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過保護な転校生

いつもご愛読いただきありがとうございます!

本日より新章がスタートします!


ここから世界観が広がりますので、引き続き楽しんでいただければ幸いです!

それでは、新章もよろしくお願いいたします!

 ――魔界。


 陽の光など一切届かない、暗く禍々しい城。


 その最奥。巨大な玉座が置かれた広間に、マルフィアが跪いていた。


「……此度のエストレア王国での失態、申し訳ございません」


 マルフィアが頭を下げる。


「気にするな」


 玉座の者は穏やかに答えた。


「君があの国で生み出した人々の負の感情による闇の魔力は我々にとって十分な糧となった」


「……ありがとうございます」


「それに、今回も彼が関与した」


 王座の者が立ち上がった。


 マルフィアの表情が曇る。


「……あの小僧ですか」


「あぁ。『地獄の轟炎』まで使っていた。やはり彼はおもしろいね」


 微笑みながら、玉座の者はマルフィアの横を通り過ぎ、三魔将の前で立ち止まった。


「三人とも、そう固くならないで。」


 玉座の者はグラドスへ歩み寄った。


「グラドス。また、あの魔法にしてやられてしまったようだね」


 グラドスの身体が僅かに震える。


「……申し訳ございません」


「そう怯えなくていい。みんな生きて帰って来れて何よりだよ」


 玉座の者が彼らの横を通り過ぎる。


 三人が安堵した――その時。


「――君たちに、次はない」


「え――」


パンッ!!


 グラドスが破裂した。


 血が舞い散った。


 グラドスの身体の痕跡は血だけを残し他は跡形もなく消えた。


 ネビュラスもセルグレイブも理解できない。


「……え?」


 二人が呆然とする。


 玉座の者は、何事もなかったかのように歩いている。


「相手は子供だった。隙を見て反撃することも戦い続けることもせず――君たちは逃げ帰ってきた」


 王座の者が振り返る。


「そんなものを、私の側に置いておく必要があると思うかい?」


「ひっ……!」


 ネビュラスが震える。


「お、お待ち――!」


パンッ!!


 ネビュラスも破裂した。


「や、やめ――」


パンッ!!


