白薔薇の笑顔
いばら姫編完結です!!
初の長編でした!
お楽しみいただけたら幸いです!
エストレア王国に、平和が戻った。
マルフィアの支配は終わり、厳しい等級制度も撤廃された。
地下街の人々にも新たな生活が与えられ、国中では連日のように祭りが開かれていた。
その中心にいるのは
「おーー!!なんだこれ!!めちゃくちゃうめぇー!!!」
料理を山のように積み上げ、豪快に食べるレイク。
「汚らしい食い方をするな!何度言えばわかるんだ、貴様は!」
エギルがすかさず注意を飛ばす。
その時。
「すみません」
ゼノンが料理を運んでいるウェイターへ声をかけた。
「これ、酒じゃないですよね?おれら、まだ飲めなくて」
エギルが呆れたように口を開く。
「持ってくるわけがないだろう。貴様、変なところで抜けているな」
三人のやり取りを、ミリアが微笑みながら見つめていた。
すると
「ミリア様ー!」
「遊ぼー!」
子供たちがミリアの元へ駆け寄ってくる。
「はーい!」
ミリアは笑顔で子供たちと遊び始めた。
その姿を見た国民たちも、自然と笑顔になる。
「ミリア王女は本当にお優しい方だ」
「最近じゃ『白薔薇の聖女様』なんて呼ばれてるらしいぞ」
「ぴったりじゃないか」
ゼノンがミリアを見ながら呟く。
「すっかり人気者だな」
レイクが微笑みながら答えた。
「あぁ。国も明るくなったしな」
レイクは夜空を見上げた。
満天の星が、静かに輝いている。
「おれ達がここに来たばかりの国とは大違いだよ。みんなが好きな話できて、好きなように生きれてる」
エギルとゼノンは、そんなレイクの横顔を穏やかに見つめる。
「……いい国だな。ここは」
レイクは満足そうに呟いた。
その時、エギルがふとミリアを見る。
「……時折、やつは悩んでいるようだがな」
ゼノンも頷いた。
「リゼットが言ってたぞ。たまに一人で考え込んでるって」
レイクは黙ってミリアを見る。
「……大体、想像つくけどな」
「尋ねなくていいのか?」
エギルが聞く。
エギルの問いに、レイクは飲み物を口に運ぶ手を一瞬止めた。
「ミリアはこの国の王女様だ。国も大歓迎。大人から子供までみんなに慕われてる」
「『白薔薇の聖女』」
レイクは、子供たちと笑うミリアを見つめた。
「……あいつに、お似合いだよ」
エギルは少し寂しそうに呟く。
「そうか……競いがいのあるやつだったんだがな」
ゼノンも何も言わなかった。
◇
――翌日。
王宮。
ラルクは国王夫妻へ頭を下げていた。
「長らくお世話になりました。我々は本日、ここを発ちます」
「そうか……」
国王が少し寂しそうに頷く。
「ミリアは……なんと?」
「……」
ラルクは一瞬、黙った。
「それは……彼女自身が決めることです」
ラルクは静かに答えた。
「我々が決めることではありません」
王妃は少し寂しそうに微笑む。
「……そうね。どうか、ご武運を」
「ありがとうございます」
◇
同じ頃。
ミリアは自室の窓から、街を眺めていた。
コンコン。
「どうぞ」
扉が開く。
「ミリア様」
リゼットが立っていた。
「国王がお呼びです」
二人は並んで廊下を歩き始める。
しばらく歩いたところで、リゼットが口を開いた。
「あいつら、本日ここを発つそうです」
「……そう」
ミリアの表情が曇る。
リゼットはそれに気づいた。
「……ミリア様」
ミリアは少しだけ目を伏せる。そして、いつもの笑顔を作った。
「ううん。なんでもない」
「……」
リゼットは何も言わずただ、ミリアの横顔を静かに見つめていた。
◇
玉座の間。
その前で、王妃がミリアを待っていた。
「お母様。おはようございます」
「えぇ。おはよう、ミリア」
二人は玉座の間へ入る。
静かな広間を、中央まで歩いていく。
そこで、王妃がミリアの表情を見つめた。
「……本当は、行きたいんじゃないの?」
「……!」
ミリアがハッと顔を上げる。
「……」
そして、俯いた。ミリアは顔を上げ、王妃へ笑顔を向ける。
「いいのです。私は、この国の王女ですから」
「……そう」
王妃は複雑そうな表情を浮かべた。
その時だった。
――バン!!!!
