笛吹き男
笛吹き男編の開幕です!
初の獣人の登場となる編です。
レイク達がどのように関わっていくのか……
お楽しみいただけると幸いです!
翌朝。
レイク達は、ゼノンの調査に同行し、妙な魔力反応の正体を探るため、村の外れにある森を歩いていた。
「……ん?」
レイクが足を止め周囲を見回す。
静かな森。木々の間から、冷たい風が吹き抜けていく。
「……囲まれちまったな」
「……みたいだな」
ゼノンが小さく呟いた。
「複数いるな」
エギルが周囲を警戒する。
その瞬間。
ガサッ!
木々の間や茂みから、数人の影が音もなく舞い降りた。
「……!」
五人が一斉に身構える。
「……うおっ!」
レイクが目を見開く。
そこにいたのは獣の耳や尻尾を持った者たちだった。
「獣人……?」
ミリアが呟く。
レイクは目を輝かせる。
「すげぇ!!」
「レイクくん!?」
「本当に獣人っているんだな!」
レイクは興味津々に獣人たちへ近づく。
「耳も尻尾も本物だ!」
「貴様、さっきまでの警戒はどこにいった」
エギルが呆れる。
「だって初めて見たんだぞ!」
しかし、獣人たちは険しい表情を浮かべていた。
一人の獣人が低く呟く。
「……人間か。ここから立ち去れ」
レイクが手を上げる。
「いや、おれたちは別に怪しいもんじゃ――」
「人間を信用すると思うか!!」
獣人が地面を蹴った。
ドンッ!!
凄まじい脚力だった。
風を置き去りにするような猛スピードで木々の幹を三角跳びのように蹴り渡り、上下左右から立体的に襲いかかってくる。
「うおっ!?」
凄まじい速度でレイクへ迫る。
鋭い爪が振り下ろされた。
ガキィン!!
レイクが腕で受け止める。
「……速ぇ!」
獣人がさらに跳躍する。
木の幹を蹴り、空中で身体を翻す。
「すげぇ身体能力だな!」
「感心している場合か!」
リゼットがワイヤーを放つ。
シュッ!
獣人の腕に絡みつく。
「ぐっ!」
そのまま引き寄せる。
「せいっ!」
リゼットが地面へ叩きつける。
「なっ……!」
別の獣人が飛び掛かる。
ギィン!
エギルの剣が爪を受け止めた。
「動きは速い。だが、おれたちには届かん」
エギルが剣を払う。
「ぐあっ!」
獣人が吹き飛ぶ。
ミリアも杖を構える。
「『氷弾』!」
ドドドドドッ!!
氷の弾丸が地面を穿ち、獣人たちの動きを封じる。
「くっ……!」
最後の一人がレイクへ突っ込む。
ガシッ
レイクは最後の一人の拳を片手で止める。
「ぐっ……!」
ギチッ
獣人はレイクの手を引き剥がそうとするが、動かない。
レイクが呟く。
「……やっぱすげぇな、お前ら」
レイクの表情には驚きが残っていた。
「人間のくせに……これほどの力を……」
獣人たちが警戒を強める。
その時。
「待たれよ!!」
森の奥から声が響いた。
獣人たちが振り返る。
「村長!」
一人の年老いた獣人が歩いてくる。
レイクたちの服を見ると、目を見開いた。
「その服……もしや、騎士学園の方々ですな?」
ゼノンが答える。
「ああ」
「やはり……!」
老人が頭を下げる。
「此度の魔力調査を依頼したのは、村長であるこのわしじゃ」
レイクが目を丸くする。
「えっ、あんたが?」
「はい」
村長が獣人たちを見る。
「彼らは村を守ろうとしただけなのです。どうか、お許しくだされ。ほれお前らも武器を下せ」
獣人たちは武器を下ろす。
「……村長が言うなら」
「おれたちも武器を収めよう」
レイク達は獣人の住む村へ案内された。
◇
レイクたちは村長に案内され、獣人たちの村へ入った。
村の中でも、獣人たちはレイクたちを警戒し明らかな不信感があった。
「……獣人の方々は、人間をあまり信用していないようですね」
リゼットが尋ねる。
村長は少し黙ってから答えた。
「……無理もありません。我々獣人は、昔から人間に恐れられ、利用されてきました」
獣人達が黙っている。
村長の声が低くなる。
「特に我々の身体能力を目当てにする者も多く、奴隷として売られる者も少なくありません」
「……奴隷」
ミリアが表情を曇らせる。
「そんなことが……」
リゼットも黙って獣人たちを見る。
レイクが村の様子を見回すと子供たちが走り回っている。
「なあ」
レイクが近くの獣人へ声を掛ける。
「みんな元気そうじゃん」
獣人は少し驚いたようにレイクを見る。
「ああ……」
