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龍の洞窟

「「「カンパーイ!!!」」」

騎士団の活躍によって盗賊団は追い払われ、トレース村は歓喜の宴で盛り上がっていた。


「ささ! 団長殿、たくさん食べておくれ!」

「騎士団様のおかげで、村の平和は守られました!」

「おいおい、よせって。この村のみんながいたから守れただけの話だ」

メドロードはそう言うと、村全体へ向けて声を張り上げた。


「今日の盗賊団を未然に防げなかったのは、俺たちの責任だ。だからこの宴の食料と酒代は俺たちが持つ! ほんの詫びだが、みんな存分に楽しんでくれ!」

「「「おおおおーーーーーっ!!」」」

「なんて懐の大きい人だ……」と感動する村人たち。


 一方で、騎士団員たちは呆れ顔だ。

「ったく団長、自分がたらふく飲みてぇだけだろ?」

「団長のおごりなら、俺たちも好きなだけ飲ませてもらうぜー!」


 盛り上がる宴の中、隅っこでむすっと顔を伏せているレイクがいた。

「おいレイク。団長もああ言ってるんだ、楽しもうぜ?」

「いいんだ、おれは」

「何だレイク? まだいじけてんのか?」

近づいてきたメドロードに、レイクはプイッと横を向いた。


「いじけてなんかない! おれだけでも何とかできたんだ!」

「まだそんなこと言ってんのか。お前はまだ子どもだ、あんな危険を犯す必要はない」

「おれはその辺のガキと違う! もう立派に盗賊くらい懲らしめられるんだ!」

「でも、最後は危なかっただろ?」

「へッ! 何とかなったね!」


 強がるレイクに、メドロードは苦笑しながら手をひょいと宙へかざした。

すると不思議なことに、テーブルの上の皿やフォーク、スプーンがフワリと宙を舞い、レイクの目の前に綺麗に並んだ。


「すっげー! メドロードも魔法使えるんだ!」

「当たり前だろ、俺は騎士団長なんだから。……それならお前に簡単なやつを教えてやるよ」

「ほんと!?」

「ああ、いいとも」

「やったー!」

現金に目を輝かせるレイクを見て、メドロードは(まったく、かわいい奴だな)と優しく目を細めた。


「なぁメドロード、世界の話をもっと聞かせてよ! 世界はもっと広いんだろ?」

「またその話か。好きだなあ……どこまで話したっけ?」

「えっと、海っていう一番広いやつと、火山と、砂漠!」

「そうか。じゃあその続きだな」

水の中に住む人々、何倍もの大きさの巨人、小さな精霊、そして恐ろしい化け物——。

メドロードが語る世界の姿に、レイクは胸を躍らせた。


「すっげーな! おれも見に行きたい! いまメドロードたちが調べてる洞窟には、ドラゴンがいるんだろ!?」

「ああ。恐ろしい化け物だが、良い奴もいる。村の安全も含めて調査しに来たんだ」

「いいなー! おれも連れてってよ、ドラゴン退治!」

「ガキにはまだ早いな」

「なんだとー!」

「なら、これ飲んでみろ」


 メドロードから差し出されたコップの液体を、レイクは一気に口に含んだ。

「ブーーッ!!!!」

「苦っ! なんだこれ!?」

「酒だよ、レイク!」

「ハハハ、レイクにはまだ早かったな!」

ドッと沸き立つ騎士団員たち。

「そんな酒も飲めないガキにはまだ早い」

「なんだと!! おれはドラゴンにだって負けないぞ! 連れてってよー!」

「まぁまぁ。わざわざ危険な場所に、団長もお前を連れて行きたくないんだよ」

副団長の言葉に、メドロードも頷く。

「そういうことだ。それにドラゴン退治じゃない。悪いドラゴンとは決まってないし、戦う必要もないかもしれないしな」

「ちぇ……(なんだ、ドラゴンにビビってるだけじゃん)」

心の中で悪態をつくレイク。


 「またむすっとしたな。魔法、教えてやらないぞ?」

「ええっ!? やだやだ! 魔法教えてよ!」

「ならこっち来い」

「うん!」

◇

 それから月日は流れ——。

レイクはメドロードに教わった『石を浮かせる魔法』の練習を毎日続けていた。

手のひらの上で、ゆらゆらと小さな石が浮いている。

(こんな魔法だけで、本当に強くなれるのかな……)


