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王子の覚悟

 地下神殿。


「人間族同士――おれらが懲らしめてやる!」


 エギルとゼノンが並び立つ。


 その前には、ジークが召喚した二体の魔物。


「グオオオオオッ!!」


 二体が同時に飛びかかる。


「来るぞ!」


 ゼノンが手を前へ突き出した。


「『暴風神の領域(テンペスト・ゾーン)』!!」


 ゴォォォォォォッ!!


 瞬間、神殿内に凄まじい暴風が巻き起こった。


「グオオオオオッ!?」


 魔物の身体が風に切り刻まれる。


「今だ、エギル!」


「ああ!」


 エギルが剣を構える。


 白い魔力が刀身へ集まり、眩い光を放つ。


「『聖煌一閃(せいこういっせん)』!!」


 ズバァァァァン!!


 煌めく斬撃が走り、魔物の身体を大きく弾き飛ばした。


「グ……グオオ……」


 魔物は地面に転がり力尽きたような様子だった。


 だが、ジークはその光景を見て笑っていた。


「へへ……」


「何がおかしい?」


 エギルが睨む。


「いやぁ、さすがに魔物じゃ足りねぇみてぇだな」


 ジークが懐へ手を入れる。


「だったら――」


 取り出したのは、黒い魔力を放つ大量の黒豆。


「奥の手を使うしかねぇ」


 エギルの表情が変わる。


「それは……!」


「マルフィアって魔女に言われたんだよ」


 ジークが黒豆を見つめる。


「もしもの時は、全部使えってな」


「やめろ!」


 ゼノンが叫ぶ。


 しかし、ジークは笑った。


「もう遅ぇよ」


 ジークは大量の黒豆を一気に口へ放り込んだ。


「うおおおおおおおおおおおっ!!」


 ドドドドドドドドドッ!!