玉座の間の扉が、勢いよく開いた。
「えー!ミリア王女殿下はおられますでしょうかー!」」
明るい声が響く。
ミリアが振り返る。そこには――。
「ニシシッ」
不敵な笑みを浮かべたレイクが立っていた。
「王女殿下を誘拐しに参った!!」
「……!」
ミリアの瞳が潤む。
レイクは得意げに笑った。
「言ったろ?誘拐仕返しに来たって」
王妃がわざとらしく驚く
「まぁ!なんですって!誘拐!大変ですわ!」
「お母様……」
国王も立ち上がる。
「そうはさせぬぞ!」
「お父様……」
さらに――。
「かわいい妹を連れ去られてたまるか!」
「お姉様は渡しません!」
リゼットが剣の柄に手をかける。
「ミリア様は私がお守りする!」
「みんな……」
ミリアが目を丸くする。
そこへガルディオが声を張り上げた。
「兵よ!ミリア様をお守りするのだ!!」
「「「はっ!!」」」
「かかれー!!」
「「「うおおおおお!!」」」
兵たちが一斉にレイクへ迫る。
「ひょい」
レイクが軽く身体を翻す。
「うわぁぁぁぁ!!やられたぁぁぁ!!」
兵たちが次々と、わざとらしく倒れ込んでいく。
ラルクが後ろから呆れた声を飛ばした。
「おい、くだらんことをやってないで、早くしろ。課題増やすぞ」
レイクの顔が引きつる。
「げっ!やべっ!」
その背後には、エギルとゼノンも立っていた。
レイクはミリアへ向き直る。
「ってわけだ!ミリア!」
手を差し出す。
「一緒に来てもらうぞ!」
ミリアはその手を見つめ、微笑んで俯いた。そして、悪戯っぽく笑って言い放つ。
「へっへーーん!そんなに簡単に連れ去られるものですか!」
全員がキョトンとした。レイクがニヤリと笑う
「なにを!上等だ!力づくで連れ去ってやる!」
「やれるものなら、やってみなさい!あなた達なんかに、簡単に捕まりません!」
「……」
エギルが頭を抱える。
「なんなんだ……この茶番は……」
ゼノンはそんな二人を見て、穏やかに笑った。
「たまにはいいだろ。見てみろ」
ミリアは満面の笑みでレイクと言い合っている。
「……楽しそうだ」
エギルもミリアを見る。
「……仕方ないな」
小さく笑った。
みんなの顔に笑みがこぼれる。
「そんじゃ!!いくぞ!」
レイクが身を乗り出した!
ビュン!!!!
「えっ!?」
ガバッ!!
次の瞬間レイクはミリアを軽々と抱き上げていた。
「……え!?」
お姫様抱っこ。
「おぉ!」
周囲の兵たちから思わず声が上がる。
「え……ちょ......!」
ミリアの顔が、一瞬で真っ赤になった。
レイクは得意げに笑う。
「ミリア王女は貰い受けた!行くぞお前ら!」
レイクがダッシュで駆け出す!
「レイクくん!」
王妃の声。
キキーッ!
レイクが急停止する。
「はい!?」
王妃がクスッと笑った。
「レイクくんだったら、いつ家に来てもいいからね」
「……え?」
国王が慌てて立ち上がり言う。
「な!?なにを勝手に!」
ゼノンがエギルへ尋ねる。
「なんだ?あいつら、まだできてなかったのか?」
「知らん」
エギルは腕を組んで即答した。
ミリアは顔を真っ赤にして、両手を左右に振った。
「な……何言ってるの!?お母様!!」
だが、レイクはキョトンとしている。
「あー……」
そして、あっけらかんと答えた。
「なんかよく分かんねぇけど。近く通ったら、また遊び来るわ!」
「…………」
全員が固まった。
ゼノンは楽しそうに笑った。
「あいつらしいな」
エギルは額を押さえる。
「鈍感にも限度があるぞ……」
「フフフ……」
王妃は嬉しそうに笑った。
ミリアもそんなレイクの呆れるほどのまっすぐさを見て、思わず微笑んだ。
「そんじゃ!逃げるぞ!!」
レイクが再び走り出す。
ミリアを抱えたまま、廊下を駆け抜ける。
エギルとゼノンもそれに続いた。
玉座の間に残ったラルクが、国王と王妃へ頭を下げた。
「すみません。本人が学園に残りたいという以上、我々から退学を認めるわけにはいきません」
国王と王妃は温かく微笑んだ。
「娘をよろしくお願いします」
「はい」
ラルクは小さく頷いた。
「追えーーー!!!」
ガルディオが叫ぶ。
「「「おおおおお!!!」」」
兵たちが一斉に走り出す。
「おっ!そうだ!」
レイクが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
バッ!!