 『いいかレイク。物体浮遊は魔法の基礎だ。当分はこれを極めるんだな』

メドロードの言葉を思い出しながら、レイクは呟く。


 「かれこれ2ヶ月も、毎日こんな特訓ばかりだ……」

「おい、レイク。作物を運ぶの手伝ってくれ」

「はーい、村長!」


 作物を倉へ運び込みながら、村長は優しくレイクに語りかけた。

「レイクや。魔法の修行もいいがな、平和に安全に生きていくことこそが一番の幸せなんじゃ。危険な真似はするんじゃないぞ」

「村長のじいちゃんも、みんなと同じこと言うんだね。……でもおれは、この村にないたくさんのもの、世界中にあるものを知りたいんだ!」

折れない瞳で空を見上げるレイク。

少年の心の中で、外の世界への情熱はますます強く燃え上がっていた。


 その様子を、少し離れた草むらの陰から不気味に盗み見る複数の視線があった。

かつてレイクたちの活躍(?)によって追い返した盗賊団だ。

村の周辺に潜伏していた彼らは、悔しそうに歯をギリッと鳴らした。


 「このまま引き下がれるかよ。あのガキのせいで俺たちの立場は丸潰れだ……!しかも村に滞在してるのはあの『英雄メドロード』ときた。」

「なあ、いい作戦があるんだがよ」

ガイモが、不敵な薄笑いを浮かべて仲間の耳元に顔を近づける。

「村の奥にある『龍の洞窟』……あそこに狂暴なドラゴンが眠ってるのは知ってるだろ?」

「ええ。メドロードの奴らが調査に行ってる場所ですね」

「あのガキに『メドロード様が洞窟でドラゴンに急襲されて危ない!』って嘘吐いて唆せば、後先考えずに飛びつくはずだ」

「なるほど……! ガキを騙して洞窟に放り込んじまえば、腹を減らしたドラゴンが勝手に噛み殺してくれるってわけか!」

「俺たちの手も汚れねぇし、あのガキも消える。最高の作戦だろ?」

「ヒヒッ……決まりだな!」


 コソコソと邪悪な作戦会議を終えた盗賊の一人は、ニヤつきそうな顔を必死に隠しながら、レイクの元へと駆け出していった。

◇

 「おい、大変だレイク! メドロード様が……奥の『龍の洞窟』でドラゴンに急襲されて、怪我を負って動けなくなっちまった! このままだと殺されるぞ!!」

「なっ……!? メドロードが……危ない!?」

自分を助けてくれた、世界で一番かっこいい大好きな青年。

そのメドロードがピンチだと聞いた瞬間、5歳のレイクの頭からすべての冷静さが吹き飛んだ。


「待ってろメドロード! 今すぐ助けに行く!!」

疑うことすらなく、レイクは山奥の洞窟へ向けて一目散に走り出した。

背後で盗賊たちが「ヒヒッ、まんまとかかりやがった! 自分の足でドラゴンの胃袋に飛び込みに行きやがったぜ!」と腹を抱えて笑っていることにも気づかずに。

◇

 同じ頃——。

調査から村へ戻ってきたメドロードは、馬から降りて汗を拭っていた。


 「ふぅ……今日の調査はこんなもんか」

そこへ、青ざめた表情の村人が息を切らせて駆け寄ってきた。

「だ、団長〜〜〜〜ッ!! レ、レイクが、レイクがぁっ!!」

「ん? レイクがどうした? また盗賊でもぶん殴ったか?」

呑気に応じるメドロードだったが、村人は必死の形相で叫んだ。


 「違うんです! 改心したと思ってた盗賊達が、『団長が龍の洞窟で危険だ』って嘘を吹き込んだらしくて……! レイクの奴、団長を助けるんだって言って、一人で『龍の洞窟』に走り込んじゃったんです!!」

「レイク!!」

メドロードの表情が一瞬で跳ね上がる。

相手は人間に害をなすつもりがないとはいえ、眠りを妨げられたら容赦なく牙を剥く巨大なドラゴンだ。5歳児のレイクが入り込めば、一瞬で噛み殺される。

メドロードは疾風のような速さで山奥の洞窟へと向かった。

◇

 「メドロードー! どこだー! 今助けるぞー!」

薄暗く冷気が漂う洞窟の奥深く。

レイクの声がむなしく響き渡る。どれだけ奥へ進んでも、メドロードの姿はない。


 その時だった。

グラグラグラ……!!

洞窟全体が激しく揺れ動き、暗闇の中から二つの巨大な赤光が浮かび上がった。


 「グアァァァァァッ!!!!」


 洞窟の岩壁を揺るがす凄まじい咆哮。

そこにいたのは傷ついたメドロードではなく、全身を漆黒の鱗で覆った巨大なドラゴンだった。


 「ひっ……!?」


 あまりの巨大さと凄まじい威圧感。

眠りを妨げられて激怒したドラゴンが、血走った目で目の前の小さなレイクを睨みつける。

死角から一気に牙を剥き、レイクに向かって一直線に巨大な顎が迫る!


(やばい……ッ!! 死ぬ……殺される……!!)

圧倒的な死の恐怖。息ができない。ガクガクと膝が震え、恐怖で全身の血が引き引いていく。

死の恐怖に支配されたレイクは、ぎゅっと強く目を瞑ることしかできなかった。

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