旅立ち
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盗賊の罠にハメられ、単身で『龍の洞窟』へとのり込んでしまったレイク。
「グアァァァァァッ!!!!」
洞窟の岩壁を揺るがす凄まじい咆哮。
目の前まで迫る巨大なドラゴンの牙。
(やばい……ッ!! 死ぬ……殺される……!!)
圧倒的な死の恐怖に支配され、レイクがぎゅっと目を瞑った——次の瞬間。
ドーーーーーーンッ!!!!
洞窟内に響き渡る破砕音。
全身を突き抜けるような衝撃波。だが、いつまで経っても痛みはやってこない。
恐る恐るレイクが目を開けると——視界を覆っていたのは、黄金の光を纏う青年のたくましい背中だった。
「大丈夫か、レイク?」
振り返り、ニッと不敵に笑いかける青年。
「メドロード……!!」
「おれを心配してくれたんだな。ありがとう。離れて避難してろ」
メドロードはそう優しく声をかけると、目の前で唸るドラゴンへ向けて、すばやく大剣を抜いた。
ここから、激怒したドラゴンと王国最高の騎士メドロードの激しい打ち合いが始まった。
ズガァン! ドカァン!!
洞窟内に刃と爪の衝突音が響き渡り、火花が散る。
メドロードの剣技は圧倒的だった。しかし、狭く足場の悪い洞窟内。衝撃波でレイクを巻き込まないよう配慮しながらの戦いでは、どうしても立ち回りに制限がかかってしまう。
猛攻を凌ぎ切った一瞬、崩れた落石にメドロードの足がわずかに取られた。
(しまった……!)
ドラゴンはその僅かな隙を見逃さなかった。
勝ち目がないと悟ったのか、あるいは狡猾さゆえか——ドラゴンは標的をメドロードから、後ろで離れて見守っていた無力なレイクへと再び切り替えたのだ!
「グアアアッ!!」
体制を崩したメドロードを無視し、ドラゴンは再びレイクへ向かって牙を剥いた。
「レイクッ!!」
メドロードの叫びが響く。だが、体制を崩した位置からでは攻撃を遮るのが間に合わない!
(やばい!こっちに来る!どうする!!どうしよう!!)
レイクの脳裏に描き出すのは、この2ヶ月間、毎日毎日手を血に染めながら繰り返してきた『物体浮遊』のイメージ。
「だぁーーーー!!!」
レイクは両手突き出し、体内の奥底に眠る未知の魔力が爆発的に解き放たれる!
ガアァァンッ!!
「ギ……ッ!?」
空間そのものが歪んだかのような衝撃音。
あり得ない光景だった。
レイクの両手の前に展開された不可視の巨大な力。山ほどの巨体を持つドラゴンが、力任せに後ろへ大きく仰け反ったのだ。
「レイク……お前……『浮遊』を反転させて『反発』に昇華させたのか!?」
目の前の光景に一瞬目を疑ったメドロードだったが、すぐさまその顔に熱い笑みを浮かべた。
「いや、レイクよくやった!」
この千載一遇の隙を、メドロードが見逃すはずがなかった。
地を蹴ったメドロードの黄金の大剣が、体勢を崩したドラゴンの首元でピタリと止まる。
全能力を解放した圧倒的な眼光と覇気。
「これ以上動けば、首を落とす」
そう雄弁に語る青年の圧倒的な威圧感に、己の敗北と相手の器を悟ったドラゴンは、低く唸り声を上げると、静かに首を垂れて争う意志を収めた。
◇
ドラゴンと和解を果たした帰り道。夕焼けに染まる一本道を、二人の影が伸びていた。
レイクはメドロードのたくましい背中に、ちょこんと背負われていた。
泥と汗の匂い。だが、世界で一番温かい背中だった。
「ドラゴン、本当に悪いやつじゃなかったんだ。おれ知らないことばっかりだ。」
「あぁ。穏やかに洞窟に暮らしているだけだ。村人もドラゴンもお互いに生活を尊重し合えれば問題なさそうだな。」
レイクはメドロードの肩に顔をうずめながら、ふと小さな声で呟いた。
「ねぇねぇ。メドロード。もう村にはいなくなるの?」
「あぁドラゴンも問題なさそうだ。万が一に備え村にはおれ達騎士団の結界も張ってある。明日には村を発つよ。」
「そっか…」
「どうした? 寂しいのか?」
背中から投げかけられる優しい声に、レイクは少しだけ首を縦に振った。
「うん。寂しいよ。でも、おれ決めたんだ。」
「?」
背中で息をぐっと吸い込み、レイクは小さな拳をギュッと握りしめた。
「おれ、世界を冒険したい。誰よりも自由に、世界がどんなものなのか全部見に行くよ。そのために。。。メドロード、お前みたいに強くなる。お前より強くなって、世界の全部を知るんだ。」
それを聞いたメドロードは一瞬驚いたように目を見張り、それから嬉しそうに口元を緩めた。
「へぇ〜おれを超えるか。楽しみだ!」
メドロードは力強く笑うと、背中のレイクを少しだけ持ち上げるように押し直した。
「ならレイク、15歳になったら村を出て北西にあるマーリンという爺さんの家を訪ねろ。地図は後で渡す。そこで魔法を学び王国の騎士学校に行け。」
そしてメドロードは続ける。
「そこで学び立派な騎士になったら世界を冒険するんだ。おれのようにな。どちらが世界を冒険し世界の全てを先に知るのか。競走だな。」
「うん!絶対おれの方が先に世界を知る!!負けないからな!」
「あぁ約束だ。」
メドロードは優しく、しかし少し切ない目でそう呟いた。
沈む夕日に向かって、二人は固い誓いを交わした。
◇
それから、10年の月日が流れた。
『ものを浮かす魔法』を毎日やった。いつのまにか巨大な岩も軽々と浮かすようになった。
そして——15歳の誕生日。
ボロボロの荷物を背負い、少年から精悍な若者へと成長したレイクは、生まれ育ったトレース村の境界線に立っていた。
「待ってろよ、メドロード……!」
レイクは村人に別れを告げ真っ直ぐに前を向いて歩き出した。
少年の、夢への冒険の旅が、ここから幕を開ける——。