「ぐ……おおおおおっ!!」


 凄まじい黒い魔力がジークの全身を駆け巡り、神殿の床がひび割れていく。


「な、なんて魔力だ……!」


 バルドルが後ずさる。


 ジークは苦しそうに顔を歪めながらも、やがて笑みを浮かべた。


「これだ……!」


 そして、倒れていた二体の魔物へ手を伸ばす。


「お前らも、俺の力になれ!」


 黒い魔力が魔物たちを包み込む。


「グオオオオオオッ!!」


 二体の魔物が咆哮を上げる。


 その身体が黒い光へと変わっていく。


「まさか……!」


 エギルが身構える。


「食いやがった……!」


 ゼノンが叫ぶ。


 黒い光が、次々とジークの身体へ吸い込まれていく。


「うおおおおおおおおおおおっ!!」


 神殿全体が激しく揺れる。


 ジークがゆっくりと顔を上げた。


 その身体には、先ほどまでとは比べ物にならないほどの黒い魔力が渦巻いている。


「……へへ」


 ジークが拳を握る。


「これなら……勝てる」


 エギルとゼノンが構える。


「気を抜くな、ゼノン」


「ああ」


 二人がジークを見据える。


 しかし、その後ろでバルドルは俯いたままだった。


「僕が……僕が神殿の扉を開けたから……」


 震える声。涙が頬を伝う。


「僕が騙されたから……こんなことに……」


 ゼノンがバルドルを見る。


 そして、静かに声をかけた。


「傷心中のとこ悪いんだが、立ち上がって戦ってくんねぇか?」


「……?」


 バルドルが顔を上げる。


「巨人族だろ?お前の力が必要だ」


 ゼノンはバルドルを真っ直ぐ見つめる。


「……でも、僕のせいで……」


「さっさと立て!!!!!!」


 エギルの怒号が響いた。


「……!」


 バルドルの身体がビクッと震えた。


 ゼノンが驚いてエギルを見る。


「……おい、そんな言い方――」


 遮るようにエギルは続ける。


「貴様、この国の王子と聞いたが……何も分かっていないようだな」


 エギルの鋭い視線が、バルドルへ向いていた。


「……!」


「王家の者の責務は、国のため、民のため、その身を焦がすことだ!」


 エギルの声が神殿に響き渡る。


「国民に日々支えてもらい、兵に守ってもらった恩を返す!それが貴様の役目だ!」


 バルドルは黙ってエギルを見る。


「なぜだかわかるか!?」


 エギルが拳を握る。


「貴様が、この国の柱だからだ!!」


「……!」


 バルドルの瞳が揺れる。


「貴様のせいでこうなった?だからなんだ!?」


 エギルが叫ぶ。


「この国に起こる有事は、王子たる貴様が背負え!!」


「それを背負わずして、どうやって国を導く!?」


「背負わずして、どうやって国民が貴様についてくる!?」


 エギルは一歩、バルドルへ近づく。


「同じ王子として言わせてもらおう」


「ここで立たねば、国は倒れる!!」


 バルドルの身体が震える。


「それでもまだ、そこでモタモタするのか!!」


 バルドルは俯き、拳を握り締める。


「……ありがとう」


 涙を拭い、立ち上がる。


「僕が……僕がやらなきゃいけないんだ!この国の王子だから……!」


 ゼノンがエギルを見て、微笑んだ。


「……あいつみてぇな事言うようになったな」


「フン!」


 エギルが鼻を鳴らす。


「やつにこの視座の高い理念はわからん!」


「ははっ」


 ゼノンが笑う。


 バルドルが二人へ向き直った。


「ありがとう!二人とも!」


 そして、深く頭を下げる。


「この国のために力を貸してください!」


 エギルとゼノンが顔を見合わせる。


「おぉ!!」


 三人が並び立った。


「へへ……感動の時間は終わりか?」


 ジークが笑う。


 黒い魔力が再び膨れ上がる。


「まとめて相手してやるよ!!」


 エギルが剣を構える。


 ゼノンが手を掲げる。


 バルドルも拳を握った。


「行きます!」

◇

 一方、神殿へ続く回廊。


 神殿へ向かうミリアとリゼットの前には、シンクとグリムが立ちはだかっていた。


「残念ですが、あなたたちを通すわけにはいきません」


 黒豆の魔力を纏ったシンクが、黒い刃を無数に放ちながらミリアへと肉薄する。


 だが、ミリアの瞳に迷いはなかった。


 「『氷の槍(アイスランス)』!」


 ズドドドドッ!


 放たれた氷槍がシンクの刃をことごとく撃ち落とし、視界を塞ぐ。


 より多くの黒い魔力がシンクの身体を包む。


 ミリアは杖を握る。


「……その黒い魔力、どこで?」


 かつての自分にかかった呪いに近いものを感じる。


「どこだっていいでしょう!」


 また、シンクの周りに先ほどより大きな黒い槍が無数展開される。


「ここで、死ぬんだから!」


 黒い無数の槍がミリアへ迫る。


 ミリアはそっと胸のネックレスに触れる。


――自分のために生きろ。


 ミリアは顔を上げた。 


「……ごめんなさい」


「何?」


「退いてもらいます!!」


 ミリアが杖を構えると、魔力が一気に高まっていく。


 周囲の空気が凍りつき、無数の氷晶が空中に展開された。


「なっ……!?」


 シンクが目を見開く。


「これが……私の力!」


 ミリアが杖を振り下ろす。


「『氷晶天爆(クリスタル・ノヴァ)』!!」


 ドォォォォォン!!


 シンクの黒い槍を跳ね除け無数の氷晶が一斉に炸裂する。


「ぐあああああっ!!」


 黒い魔力の防壁が次々と砕かれ、シンクの身体が爆風によって吹き飛ばされる。


 壁へ叩きつけられ、シンクが倒れた。


 ミリアは息を整えた。


「……ここは通してもらいます」

◇

 一方、リゼットはグリムと対峙していた。


「貴様一人では、私には勝てん!」


 グリムが拳を振り下ろす。


「くっ!」


 リゼットが飛び退く。


 ドゴン!!