しかし、その表情はすぐに曇った。
「……だが、最近はそうでもない」
「どういうことだ?」
レイクが尋ねる。
「仲間が……いなくなっている」
「いなくなってる?」
ミリアも顔を上げる。
獣人が答える。
「特に子供たちだ」
レイクの表情が変わる。
「何があったんだ?」
獣人は拳を握った。
「……笛だ」
「笛?」
レイクが反応する。
「最近、夜になると笛の音が聞こえる」
獣人は苦しそうに続ける。
「そして、笛が鳴ると……子供がいなくなる。最近では、大人達もな」
レイクとミリアが顔を見合わせる。
「……昨日の笛」
ゼノンが静かに呟く。
エギルも頷いた。
「やはり、やつか」
エギルが呟くと、若者は突っぱねるように顔を背けた。
「だが、人間族のお前らには関係のない話だ!魔力調査とやらが終わったらさっさと出ていってくれ!」
「関係ないわけねぇだろ」
レイクが迷いのない瞳でまっすぐに若者を見つめた。
「あんたらの仲間がいなくなって困ってんだろ?そんなの放っておけるかよ」
「……っ!?」
打算も偏見もない言葉に、獣人の若者は虚を突かれたように目を見張った。
「し、しかし……」
ミリアはそんなレイクを見て微笑み、獣人達へ語りかける。
「私達が力になれることがあるかもしれません」
リゼットも頷く。
ゼノンが続く。
「この村の異変と妙な魔力……繋がってるとしか思えないしな」
レイクがニッと笑いながら言う。
「だな!なぁ、村長の爺ちゃん。おれ達、ここにしばらく泊まっていいか?」
村長はにこやかに答える。
「あぁ。構わん」
獣人達は村長の判断に動揺する。
「村長いいのですか?人間族ですよ」
「元よりこちらの依頼で来ていただいたのだ。無礼があってはならん」
「し、しかし……」
エギルが腕を組みながら獣人達へ視線を向ける。
「完全に信用しなくてもいい。おれ達を見張ってもらっても構わない」
レイクはニッと笑った。
「つーことで、おれらも協力するぜ!」
◇
その夜、村は静まり返っていた。
レイクたちは宿で休んでいた。
その時。
ピィィィィィ……
「……!」
レイクが目を開く。
聞き覚えのある笛の音。
「この音……!」
ゼノンも起き上がる。
「外だ」
五人はすぐに宿を飛び出した。
笛の音を頼りに、森へ向かう。
「……!」
レイクが足を止める。
昼間あれほど獰猛で強靭だった獣人たちが、何人も一列になって森の中を歩いていた。
昼間に戦ったあの若者の姿もある。
「おい……」
レイクが目を疑う。
獣人たちは、誰一人として抵抗せず目は虚ろ。
ただ、笛の音に導かれるように歩いている。
「……あんなに強かったのに」
ミリアが息を呑む。
エギルも険しい表情を浮かべる。
「あれほどの身体能力を持つ者たちが……」
ゼノンが笛吹き男を見る。
「……魔力干渉か」
レイクが拳を握る。
「昨日のあいつだ……!」
先頭には、昨日村で見た笛吹き男がいた。
ピィィィィィ……
その音に導かれ、獣人たちは森の奥へ進んでいく。
「追うぞ」
五人は距離を取って後を追った。
森の奥に進むと古く巨大な建物が現れた。
「……なんだ、ここ」
レイクが物陰から覗くと建物の周囲には見張りがいた。
笛吹き男と獣人達は建物の中へと入っていく。
リゼットが建物の近くの物陰を指差す。
「あそこなら中が見えそうだ」
五人は物陰へ辿り着くと建物の中へ目を凝らす。
カチャッ。
金属音が響いた。
「……!」
ミリアが息を呑む。
鉄格子の向こうには、首輪をつけられた獣人たちが囚われていた。
大人だけではなく子供の獣人までいる。
「そんな……」
リゼットが口元を押さえる。
エギルの表情が険しくなる。
「……奴隷商か」
建物の中から声が聞こえる。
「へっへっへ、今夜も上玉が揃ったな」
笛吹き男から獣人たちを受け取った男たちは、下卑た笑い声を上げていた。
「獣人は身体能力が高いからな!人間より桁違いに高く売れるぜ!」
「これで、またボロ儲けだな」
レイクの拳が震える。
「……ふざけんな」
昼間、あれほど強かった獣人達が今は檻の中にいる。
レイクは檻の中で震え、涙を流す幼い獣人の子供たちを見つめる。
「……助けるぞ」
その言葉に、ミリア、リゼット、エギル、ゼノンが頷いた。
その先で笛吹き男が、こちらへ見ていた。
ピィィィィィ……
夜の森に、笛の音が響いた。