窓を開ける。
「え?」
ミリアが目を丸くする。
「まさか――」
レイクは窓から――。
ぴょん!!
ミリアを抱えたまま飛び降りた。
「「「えええええええええ!?」」」
エギルの顔が引きつる。
「なにをやっているんだ、あいつは!!」
ゼノンは笑った。
「続こう」
ビュン!!
二人も窓から飛び降りる。
ブワァァァ……!!
風が身体を包む。
レイクとミリアが空中を落ちていく。
その横を、エギルとゼノンが追いかける。
「なぜ、お前はそう無茶苦茶なんだ!!」
エギルが叫ぶ。
レイクは笑いながら答えた。
「だって、こっちの方が誘拐っぽいだろ?」
ドォン!!
三人は無事に地面へ着地すると、そのまま門へ向かって走り出す。
すると――。
「ミリア様が誘拐されたぞー!」
「門まで追えー!!」
「ミリアお姉ちゃーん!」
国民たちが次々と駆けてくる。
だが、その表情は怒りではなかった。
誰もが笑って、送り出すように、声を上げている。
「おいおい!国民まで来たぞ!」
エギルが笑う。
「白薔薇の聖女様だからな」
ゼノンも後ろを振り返る。
「いばら姫が、ずいぶん人気者になったな」
レイクは腕の中のミリアを見る。
「ミリア」
「ん?」
「お前の国、いい国だな!」
ミリアは満面の笑みを浮かべた。
「うん!!」
その笑顔を見て、レイクも笑った。
しばらく走ったところで、ミリアは少し顔を赤らめて口を開く
「……あの……それで……レイクくん」
「?」
「そろそろ……」
ミリアは自分がまだお姫様抱っこされていることに照れていた。
「……あ、悪ぃ」
レイクがミリアを下ろそうとする。
その時、ミリアの脳裏に、ルベルの言葉が蘇った。
『待ってるだけでは、手に入りませんよ』
「……」
ミリアは勇気を振り絞った。
ギュッ。
ミリアがレイクの首にギュッと抱きついた。
レイクが首を傾げる。
「ん?どうした?」
「……」
心臓が、激しく鳴っている。今にも胸から飛び出してしまいそうだった。
「そ……その……」
声が震えてうまく言葉が出ない。
「うん?」
ミリアは顔を真っ赤にしながら続けた。
「あ……足が……痛むから……もう少し……」
レイクは首を傾げたが特に気に留めなかった。
「そっか!」
そのままミリアを抱えて走り続ける。
「……」
エギルとゼノンは、そんな二人を後ろから微笑み見ていた。
その時、レイクがミリアへ何気なく尋ねた。
「てか、ミリア」
「なに?」
「ドレスだからか?なんか前より重い気するぞ?」
「……(ピキッ)」
エギルの顔も歪む。
「なんてデリカシーのないやつだ……」
ミリアが低い声で言う。
「やっぱり下ろして!!」
レイクが驚く。
「え!?どっちだよ?足、痛いんじゃねーの?」
「もう治ったの!」
「……はぁ?」
ゼノンが吹き出す。
「プッ!」
「ゼノンさん!!なんで笑ってるの!?」
「あ、悪ぃ」
ゼノンは笑いを堪えながら謝った。
門の向こうへ進んでいくレイクたち。
その背中を、エストレア王国の人々が見送る。
誰もが、心の中で同じ言葉を呟いていた。
――ありがとう。
その言葉を背に、レイクたちはエストレア王国を後にした。
エピローグであいつが仲間に……?