 床が砕ける。


「速い……!」


 リゼットは短剣を構え直した。


(力では相手が上。正面からでは押し切られる)


 リゼットの脳裏に、ラルクとの別授業が蘇る。


『相手の力を受け止める必要はない。お前が勝てる場所へ、相手を引きずり込め』


 リゼットはグリムを見る。


「……そういうことか」


 グリムが突っ込んでくる。


「終わりだ!」


 リゼットは動かない。


 拳が迫る。


 直前――。


「そこ!」


 身体を横へ滑らせる。


 グリムの拳が空を切った。


「なっ!?」


 リゼットはグリムの懐へ入り込む。


「あなたの力は、確かに強い」


 短剣を構える。


「だが、当たらなければ意味がない!」


 一閃。


「ぐあっ!」


 グリムがよろめく。


 リゼットは距離を取る。


 そして再び構えた。


「ラルク先生から教わったこと……無駄にはしない!」


 グリムが唸る。


「小娘ぇぇぇ!!」


 再び突進。


 リゼットは冷静にその動きを見極める。


「そこだ!」


 グリムの攻撃をかわし、懐へ入り込む。


「はぁぁぁっ!!」


 ドォン!!


 渾身の一撃。


 グリムが吹き飛ぶ。


「ぐ……!」


 地面へ倒れ込む。


 リゼットは短剣を下ろした。


「……勝った」


 ミリアがリゼットの方へ駆け寄る。


「リゼット!」


「ミリア様!」


 二人が顔を見合わせる。


「行こう!」


「はい!」


 二人は神殿の奥へ駆け出した。

◇

 そして、王宮。


「うおおおおおおっ!!」


 レイクがガルドへ突っ込む。


 巨人族たちも後に続く。


「行けぇ!!」


 左右から巨人族が攻撃する。


 ガルドは黒い魔力を展開する。


「遅い!」


 ガルドが身体を捻る。


 ドゴォン!!


 巨人族が吹き飛ばされる。


「ぐあっ!」


 さらに一人。


「ぬおおっ!」


 ガルドの拳が直撃する。


 巨体が宙へ舞う。


「こいつ……!」


 レイクが拳を握る。


「おおおおおっ!!」


 レイクが拳を振るう。


 ガシッ!!


 ガルドが受け止める。


「……!」


 そのまま腕を捻られる。


「ぐっ!」


 ドゴォン!!


 レイクが地面へ叩きつけられる。


「レイク!」


「大丈夫だ!」


 レイクはすぐに立ち上がる。


 そして、ガルドを睨みつけた。


「……お前」


「何だ?」


「なんでおれには黒い力を使わねぇ?」


 ガルドは答える。


「必要ないからだ」


「……!」


「貴様程度に、あの力を使う必要はない」


 レイクは拳を握り締める。


「……そうかよ」


 再び構える。


「だったら、使わせてやるよ!!」


 レイクの身体から魔力が溢れ始める。


「何度やっても同じだ!」


 ガルドが構える。


 レイクは拳へ魔力を集中させる。


 拳の一点へ魔力を圧縮する。


 さらに練り込む。


 魔力が凝縮され、拳の周囲の空気が震える。


「……!」


 ガルドの表情が初めて変わった。


「その魔力……」


 レイクが地面を踏み込む。


「これで――!」


 ドォォォォン!!


 レイクが一気に踏み込む。


「ぶっ飛ばす!!」


 拳が迫る。


 ガルドが腕を交差させる。


「ぐおおおおおおっ!!」


 ドゴォォォォォン!!


 凄まじい衝撃が王宮を揺らした。


「ぐっ……!」


 ガルドの身体が後退する。


 ズザザザザザ……!!


 地面を削りながら、数メートル。


 巨人族たちが息を呑む。


「ガルドが……後退した……?」


 レイクは荒い息を吐きながら、拳を握った。


「……へっ」


 ガルドがゆっくりと顔を上げる。


 その身体からは黒い魔力が噴き出していた。


 レイクはガルドを見上げ、口元をニヤリと歪ませる。


「必要ないんじゃなかったっけ??」


 ガルドはレイクへ鋭い目を向ける。


「……貴様!」


 ガルドの黒い魔力が、さらに膨れ上がった。

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