 セルグレイブも同じだった。


 静寂。


 広間には、飛び散った血飛沫と血溜まりだけが残った。


 マルフィアはただ黙っていた。身体が僅かに震えている。


 玉座の者はそんな彼女へ視線を向けた。


「次は期待しているよ。マルフィア」

◇

 エストレア王国。


 リゼットはガルディオの前に立っていた。


「お願いします!私を鍛え上げてください」


「突然どうした?」


「此度の一件で己の非力さを痛感しました。レイク達を見て、私はもっと強くならねばと」


 リゼットは顔を上げる。


「でなければ、ミリア様をお守りできないと!」


「生憎だが、おれは人に教えるのは得意ではない。己で戦い研鑽を積んできた口だ」


「……そうですか」


 リゼットは少し肩を落とした。


 ガルディオは遠くへ目を向ける。


「だが、一人心当たりのあるやつがいる」


「……え?」

◇

 騎士学園での日常に戻り、レイクとミリアは教室に向かっていた。


 レイクはあくびをしながら言う。


「今日も座学メインか〜。連日頭がパンクしそうだ」


 ミリアが微笑みながらレイクに言う。


「少しずつできるようになろ。今日も頑張ろうね!」


 二人が会話をしながら教室の扉を開けると――


 そこには一人の少女が席に座っていた。


 ミリアが目を丸くする。


「リ、リゼット……?」


 リゼットが勢いよく立ち上がった。


「ミリア様!おはようございます!」


 リゼットはミリアの元へ駆け寄る。


「本日も大変お美しい!昨日はよく眠れましたか?朝食は口に合いましたでしょうか?もし何かあればすぐに――」


「ちょ、ちょっと待って、リゼット!一度に聞きすぎだよ!」


 ミリアが慌てて手を振る。


「も、申し訳ございません!ミリア様がこうしてお元気でいらっしゃることが、私は何より嬉しく……!」


「ふふっ……」


 ミリアは思わず笑った。


「相変わらずだね、リゼット」


「はい!ミリア様のお側に仕える者として、当然です!」


「いや、当然なのか……?」


 レイクが呆れたように呟いた。


 その時。


 ガラッ。


 教室の扉が開いた。


「全員、席につけ」


 ラルクが教室へ入ってくる。


「先生!」


 生徒たちが一斉に席へ戻る。


 ラルクは教壇へ立つと、教室を見渡した。


「今日は一人、新しい生徒を紹介する」


 そして、リゼットへ視線を向ける。


「では、改めて自己紹介を」


「はい!」


 リゼットは教室の前へ歩み出る。


「リゼット・アークライトと申します!」


 凛とした声が響く。


「此度、この騎士学園へ入学することとなりました。立派な騎士となれるよう精進して参ります!」


 リゼットは力強く胸を張った。


 レイクが首を傾げた。


「なんでリゼットがここにいるんだ?」


「それについて説明しよう」


 ラルクが淡々と口を開く。


「ガルディオからの推薦でな。本来なら、実力的には最高クラスでも問題ないんだが」


 ラルクはリゼットを見る。


「学園長室で『ミリア様と別のクラスなど断じて認められません。一歩も動きません』と、かなり頑固にゴネてな」


 リゼットが少し胸を張る。


「当然です!ミリア様のお側を離れるわけにはいきません!」


「そ、そう……」


 ミリアは苦笑する。


「仕方なく、このクラスに合流することになった」


「よろしくお願いします!」


 リゼットが嬉しそうに頭を下げる。


 するとラルクが口を開いた。


「ただし、リゼット。お前だけ別授業だ」


 リゼットの表情が固まった。


「別授業……?」


 ラルクは頷く。


「お前には、お前に合わせた訓練が必要だ」


 リゼットは一瞬ミリアを見る。


「承知しました!」


「よし。着替えてグラウンドに来い」


「はい!ミリア様、行って参ります!」


「うん。頑張ってね、リゼット」


「はい!」


 リゼットはラルクの後を追って教室を出ていった。


 その背中を見送りながら、ミリアは小さく笑う。


「ふふ……」


 レイクは扉を見つめ苦々しい表情を浮かべた。


「……まさか」


 脳裏に最初の地獄の授業が蘇るレイクだった。

◇

 数時間後。


 昼休み。


 レイクとミリア、そしてエギルとゼノンが食卓を囲んでいた。


 エギルが食事しながら言う。


「そうか。リゼットが。だが、学園長室でゴネるとは感心せんな」


 ゼノンが続けて尋ねる。


「で、当のリゼットはどうした?」


 するとーー


 ガラ!


 リゼットが完全に疲れ果てて食堂にやってきた。


 バタン!


 ミリアの隣に座るなり、リゼットは机へ突っ伏し、ぐったりした。


 レイクがそんなリゼットを見て。


「あー……あったな、これ」


 ミリアが心配そうにリゼットに尋ねる。


「リゼット、大丈夫?」


 リゼットは机へ突っ伏したまま答える。


「問題……ありません……」


 明らかに問題しかない。


 ゼノンが不思議そうに尋ねる。


「何だ?どうしたんだ、こいつ」


 レイクが苦笑いしながら言う。


「こいつ別授業でな。この有様だ」


 エギルが察する。


「ラルク先生の訓練か」


 リゼットは顔だけを少し上げた。


「……あの方は……鬼です……」


 レイクが頷く。


「あぁ。入学早々、おれもそう思った」


「レイク!まさかお前も……」


「あぁ」


 リゼットは再び机に突っ伏した。


 ゼノンがリゼットの前に昼食を置く。


「ほら、食え。身体が持たねーぞ」


「すまない……」


 リゼットが食事を口に運ぶ。


「……うっ」

 

 思わず口元を押さえた。


「無理しなくていいよ。私も最初は苦労したから」


 リゼットはミリアを見て、目を丸くする。


「ミリア様も……?」


 ミリアが微笑んだ。


「うん。一緒だね!今は辛いと思うけど、リゼットなら乗り越えられるよ」


「ミリア様……!」


 リゼットの表情が明るくなる。


「はい!頑張ります!」


 リゼットはミリアの言葉で息を吹き返したように食事を取り始めた。


 その時、レイクがミリアを見る。


「そういやミリア」


「なに?」


「最近、よく笑うようになったよな」


「……え!」


 ミリアの頬が、ほんのり赤くなる。


「そ、そうかな?」


 ミリアは頬を赤らめ照れ臭そうに俯く。


 レイクは笑う。


「ああ。前よりずっと楽しそうだ!そっちの方がいいよ」


 ミリアはレイクを見て微笑んだ。


「ありがとう……」


 リゼットが二人をじっと見つめる。


「……レイク」


「ん?」


「ミリア様に、妙なことを吹き込んでいないだろうな?」


「そんなことしてねーよ」


「…………」


「なんだよ、その目は」


「……何でもない」


「絶対なんかあるだろ!」


 ゼノンは首を傾げる。


「お前、レイクに厳しくねーか?」


「そんなことはない!私はミリア様を心配しているだけだ」


 リゼットは即答した。


 エギルが小さく呟いた。


「……なるほどな」


 リゼットがエギルを見る。


「なんだ、エギル?」


「いや、なんでもない」


「……?」


 リゼットは首を傾げる。


 だが、次の瞬間には再びミリアへ向き直った。


「ミリア様、お飲み物が少なくなっています」


「あ、本当だ」


「私がお持ちします」


「え?自分で――」


「お任せください」


 リゼットは立ち上がった。


 レイクが呆れたように呟く。


「……お前、過保護すぎねぇか?」


 リゼットは胸を張る。


「当然だ。ミリア様をお守りする者だからな」


 レイクが苦笑し言う。


「いや、飲み物だぞ……?」


 エギルが額を押さえる。


「……始まったな」


 ミリアは困ったように笑った。


「ふふ……リゼット、ありがとう」


「はい!」


 リゼットは満面の笑みを浮かべた。


 リゼットがちらりとレイクを見る。


「……なんだよ?」


 リゼットはレイクを見て鼻で笑う。


「フン!モテないだろお前」


「喧嘩売ってんのかてめぇ!!」


 こうして、騎士学園にリゼットが入学してきた。

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