腕を組んだまま口を開く。
「先生。そろそろ話してくれてもいいんじゃねぇのか」
リゼットも続ける。
「あの様子では、何か事情があるはずです」
「……」
ラルクは四人を見渡す。
しばらく沈黙が続いた。
「……分かった。話そう」
「!」
レイクたちの表情が変わる。
「エギルは、バルカーン王国へ戻った」
「……は?」
レイクが目を丸くする。
ミリアも驚いた。
「バルカーン王国へ……?」
「ああ」
ラルクは淡々と答える。
「お前たちには何も言わずに行った」
「……」
レイクは俯く。
エギルに自分がかけた言葉。
『なんかあったら言えよ。友達だろ?』
レイクは拳を握る。
(……あいつ、何も言わずに行きやがったのか)
ミリアも心配そうに呟く。
「どうして……何も言わずに……」
ラルクが静かに口を開く。
「バルカーン王国周辺で、闇の魔道具が確認されたからだろう」
「……!」
レイクの脳裏に、数日前の出来事が蘇った。
学園長室から出た後にレイクはエギルに尋ねた。
――「この前言ってた、お前が国に帰ってた事情って……魔道具と関係あんのか?」
そしてエギルは、
――「……まぁな」
そう答えていた。
ミリアが小さく呟く。
「エギルさん……」
レイクは俯いていた。
「……あいつ、一人で行ったんだな」
ラルクは俯くレイクを見つめ答えた。
「……あぁ。あいつの気持ちを尊重しこれまでお前達には伝えずにいた。巻き込みたくなかったんだろう」
「……そうか。ありがとう先生」
レイク達はやりきれぬ思いを抱え、その場を後にした。
リゼットが口を開く。
「エギルのやつ、まさか何も言わずに行くとは」
ゼノンがレイクへ尋ねる。
「どうする?あいつなりにおれ達を気遣っての行動だと思うが……」
レイクは足を止めた。
その目に、強い意志が宿る。
「決まってんだろ。おれたちも行こうぜ」
ミリアが頷く。
「うん……エギルさんを放っておけないよ」
「当然だな」
ゼノンも頷く。
リゼットも迷いなく答える。
「私も同行します」
レイクは拳を握った。
「決まりだ!」
ゼノンが口元に手を当て呟く。
「問題は、学園の許可だな。許可を待ってる間に、何か起きる可能性もある」
レイクはニヤリと笑った。
「決まってんだろ!夜になったら抜け出して行こうぜ」
レイクの無茶な提案に、三人は小さく頷き合った。
◇
その日の夜。
消灯時間が近づく中、寮の一室にレイク、ミリア、ゼノン、リゼットの四人が集まっていた。
机の上には地図が広げられている。
「バルカーン王国までは、この道を通るのが早そうだな」
ゼノンが地図を指差す。
「でも、正門から出るのはまずいよね」
ミリアが心配そうに言う。
「見張りがいるでしょうね」
リゼットが頷く。
「なら、裏から抜ければいい!」
レイクが即答する。
レイクは地図を覗き込みながら続ける。
「バルカーンに着いたら、まずエギルを探す。それから国で何が起きてるのか調べる。闇の魔道具についてもな」
「うん!それが一番だと思う」
ミリアが頷いた。
「よし。決まりだな!」
レイクが立ち上がった、その時だった。
――コンコン。
「……?」
静かなノック音が響き、音もなく扉が開いた。
「……っ!?」
四人の身体が完全に凍りつく。
「……先生!」
そこに立っていたのは、ラルクだった。
「消灯時間ギリギリだぞ。集まって何してる?」
「えーと……これは……」
ミリアが慌てて言い訳しようとする。
しかし、ラルクは小さくため息をついた。
「大方、抜け出してバルカーン王国へ行こうってとこだろ。お前らならそうなると思ってた」
「……!」
四人が固まる。
レイクは腹を括り、ラルクの前に踏み出した。
「なぁ、先生!頼むよ!あいつは大事な友達なんだ!」
ミリアも続く。
「私も……エギルさんが心配なんです」
ゼノンも真剣な表情で言った。
「おれたちを行かせてください」
リゼットも頭を下げる。
「お願いします」
ラルクは静かに四人を見る。
「……まぁ、最後まで聞け」
「?」
四人が顔を上げる。
ラルクは淡々と続けた。
「バルカーン王国での異変と闇の魔道具。そして、学園に通う生徒の国だ」
ラルクは腕を組み背中を壁に預ける。
「学園としても無視はできん。どちらにせよ調査に行かなければいけない事態だ」
「てことは……」
レイクが呟く。
ラルクは頷く。
「ただ、今すぐに…とはいかないのも事実だ」
「……」
レイク達が黙る。
「だが、お前らはすぐにでも行きたいだろう」
ラルクは四人へ視線を向ける。
「なら先に行って調査してこい。先導隊としてな」
「……!?」
四人の目が見開かれる。
「おれは後から行く」
ラルクは続ける。
「レイク、ミリア、ゼノン、リゼット。任務だ」
空気が変わった。
「バルカーン王国へ赴き、闇の魔道具の流通経路、および国内の異変を調査しろ」
「……!」
レイクの顔に、笑みが浮かぶ。
「おう!」
ミリアも頷く。
「はい!」
ゼノンが口元を緩める。
「わかりました」
リゼットも胸に手を当てた。
「承知しました」
ラルクは四人を見渡す。
「ただし無茶はするな。エギルも含め、お前らの命を最優先にしろ」
「わかってる!」
レイクは強く頷いた。
◇
翌朝。
朝日に照らされる学園の裏門に、旅支度を整えた四人の姿があった。
それぞれがホウキに跨り、互いに顔を見合わせる。
「行くぞ、みんな!」
レイクが空を見上げ、ニッと笑って叫んだ。
「待ってろよ、エギル!!」
四本のホウキが地を蹴り、騎士の国バルカーン王国を目指して一気に飛び立っていった。




