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訪問

15歳になったレイクは、ボロボロの荷物を背負い、生まれ育ったトレース村の境界線に立っていた。


 メドロードと交わした「夕暮れの誓い」を果たすため。


 独立して、まだ見ぬ世界のすべてを知るために。

「待ってろよ、メドロード……!」


 レイクは村人に笑顔で手を振ると、師から授かった地図を頼りに、北西へと向かって歩き出した。


 目指すのは、メドロードが言っていた「マーリンという爺さん」の家だ。

(メドロードに教わった『物体浮遊』……この10年間、片時も休まず鍛え続けてきたんだ。少しは成長できたかな)


 レイクの手のひらの上では、拳大の小石がゆらゆらと宙に浮いていた。


 5歳の時に教わって以来、食事中も、作業中も、寝ている時でさえ体内の魔力を流し続け、10年間浮かせ続けてきた彼の相棒だ。


 レイクは小石をポケットに放り込むと、老人の家があるという山道へと足を踏み入れた。

◇


「おい、ありゃあ間違いない……! 10年前、俺たちのお頭をハッタリと急所攻撃でぶちのめしたあのクソガキだ!」

「15歳になったか……! あの時の借りを返す絶好のチャンスじゃねえか!」


 山道の物陰から、レイクの背中をギラギラとした目で見つめる男たちがいた。


 かつてレイクに最重要拠点を壊滅させられ、逃げ出した山賊の生き残りたちだ。

「だが待て、普通に襲っちゃ面白くねえ。あのガキ、メドロードの探してるマーリンの爺さんの家に向かってやがるな?」

「へへっ、裏道から先回りして爺さんを縛り上げ、俺たちが爺さんに化けてハメてやろうぜ!」


 相変わらず悪知恵だけは働く山賊たちは、裏道をダッシュして先回りした。

◇


 山道を進むレイクの前に、倒木を前に「ヒィヒィ」と腰を押さえているお爺さん(に変装した山賊)が現れた。

「ひーひー、腰が痛くて道が通れんわい……」

「?おい、爺さん!大丈夫か??」


 レイクは迷わず駆け寄り、巨大な倒木を魔法でひょいと持ち上げると、脇へどけてしまった。

「おれ、メドロードの紹介で、マーリンっていう爺さんを探してるんだ!」

「おお、メドロードとな! わしがそのマーリンじゃよ! いやあ助かった、お礼に喉が渇いたじゃろ? この特製毒水……じゃなかった、湧き水を飲むがよい!」

「え! そうなの!!でもそれなら魔法でなんとかできるんじゃね? 爺さん!なんか魔法使ってよ!!」

「え、あ、えーと魔法な。よしよし見とけ! はぁーーー!!!」


 マーリンに化けた山賊が両手を前に広げる。


「……」

「あー、おもしろいおもしろい。また今度ね大道芸人さん」

「おい、待てこのガキ!!」


 レイクは背を向け手を振りながら歩いていく。


 その後も山賊たちは、落とし穴を掘ったり、頭上から岩を落としたりして仕返しを企んだが——

「あ、道に穴が開いてる。あぶねーな」と踏み越えられ、

「岩が落ちてきた! えいっ」とレイクが無意識に反発の魔法で弾き飛ばし、ことごとく失敗。


 仕返しをするつもりが返り討ちに遭い続け、気づけばレイクは、本物のマーリンの家へと辿り着いてしまっていた。

◇


「……ん? なんじゃお主は」

 家の前で鉢合わせたのは、気難しい顔をした本物の老人・マーリンだった。

「えッ? さっき爺さん…さっきあっちの道で木を切ってなかったか……?てことは、大道芸人じゃなく本物だったのか。」

「誰が大道芸人じゃ」

マーリンは呆れて呟く


 首をかしげるレイク。そこへ、ボロボロになりながら追いかけてきた山賊たちが、息を切らせてなだれ込んできた。

「え!爺さんが2人!!魔法で分身!?いや、これも芸なのか?」

レイクはまた首をかしげる

「だからわしは大道芸人じゃないと言っておるじゃろ!!」

マーリンが声を荒らげる。

「ハァ……ハァ……! もうガマンできねえ! 変装なんかヤメだ! あの時の股間の恨み、ここで晴らしてやる!!」


 ヤケクソになった山賊たちが変装を解きナイフを持ちながらレイクに襲いかかろうとしたその時。

「——やかましいわ不届き者が!!わしの敷地で暴れるな!!」


 マーリンの鋭い一喝が響く。その場の空気が一瞬で凍りついた。


 マーリンはレイクが手に持っていた紹介状を一瞥すると、ニヤリと不敵に笑った。

「なるほど、メドロードの使いか。おい小僧、お主の力を見せてみい。その不届き者を追い返してみせたら、面倒を見てやらんこともないぞ」

「え、わかった! おれに任せとけ!」


 レイクはニッと笑うと、襲いかかってくる山賊たちに向かってまっすぐに手をかざした。

(10年間……毎日毎日、ずっと欠かさず練習してきたんだ。目一杯の力で、浮かせる!!)


 レイクが体内の魔力を一気に解き放った、その瞬間。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

「な、なんだ!? 地鳴り……!?」

「家が、家が揺れてるぞ!?」


 浮いたのは、山賊たちだけではなかった。


 レイクが放った規格外の『物体浮遊』は、山賊どころかマーリンの家ごと、屋根をバリバリと引き剥がして浮き上がらせたのだ。

「うわああああああああっ!?」

キラーン


 10年分の魔力が込められた圧巻の押し上げた力により、山賊たちは屋根もろとも遥か彼方の空へと吹き飛ばされていった。

「ふう……追い払えたぞ!」


 満足そうに汗を拭くレイク。

一瞬にして青空が見える「屋根なし住宅」になった我が家を見上げ、マーリンは呆然と立ち尽くしていた。


 しかし次の瞬間、マーリンは楽しそうにクックッと喉を鳴らして笑い出した。

(ほぉ〜……これはこれは。メドロードよ、お主は人を見る目もあるのか。どこまでも計り知れんのう……お主も、この小僧も)


 マーリンは青空が広がる家を背に、レイクに向き直った。

「よい度胸じゃ。合格じゃよ、レイク。今日からここで修行をしなさい」

「おう! !よろしくな、マーリンの爺さん!」

「あと、屋根の修理はしてもらうぞ。」

「え、あ、すみません…」


 こうして、10年間基礎魔法を練り続けた少年と、謎の老人マーリンとの新たな修行の日々が始まったのだった。

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